相次ぐ大規模な自然災害に地方交通の疲弊、さらに老朽化するインフラなどまさしく“課題山積”の国土交通行政。この夏、新たに“事務方トップ”に就任した「技官」出身の森昌文次官に「一歩踏み込んだ」考えを伺いました。インタビュー第1回は「災害対策」、そして注目の「JR北海道問題」について――。(全2回の1回目)
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大規模災害「リスク・コミュニケーション」をどうするか
――最近では7月の西日本豪雨があったように、近年大規模な自然災害が立て続けに起こっています。国土計画や防災行政も所掌事務である国土交通省で、特に重要課題として取り組んでいることは何ですか。
森 これまでは自然災害への対応として、公共インフラや河川・山林などの防災強化に力を入れてきました。ですが、これからの課題として重要だと思っているのは「リスク・コミュニケーション」をどうするかです。
――リスク・コミュニケーションとは何ですか?
森 みなさんの身の回りに危険がどれだけ潜んでいるのか、どれだけ危険が差し迫っているのかをどうお伝えしていくのか、というものです。最近の災害報道では「数十年に一度」「過去最大級」という言葉がよく聞かれるようになりました。また規模だけではなく、これまで被害を受けたことがない場所にまで台風が到達する、集中豪雨が発生するなど、災害エリアの拡大も見られます。こうした状況で大きな課題となっているのは、みなさんに「備える」意識を持っていただくという、極めて基本的な、しかし重要なことなんです。
住んでいる地域が「海抜何メートル」か知ってますか?
――国交省はハザードマップを公開していますね。(https://disaportal.gsi.go.jp/)
森 ただ、これからは公開する、情報を開示しているという態度だけではならないと考えています。リスク情報をどう知ってもらい、どう活用してもらうか、積極的にコミュニケーションしていかなければならないと思っています。実際、みなさんどうですか、ハザードマップのことは知っていても自宅から避難所までのルートはどうか、避難所は知っていても途中にどういう場所があるかなど、しっかり把握している人は意外と少ないんじゃないでしょうか。住んでいる地域が「海抜何メートル」か知っている人も少ないのでは。
――たしかに海抜を聞かれても答えられないですね。
森 東京や大阪のような大都市には海抜0m以下の地帯がかなり多いんです。そこにさらに地下鉄が走って地下街もある。こうしたところで1時間あたり50mmの雨が降ったらどうなるか。足元20cmくらいの浸水被害があると、大の大人でもまともに動けなくなるんですよ。また、大きな河川が近くに流れていれば、いつ西日本豪雨のような被害が起きてもおかしくない。そういうことをみなさんに理解していただくことが、いよいよ大切になってきています。