漫画家でエッセイストの柴門ふみさんは、2010年に初期の乳がんと診断を受け、今では完治されています。闘病中を振り返ると、怒りや恐怖について考えつづけるよりは、映画を見たり小説を読んだりして、上手に脳を切り替える方が良策だといいます。術後、ホルモン療法による副作用に苦しみながらも、仕事を続けてこられた原動力とは。支えてくれた、大切な「ご家族」のお話もお聞きしました(前後編インタビュー。#1も公開中です)。
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『人間臨終図巻』を読み直して「死は特別なことではない」
──入院中や退院直後は動けないほど辛かったとお聞きしましたが、どうやって気持ちを上向きにされたんですか。
入院中や退院してしばらくは「いい休暇だ」と思うようにしていました。「どうせ動けないから、いつか読みたいと思っていた本をこの機会に読もう」と、芥川・直木賞受賞作品をまとめ読みして。『人間臨終図巻』(山田風太郎/徳間文庫)は昔から家にあったのですが、この時期に読み直して、励みになった本です。古今東西、歴史上の人物たちの亡くなった年齢と死因が書かれているのを読むと「死ぬこと」は決して特別なことではない、と心の基盤ができた気がしました。
──『人間臨終図巻』ですか。
私ががんと診断された53歳では、有吉佐和子さん、喜多川歌麿、ベーブ・ルースなど、偉大な方たちが亡くなっていると知ると、「死は英雄にも平等に訪れるものなんだなあ」と、心が落ち着きました。「最初の世界一周の道程3分の2を実現したマゼランが、フィリピン群島中のマクタン島で先住民に槍に刺されて41歳で亡くなった」などの事実も衝撃的でした。
がんのことは新連載の担当と編集長以外には伏せていた
──インターネットなどで情報を調べるのも、自分の考えを整理するのに役立つと思いますか。
検索しまくった私が言うのもなんですが(笑)、「ネットは見ない」に限ります。それと、夜は寝る。妄想が悪い方に広がってしまうので。あとは昼間、同じような経験がある女性と話をすると、気持ちが楽になりました。同じような体験をした女性同士だと、「乳がんなの? 私も」と、本音で話せるので。
──婦人科系の病気だと特に、男性には言いづらいこともありますよね。わかってもらえないもどかしさとか……。
がんが分かった時は、ちょうど連載と連載の合間だったので、新連載の担当と編集長にだけ打ち明けて、ほかは一切伏せていました。友だちにもほとんど話しませんでした。月に1回の、「とくダネ!」のコメンテーターの仕事も、手術前と手術後に普通に収録をこなしたくらいです。騒がれるのが面倒という気持ちと、「男の人にあまり知られたくない」という気持ちがありました。