北斗晶さん、南果歩さん、生稲晃子さん、小林麻央さんなど乳がん罹患を公表する有名人が相次いでいる。そのたびにテレビなどで繰り返されるのが「乳がん検診を受けましょう」という呼びかけだ。
テレビの出演者や記事を書く人たちは、「早期発見・早期治療すれば、がんは治せる」と信じ、よかれと思ってそうするのだろう。だが、筆者は、こうした悪弊は早くやめてほしいと願っている。なぜなら、ここ数年、乳がん検診の効果が限定的であることを示す研究結果が相次いでいるからだ。
海外ではむしろ、乳がん検診に懐疑的
たとえば、2014年にカナダのトロント大学のグループが報告した研究によると、40歳から59歳までの女性約9万人を20年以上追跡した臨床試験のデータを解析したところ、乳がん検診を受診した群と受診しなかった群とで死亡率に差が出なかった。
さらに、翌15年に報告された米国ハーバード大学とダートマス大学の研究でも、乳がんと診断された約5万人を10年間追跡したデータを解析したところ、検診受診率が10%増加すると乳がんの診断数が全体で16%増加する一方で、乳がん死亡率は減少しないという結果だった。
つまり、検診で早期の乳がんをたくさん発見しても、それが乳がん死亡者数の減少には必ずしもつながっていなかったのだ。こうした研究を受けて、スイスでは国の医療委員会が乳がん検診を廃止する勧告まで出している。海外ではむしろ、乳がん検診には懐疑的になってきていると言えるだろう。
問題はそれだけでない。実は、検診による「害」も想像以上に大きいことがわかってきている。
たとえば、英国の乳がん検診独立専門委員会が12年に発表した論文によると、過去の臨床試験のデータを検証したところ、50歳の人が20年間乳がん検診を受けたと仮定すると、1万人のうち43人の乳がんによる死亡が防げる一方で、129人が過剰診断を受けるという結果が出た。
さらに同じ年、米国オレゴン健康科学大学の研究者が発表した論文でも、過去約30年間の検診データを検証したところ、検診で発見された乳がんの実に3分の1にあたる、130万人もの米国人が過剰診断を受けたと推計された。
「過剰診断」とは、治療の必要のない異常を見つけることを言うが、がん検診の場合は「命に関わらないがん」を発見することを指す。