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前川喜平 前事務次官“初告白”「完全に右翼だった軍歌少年時代」

前文部科学事務次官・前川喜平 2万字インタビュー #1

2018/06/22

genre : ニュース, 政治

note

実は乃木大将のことを尊敬していたんですよ

――当時はどんな本を読んでいましたか?

前川 うちの親父は国内外の文学全集を家にダーっと並べていたんです。だから、暇に任せて小学生の時からめくってはいました。家の文化的環境って大きいなって思いますけど、影響を受けたものは何だろうな……。ドストエフスキーの『カラマーゾフの兄弟』は、とにかく全部読んでみようと思って読破しましたね。絶対の真理とか、絶対の倫理とか、そんなものってあるのかどうか、ずいぶん考えたものですよ。ドストエフスキーはこれと『罪と罰』しか読んでないですけど。

――分厚いところを2作品も。

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前川 途中でやめた本も多いですよ。ドストエフスキーの『二重人格』とか、わかんなかったなあ。

 

――音楽はどんなものを聴いていましたか?

前川 家にあったレコードといえば親父が早稲田なもんだから、A面が早稲田の応援歌、B面が慶応の応援歌っていうやつ。よく聴いてましたね。あとは軍歌が多かったですね。

――軍歌ですか!

前川 私が結構好きだったのはね、『出征兵士を送る歌』。

――「我が大君に召されたる~」

前川 えっ! よく知ってますね。

――私、軍歌の研究もしているので……。

前川 それはそれは。『空の神兵』、あれもいい歌ですよね。それから国民歌の色合いが強いけど『愛国行進曲』。『戦友』は「ここは御国を何百里~」か。そうだなあ、あとは『軍艦マーチ』も好きだったですよ。「守るも攻むるも黒鉄の~」。あとこれは軍歌ではないけども『水師営の会見』。

――乃木大将ですね。

前川 僕、実は乃木大将のことを尊敬していたんですよ。小学、中学くらいまでは相当に。『海ゆかば』も好きです。あれは音楽作品としてかなり優れたものだと思います。「大君の 辺(へ)にこそ死なめ かえりみはせじ」ってね。まぁ、『水師営の会見』だの『海ゆかば』だの『愛国行進曲』だの、完全に右翼って言ってもいいくらいですよ、そういう意味では。

 

軍歌好きから反戦歌好きに

――意外ですね……。他にはどんな音楽を聴いていましたか?

前川 あとはクラシックですね。はじめはベートーヴェンばっかり聴いてました。それからチャイコフスキー、ブラームス。交響曲系が好きで、マーラーにも広がっていきました。ショパンやベルリオーズの『幻想交響曲』もいいですね。でもやっぱり、ベートーヴェンはすごいと思う。

――ポピュラー音楽はいかがでしたか?

前川 フォークソングはよく聴いていました。高校生くらいのときにフォーク・クルセダーズが出てきて、これは衝撃的でした。「おらは死んじまっただ~」の『帰って来たヨッパライ』。これ、歌かよ? って。でも、フォーク・クルセダーズで好きなのはやっぱり『イムジン河』『悲しくてやりきれない』。フォークソングというと、やはり反戦歌が多いわけで、外国であればピーター・ポール&マリーの『花はどこへ行った』。この歌はキングストン・トリオのほうが好きですけどね。

――軍歌好きが反戦歌好きになったんですね。

前川 まぁ、いろんなものが若い頃にどんどん入ってきたわけです(笑)。そうやってカオスの中から人間ができていくんじゃないですか。

 

写真=榎本麻美/文藝春秋 

#2  前川喜平前次官が語る「思想的には相容れない、加戸守行さんのこと」
http://bunshun.jp/articles/-/7862

#3  安保法制反対デモに参加した事務次官 前川喜平が語る「安倍政権下の“苦痛な仕事”」
http://bunshun.jp/articles/-/7863

まえかわ・きへい/1955年生まれ。1979年文部省入省。2017年1月、文部科学事務次官を辞任。近刊に『面従腹背』(毎日新聞出版社)。

前川喜平 前事務次官“初告白”「完全に右翼だった軍歌少年時代」

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