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特集集まれ「インターネット老人会」

知らないおっさんと海に落ちる夕陽を見て泣いた話

集まれ「インターネット老人会」――読者投稿作品

2018/09/17

 文春オンラインでは、「集まれ『インターネット老人会』」特集に合わせて、読者からのエピソードを募集しました。その中から佳作として入選した作品3本を掲載します。

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 知らないおっさんと海に落ちる夕陽を見てふたりで泣いた。

 発端は同じ趣味の人を見つけるサイト。1999年、ADSLの普及により、一般家庭でもインターネットに繋げる時間が飛躍的に伸びた。これはそんな時代のさほど綺麗でもない物語だ。

29歳の巻き髪は途方に暮れてネットに逃げた

 当時私は30歳を目の前にして別れを切り出してきた元婚約者の車から道に飛び出し、両膝と心に大きな傷を負うというアホな事態の中にいた。どうやらヤツは“結婚”という二文字から逃れたくて、中学時代の元カノとヨリを戻すことにしたらしい。……マジか、互いの両親を会わせたら、あとは式場どうしよう、くらいのモードまで来てたのに。

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 それまで“修羅場”とか“婚約破棄”とか「へーなにそれおいしいの?」と鼻をほじっていたお気楽な身分は一転。就職もしたことがなく、実家暮らしで表だけ華やかめいた仕事をしていた29歳の巻き髪は途方に暮れてネットに逃げた。

 とは言え、傷を舐めあうような病み系サイトも新たな相手を見つける婚活サイト(というか、当時、そんな便利な言葉はなかった)も何だか違う。ならば趣味サイトだ。同じ趣味を語るうちに恋が芽生えて……おお、アリかも!って、もう完全に頭が煮えてる。さすがに生まれて初めての婚約破棄は痛かった。

あ、あった! 書き込みたいと思うスレッド

 そんな煮えた脳で見つけたのはID登録をすれば誰でも書き込める掲示板形式と個人間のメッセージのやり取りの両方を採用している趣味のサイト。趣味の内容は映画。ちょっと暗い気もするが他に思い当たる趣味もないので仕方ない。

 早速登録し、若干盛ったアバターを作成して掲示板トークに参加するのだが、おバカなアクション映画とミニシアター系の小難しい映画のスレが乱立してる状態にしばし呆然……なにこれ、結局ナンパ目的とサブカル系のオタクさんしかいないってこと?

 あ、あった! 書き込みたいと思うスレッド。1989年に公開された『ニュー・シネマ・パラダイス』について語る場所……ココだ! 早速頭の中でモリコーネの♪チャラららーチャラララーなあのメロディが流れ出す。

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 そこで議論されていたのは最初に上映された「劇場版」とのちにソフト化された際、改訂が加えられた「完全版」のどちらが優れているかという件。正直、この映画に興味がない人にとってはガリガリ君のコーンポタージュ味くらいどうでもいい内容だ。

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