昭和34年(1959年)創刊の総合週刊誌「週刊文春」の紹介サイトです。最新号やバックナンバーから、いくつか記事を掲載していきます。各号の目次や定期購読のご案内も掲載しています。

中国の“監視社会化”は本当にコワいのか? 中国人の意識の低さをナメてはいけない

「B級中国 vs.S級中国」中国ITへの過大評価をぶった切る #2

 激動の中国IT事情。「スゴい」と称賛される裏側の実態を、『八九六四』『さいはての中国』などの著書がある安田峰俊、『中国のインターネット史』著者の山谷剛史という、中国ライター2人組が引き続き語り尽くす(全2回の1回目/#1より続く)。

安田氏の仕事場のこたつで、中国の監視社会の意識の低さについて激論を交わす安田氏(左)と山谷氏(右)

「上海から日本人が逃げ出している」への違和感

安田 個人名を挙げるのは恐縮ですが、中国ウォッチャーの姫田小夏さんの最近のWEB記事が、一部で物議をかもしています。特に30~40代の中国在住者や、私を含めた中国関連ライターには記事に違和感を持つ人が多いようです。ちなみに、私も山谷さんも姫田さんとは面識がなく、仕事上の競合関係もほぼありません。批判はあくまでも記事の内容についてです。

山谷 同感です。例えば「上海で異変、日本人がどんどん逃げ出している! 」(JBPress)という記事は非常に違和感が大きくて、ここで俎上に上げざるを得ないでしょう。

安田 上海にいる日本人が減ったのは中国が監視社会化したからだ……という話ですね。でも、上海にいる日本人の減少は、単純にビザが下りにくくなったことが大きな要因のような。あと、中国の物価が高くなって、日本から一旗揚げようと上海を目指したワープア組の懐事情がしんどくなったこともあります。

 政治都市である北京はまた事情が違いますが、少なくとも上海にいる日系企業の駐在員や、現地でラーメン屋を起業する人やフリーペーパー会社に就職する現地採用者といった普通の在留邦人は、監視社会化を過度に心配する立場ではないと思います。詳しくは後述しますが。

「中国では借金を踏み倒すと飛行機に乗れない」はウソ

山谷 該当の記事は、政府のビッグデータである「社会信用システム」と、民間企業のビッグデータの「信用スコア」を混同していることで、実態以上に監視社会化への懸念を指摘する内容になってしまっているんです。

安田 恥ずかしながら言えば、私も昨年の夏ごろまで両者を多少は勘違いしていたので、人のことは言えません。でも、すでに充分な情報が出ている2018年末の時点で、勘違いのまま記事にするのはよくない。信用スコアというのは、アリババ系列のセサミクレジットが提供している「芝麻信用」のような、民間企業が持つ利用者情報です。これと「社会信用システム」は別のものですよね。

山谷 はい。「社会信用システム」というのは、中国当局の価値観でいう「ダメな人」の社会生活を制限する公的なシステムです。つまり、借りたお金を返さない人に罰則処分を与えたり、政府として電車や飛行機の利用が好ましくないとみなした人にそれらを利用させない、といった処理をおこなうためのデータベースと、その運用システムのことなんです。

大連地下鉄の車内。巨額の借金を踏み倒した人(失信人)が晒し者にされている。社会信用を失うとこういう目に遭うのだが、信用ポイントとは無関係(2018年5月安田撮影)

安田 これは当局に批判的な人権活動家などの社会生活を妨害するために使われる可能性もありますし、人権の観点からもかなり問題があります。ただ、このブラックリストに入るには、(中国の基準における)相当な「ダメな人」にならないと難しいでしょう。

山谷 そういうことです。いっぽうで「信用スコア」は、クレジットカードを通じた立て替え払いがあまり普及していない中国で、その代替として広がったアリペイなどのオンライン決済マネーを支える信販機能のデータのことです。大まかに言えば、「お金を立て替えたりモノを貸したりしても大丈夫な人か?」をジャッジするためのデータです。

 もちろん借金を踏み倒したりすれば、当局の「社会信用システム」のデータも、民間の「信用スコア」も低下します。それに、いつかは社会信用システムと民間の信用スコアが相互につながることがあるかもしれません。しかし少なくとも現時点では、それぞれのデータ内容は影響し合っていません。