すべての絵画が親密で懐かしい
ルノワールの「親密さ」に触れてから、別の画家たちの作品に目を移していくと、この会場には他にも親密な空気を放散する絵画がたくさん見出せる。
たとえば印象派の一員たるアルフレッド・シスレーの風景画。パリ郊外の穏やかでのどかな田園風景を多く描いているのだけれど、その飾らず何気ない雰囲気がまたいいのだ。当時のパリ郊外の空気を吸ったことはもちろんないのに、なぜか懐かしさを感じてしまう。
ポール・セザンヌの静物画《りんごとビスケット》は、どこにでもありそうなりんごやお菓子を描くだけで、ものが存在することの不思議さまでを表現しているようで驚かされる。モディリアーニやアンドレ・ドラン、スーティンらの人物画も印象的だ。目に映るままの姿を写実的に描いているわけじゃないけれど、いずれも画家にとって身近な人たちを、慈しみの情を持ちつつ描いたのであろうことが伝わってくる。
パリの都市風景を描き続けたモーリス・ユトリロの風景画もある。くすんだ白色を基調に描かれる《サン=ピエール教会》は、そこはかとない哀愁を帯びていて、これはユトリロにとって思い出深い地なのだろうと察するとともに、観る側にいる者にも「これは自分にとってもかけがえのない光景だ」と思わせてしまう力がある。
実際はそうじゃないのに、身近な人や場所にたくさん出逢えたような、不思議な気分に浸れる展覧会だ。