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86歳 小林亜星が語る「僕と寺内貫太郎、それぞれの戦後73年」

86歳 小林亜星が語る「僕と寺内貫太郎、それぞれの戦後73年」

作曲家・小林亜星インタビュー#2

note

親戚に大滝秀治さんがいるから、ビクビクしながらやってた

――肝心の向田邦子の反応はどうだったんですか?

小林 最初は「あんなスケベそうな人」って嫌がってたそうなんですけど、久世さんがTBSにあった床屋で坊主にして来いって言うの。で、その頭で半纏着せられてるのを向田さんが陰から見てて「これが貫太郎よ!」って言ったそうでね。それでもう、断れなくなっちゃった。

――あれよあれよと。

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小林 そうですよ、まったく嫌んなっちゃったなあ。実は僕の親戚に大滝秀治さんがいるんです。僕の妹の旦那さんのお姉さんの旦那さんが大滝さん。別に相談はしなかったけど、観られたら「お前やめろ」なんて言われるかな、なんてビクビクしてました。

1980年8月 向田邦子の直木賞授賞式。右から小林亜星、加藤治子、森光子、向田邦子、森繁久彌 ©文藝春秋

――ちなみに、寺内貫太郎の名前は陸軍大将・寺内正毅と海軍大将・鈴木貫太郎からとったのではという説があるのですが、聞いたことはありますか?

小林 それは初めて聞きますね。そう言われてみればそんな気もしますが……。

西城秀樹ファンから「お前の大事なところぶった切るぞ」なんて

――貫太郎が毎回派手な喧嘩をしていた長男の周平。その役を演じていたのは西城秀樹さんでした。

小林 喧嘩のシーンは最初、どうしてもお互い遠慮してたんですよ。ところが久世さんがその遠慮に気づくと「ダメ! 本気になってやれ!」って言うんだよ。それで本気にやるでしょう。するとまともに手が当たったりするから、だんだんコノヤロウって気になってくる。最後は西城さんを縁側から庭に突き飛ばすくらいまでになって。

――本当に怪我することはなかったんですか?

小林 ありましたよ。西城さん、包帯巻いて出てくる回があると思うんですけど、あれ本当にそうですから。そのとき、西城さんのファンの女子高生から、ものすごい量の抗議の手紙が届きましたよ。「お前の大事なところぶった切るぞ」とか、おっかないことが書いてあってね(笑)。

 

――ドラマの後もお付き合いは続いたんですか?

小林 舞台でご一緒することもありましたし、食事に行くこともありました。作曲家として仕事をご一緒したのは1回だけですね。『ターンエーガンダム』の主題歌『ターンAターン』などで。かなりの難曲でしたけど、見事に歌いこなしてくれました。優れた音楽家だったと思います。本当に惜しい方を亡くしました。

――今年亡くなった方ですと、左とん平さんも『寺内貫太郎一家』で共演されていました。

小林 そうですよね……。あんまり長生きするもんじゃないって、つい思ってしまいますよ。ずいぶん長い時間を過ごしています、本当に。でも、戦後と一口に言っても、どこから時代は変わったんだろうなあ。いわゆる戦前、戦後みたいな区切り方がないでしょう、この戦後73年って。