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浅利慶太さんが遺したメッセージ「個性を失ってしまった日本への遺言」

2018/07/18

source : 文藝春秋 2016年9月号

genre : ニュース, 社会, 芸能

劇団四季の元代表で演出家の浅利慶太さんが、7月13日に85歳で亡くなりました。およそ2年前に綴った、個性を失ってしまった現代の日本を憂えた手記を、追悼とともに掲載します。

(出典:文藝春秋2016年9月号)

 今の日本を見ていると、平穏すぎて不安になることがあります。言い換えれば、社会にエネルギーが感じられない。

 私たちが劇団四季を立ち上げた63年前、日本には良い意味で「対立」がありました。政治の世界では社会を引っ張って行こうとする強い勢力と、それに抗う人たちがいて、その対立がエネルギーを生み出していました。

 当時、演劇界には政治的思想を前面に出す新劇人たちが大勢いて、そこに演劇という芸術本来の輝きを大切にし“人生の感動”を謳い上げる劇団四季が登場し、対立軸となりました。

 しかし最近の日本を見ていると、社会は安定していますが、中性化、没個性化しているように感じます。

 演劇の世界では、素質と能力に恵まれた若い役者は増えたけれど、「祈り」がない。演劇を愛し、芝居に全身全霊で魂を注ぎ込むというより、職業として役者を選んでいるのかもしれません。

若き日の浅利さん(右)、左は石原慎太郎氏 ©文藝春秋

 一人ひとりの個性が強いほど対立や摩擦は生じますが、無個性で安定しているところに対立は起きません。その代わりにエネルギーも生まれてきません。

「対立」といっても、私は戦争を肯定するつもりはありません。空襲、疎開を経験し、東京の焼け野原を目の当たりにした者として、戦争を恐れる気持ちは誰よりも強い。

長野冬季五輪のプロデューサーの頃 ©文藝春秋

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