ミノムシにお洒落させたり、ビーバーが彫刻したり……
ではミノムシとはどんな協働を? よく知られるとおりミノムシは身の回りにある材料で(たいていは小枝や葉っぱだ)蓑、つまり巣をつくり上げ、我が身をすっぽり覆う習性がある。INOMATAはミノムシもたくさん飼育しながら、カラフルな人間の服を細かく切り刻んだ布片を彼らに渡す。しばらくするとミノムシたちは、その布切れで蓑をつくり上げる。まるで仕立て直した人の服をまとっているみたいだ。
会場ではこの様子も、実地に観ることができる。偶然なのだろうけれど、彩りや布の組み合わせパターンはミノムシによって大きく異なる。まるで一匹ずつが自身のファッションセンスを競っているかのよう。
ほかの生きものたちとの協働ぶりはといえば、タコにはアンモナイトとの出逢いを用意。かつて地球上に存在したが恐竜とともに滅んだアンモナイトは、タコの近縁にあたる。アンモナイトの殻の形状を、化石のCTスキャンデータから復元し、タコにあてがってみたのだ。
アサリの貝殻には、その断面に成長線と呼ばれる無数の線が刻まれている。木の年輪と同じく、どんな環境でどう生きていたかの履歴がそこから読み取れるのである。INOMATAは、東日本大震災直後と数年後に採取されたアサリの殻断面の顕微鏡写真を撮り、会場に併置した。そこから、震災前後でアサリの生息環境がどう変化したかを読み取ろうとしたのだった。
犬については、飼い犬の毛と自身の髪を数年にわたり採集し、それで互いのコートをつくり身にまとってみた。相手の気持ちや境遇をより寄り添わせようとの試みか。
ビーバーはさすがに飼えないので、動物園に協力を仰いでビーバーの飼育エリアに角材を入れてもらった。ビーバーは木をかじる習性があり、ガシガシと角材にかじりつく。ひとしきり格闘が終わったあとに角材を回収すると、ときにそれは円空仏や現代彫刻の類似の形態に仕上がっているのである。
会場ではINOMATAと生きものたちの、種を超えた協働がそこかしこで展開されている。ヤドカリもミノムシもビーバーも、なんと創造性豊かで、かつ美しいことか。彼らをどこまでも対等のパートナーとして扱い、互いの気持ちがうまくつながったときだけ作品が成立すればそれでいいと覚悟を決めているらしい、INOMATAの姿勢の揺るがなさにも心を打たれる。
ここには、他者とかかわるときにだれもが参照したくなるような、心の持ちようがある。