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20歳で夢を叶えた人気作家が、後輩の女子高生たちに伝えたこと

阿部智里、母校に帰る──「夢を仕事にするということ」

 人気爆発中の八咫烏シリーズhttp://books.bunshun.jp/sp/karasu)が累計100万部を突破、新刊『烏百花 蛍の章 八咫烏外伝』も忽ち増刷、勢いの止まらない阿部智里さん。史上最年少の20歳で松本清張賞を受賞し、今年でデビュー6年目の阿部さんは、物心ついたときから「作家になる」と決めており、その夢に向けて大きな一歩を踏み出したのは、わずか16歳の高校生のときでした。

 4月25日、母校・群馬県立前橋女子高校の開校記念式典で、阿部さんは「夢を仕事にするということ」というテーマで講演。阿部さんのまっすぐな言葉は高校生たちに強烈な印象を残しました。夢に向かってもがいている人にも、夢が見つからなくて焦っている人にも、阿部さんからのメッセージをお届けするべく、ここに採録します。

烏百花 蛍の章 八咫烏外伝

阿部 智里(著)

文藝春秋
2018年5月10日 発売

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 ただいまご紹介にあずかりました阿部智里です。ここに座りながらだと、みなさんとあまりに距離が遠いので、ちょっと近付きながらお話をさせていただきたいと思います(椅子から立ち上がり、ステージの中央へ)。

 ひとつ、最初にお願いがあります。人間にとって、あるものに価値があるかどうかというのは、その人次第です。この写真を見てください。何もない道ですよね。でも、見方を変えてみたら、もしかしたらこの道は歴史的な街道かもしれない。右手にある木がすごく珍しい木かもしれない。夜になったらここはものすごい星空に変わるかもしれない。見る人がどの分野に興味や関心があるかによって、この一枚の写真の価値もまったく変わってくるわけです。

©文藝春秋

つまらなかったら寝てください

 そして今日の私の話というのも同じで、「ものすごく面白い」って思う方もいれば、「いや全然つまらない」と思う方もいると思うんです。ですから、もしつまんないなと思ったら寝ていていいです。そして先生方はそういった人がいたとしても、この時間だけはどうか見逃してください。

 というのも、高校生のときに非常に悔しかった思い出があって、とある講演会にいらした小説家の方が、「近頃の小説家志望の若いやつは……」と一方的に決めつけて話をされて、「コノヤロー」って思ったんですね(笑)。それと同じことをしたくないんです。

 みなさん、私とあなたたちとの間には何の差もありません。同じ人間同士として今日はお話させていただきたいと思います。ですから、今、足を揃えてきちっとされていますけれども、のんべんだらりと姿勢を崩してしまって結構です。楽しく行きましょう(会場笑)。

人生最初の大きな分かれ道

 今日の題目は「夢を仕事にするということ」。先にネタばらしをしてしまいますと、私は小さい頃からプロの作家になりたいと思っていました。それと同時に、たいへんな問題児で母親や幼稚園の先生たちを困らせてばかりいました。それはどういうことかというと、「ねぇねぇ、あそこに、風の妖精が飛んでるよ」とか普通に言っていたんですね(笑)。虹を食べたとか、雨が降ってきたときに、大きなきのこを見つけてそれを傘にして帰ってきたとか。

©文藝春秋

 でも、そこで私の父と母は「そう、そうだったんだね」と一切否定をしなかった。私はそれが一番最初の大きな人生の分かれ道だったと思っているんです。そこで「そんな嘘ばっかりついて」と怒られずに、面白がって聞いてくれたことで、自分が想像しているものを言葉にすると、周囲が面白がってくれるというのが原体験としてありました。赤城山の中腹にある幼稚園にバスで通っていたので、片道30分かかるバスの中でも、自分の考えたお話を友だちや先生の前でずっとしていたんです。

作家になるのではなくて、生まれた時から作家だった

 小学校にあがり、文字を知り、私はやがて小説を書くようになりました。そして、あの有名なハリー・ポッターシリーズが、私の人生を2番目に変えたものでした。『ハリー・ポッターと賢者の石』を読んだ時に、あまりに私が夢中になっているのを見て、母が「そんなに本が好きなんだったら、作家になればいいじゃない」って言ったんですね。その時初めて、自分がいつも楽しんでやっていることが仕事になるんだということを知ったんです。

 生意気と言われるかもしれませんが、私は自分のことを、生まれながらにしての作家だと思っています。作家になるというのではなくて、私は生まれた時から作家だったのだと思います。自分がこれまで楽しんでいたことが作家という職業になるんだ、と6歳か7歳の頃に知り、それ以来プロの作家になるということを自分の人生の目標にして生きてきました。その気持ちがブレたことは、1回もありません。

 しかし、そこで問題が起きます。どうやったらプロの作家になれるのか? これが私の6歳から15歳ぐらいまでの10年間、非常に難しい問題になりました。

烏は主を選ばない 八咫烏シリーズ 2 (文春文庫)

阿部 智里(著)

文藝春秋
2015年6月10日 発売

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