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連載春日太一の木曜邦画劇場

青春を捧げ、人類のため闘うアイドルに幸あれ!――春日太一の木曜邦画劇場

『超時空要塞マクロス 愛・おぼえていますか』

2018/08/28
1984年作品(120分)/バンダイビジュアル/7800円(税抜)/レンタルあり

 近年、多くのアイドルが誕生し、消えている。

 つい輝かしい存在に思えるアイドルだが、実際には残酷な職業だ。懸命に歌い踊り笑顔を振りまく――だけが仕事ではない。多くは心身ともにまだ「子供」の延長線上であるにもかかわらず商業的プレッシャーの前線に立たされ、物販や動員のために無数のファンを相手に握手をし、恋愛することも許されず、ネットにはあることないこと書かれ、少し人気が出れば魑魅魍魎の大人に寄ってたかられ――。

 しかも、ほとんどの活動はファンの間でしか知られず、低賃金で働かされた挙句に精神的にボロボロに。その後も「元アイドル」という看板がかえって枷(かせ)になり、歌手や演技の仕事をしても色眼鏡で見られて真っ当に評価されにくい者も少なくない。そして、熱心に応援していたファンは、新しい若いアイドルが登場すれば大半はそちらに飛びつく。

 そんなアイドルたちの過酷で残酷な宿命を見ていると、その活動は「青春の浪費」とすら思えて心が苦しくなる。

 今回取り上げる『超時空要塞マクロス 愛・おぼえていますか』は、そんなアイドルについて考えさせられる作品だ。

 本作は近未来を舞台にしたSFアニメ。地球が異星人の襲撃により壊滅的な打撃を受け、五万を超す避難民は巨大艦「マクロス」に乗って冥王星軌道上へと脱出をするところから物語は始まる。

 マクロスの艦内には広大な都市が築かれ、人々は地上同様に暮らしていた。彼らはリン・ミンメイという一人の若い女性アイドルに熱狂し、その歌声に心を癒される。

 だが、彼女もまたアイドルとしての宿命を背負うことになる。戦闘に巻き込まれた際に命を救ってくれた兵士・輝と恋に落ちるミンメイ。だが、その様子はマスコミに報道され、そのために大衆の批判を受けることに。隠れてデートするも、マネージャーが連れ戻しに来る。そのくせその歌声に人類存亡がかかっているとなると、今度は二人の再会がイベントとして中継される。彼女の扱いはあくまで「個人」ではなくアイコンなのだ。

 終盤には、さらなる過酷な展開が待ち受けていた。ミンメイが敵艦に拉致されている間に、輝は上官の未沙と付き合っていたのだ。それを知って走り去るミンメイ。輝が追ってきてくれて一度は喜ぶが、それが自分を想ってではなく歌うことを頼むためと知りショックを受けてしまう。

 それでも彼女は歌う。人類の存亡を背負って。運命を受け止めた時の表情の美しさは圧巻だった。孤独だからこそ気高い。残酷だからこそ美しい。

 若さの全てを捧げて闘うアイドル。幸あれと祈るのみ。