~ぼくらはみんな生きている~

 というフレーズで始まる童謡「手のひらを太陽に」がこれだけ歌い継がれるのは、アンパンマンでおなじみ、やなせたかしによる歌詞の秀逸さとインパクトに負うところが大きい。

 冒頭の一節のようにシンプルかつ当たり前なのだけど、つい忘れがちで大切なことが、そこには含まれているのだ。いつの時代のどんな世代にも響くメッセージだから、そうそう古びたりはしない。

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 アートが私たちにもたらしてくれるものも、ほとんど同じだ。生きている実感とか、生の躍動のようなものをありありと感じられる表現こそ、時代を超えて愛される作品となる。

 そんなことを改めて思い知らされる展示が、青森県の十和田市現代美術館で開催中。AKI INOMATAの個展「AKI INOMATA : Significant Otherness  生きものと私が出会うとき」。

十和田市現代美術館
企画展「AKI INOMATA:Significant Otherness 生きものと私が出会うとき」展示風景 2019年
Photo:Eisuke Asaoka

ヤドカリに殻を引越してもらうというアート

 ヤドカリやミノムシ、タコにアサリ、さらには犬やビーバーまで。いろんな生きものと協働して作品を生み出すのがAKI INOMATAの創作となる。生物をモチーフにして絵を描いたり彫刻にかたどったりというのではない。ともに長い時を過ごし、制作の最重要部分を生物の側に委ねながら、作品はかたちづくられていく。「そんなこと可能なの?」と思ってしまうけれど、会場に赴けば謎は解ける。その実践例がゴロゴロとあるのだ。

「Asian Art Award 2018 supported by Warehouse TERRADA」展⽰⾵景 2018 寺⽥倉庫、東京 Photo: Ken Kato ※参考画像 ©AKI INOMATA / Courtesy of MAHO KUBOTA GALLERY
《やどかりに「やど」をわたしてみる -White Chapel-》2014-2015 ※参考画像 ©AKI INOMATA / Courtesy of MAHO KUBOTA GALLERY

 たとえばヤドカリである。INOMATAの創作はまず、意外に長生きだというヤドカリを飼育するところから始まる。彼らを健康に育てつつ、一方でヤドカリに使ってもらえそうな「殻」をつくり出す。世界中の都市をテーマにした透明な造形を殻のサイズでデザインし、それを3Dプリンターで立体化。完成したら、ヤドカリの棲む水槽へそっと入れる。ヤドカリが殻を気に入れば、もともと使っていた殻を捨てて、新しい殻への「引越し」がおこなわれる。世界各地の建築物を背負ったヤドカリの誕生である。

《やどかりに「やど」をわたしてみる -White Chapel-》2014-2015  ※参考画像  ©AKI INOMATA / Courtesy of MAHO KUBOTA GALLERY
《やどかりに「やど」をわたしてみる-Border-》2019年 撮影:小山田邦哉

 美術館はたいてい展示室への生物の持ち込みを禁じているので、ふだんはヤドカリの様子を写真に収めて作品とするが、今展では水槽の設置がオーケーとなった。世界の都市を冠して元気に動き回るヤドカリの実物を、たっぷりと観察することができる。その優美な姿を眺めていると、居場所を自由に選択できるようでいて案外そうでもない現代人の悲哀や、自分の住環境への不服がつらつら思い起こされてしまう。

《やどかりに「やど」をわたしてみる-Border-》2019年 撮影:小山田邦哉 
《やどかりに「やど」をわたしてみる-Border-》2019年 撮影:小山田邦哉