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無かったことにされる「男の育児」と「高齢者問題」の顛末

回避できない未来の椅子を、どう並べるか

2018/06/01
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小泉進次郎さんだから許される内容なんじゃないかという提言

 そんななか、先日小泉進次郎さんが「高齢者という名称を見直そう」という提言を取りまとめておりました。あっ、はい。いや、まあ人生100年構想であり、人間は死ぬまで現役であるべきで、生産的であってほしいと主張するのは分かるんですよ。実際、日本の社会保障も医療も年金も、日本人がみんなこんなにも長生きするとは思っていなかったころの前提で設計されていますから、長く現役で働けるよう制度を見直していこうというのは賛成です。

「高齢者の名称見直しを」自民・小泉進次郎氏主導で提言:朝日新聞デジタル
https://www.asahi.com/articles/ASL5Y563HL5YUTFK00X.html

小泉進次郎議員 ©getty

 一方で、これと同じことを例えば冒頭の萩生田光一さんが座長になって取りまとめていたら、果たしてみんな「なるほどですね」と受け止めたかという問題はあります。小泉進次郎さんだから許される内容なんじゃないかと思うぐらい、なんか凄いこと言ってるんですよ。「個々人の生き方・終(しま)い方を根本に立ち返って考え、見直していく」とか、なんでこう、自民党に私ら国民の死に際まであれこれ見直されなきゃいかんのか、という気持ちにはなります。

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 また、官邸でも我らが安倍晋三総理が中心となって「人生100年時代構想会議」ってのが報告書を出していて、社会保障改革国民会議の結果を受けて総花的な政策パッケージが記されております。読んでて目がちかちかするぐらい全部盛りなんですよ奥さん。もちろん、中には萩生田さんが喋っていた幼児教育の無償化や待機児童の解消も入ってますよ。

https://www.kantei.go.jp/jp/singi/jinsei100nen/pdf/chukanhoukoku.pdf

人様の人生をどうしたいのかを政府や政治家が議論する前に

 でも、実際に起きていることは第7次医療計画にも見られる通り、「もうこれ以上は国庫負担では賄いきれないので、地域や家庭に担ってもらう」という筋道であります。いや、これはもうどうしようもないのだと思います。政策面でいくら頑張っても、またメディアがどう問題を切り直しても、もうすでに起こった未来を回避することはなかなか不可能だということの証左でもあります。幾ら感情で「聞け、父親の声を」とメディアがブチ上げても、あるいは「どう人生を生き抜きたいかをしっかりと考えていかないといけない時代」と小泉進次郎さんが思いを語っても、それは沈みそうな船の上で椅子を並べ替える作業に等しく、粛々とやるべきことを全部やって、いつ船が沈んでもいいように準備をしておく以外に方法はないのかな、と思うわけであります。

©iStock.com

 結局、出生率が下がったのは若い夫婦が子供を持つのが経済的な負担だから育児が問題だとなり、人生100年構想だというのも想像以上に高齢者が増えすぎて社会保障が持たないから生涯現役で頑張れる社会づくりをしようという、哲学なき泥縄を繰り返しているからいつまで経っても子供の数は増えず、社会保障費はどんどん負担が重くなり、世界4位の移民受け入れ国になっておるわけです。人様の人生をどうしたいのかを政府や政治家が議論する前に、この日本をどういう国家、社会にしていくつもりなのかという哲学の部分が抜け落ちている限り、いつまでも問題が起きてから対処するキャッチアップ癖が抜けないんじゃないかと思うのですが。

無かったことにされる「男の育児」と「高齢者問題」の顛末

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