誰もが知る2大ブランド「黒ラベル」と「ヱビス」の名を背負って2020年に登場した「GOLD STAR」。その商品名を打ち込むと、「うまい」という単語が予測変換の上位に出てくるほど、多くの人々の舌を唸らせている。実際、同年の酒税法改正でオトク感が薄まった新ジャンル商品が軒並み苦戦を強いられる中、前年を上回る売上を記録しているという。

 新規参入が難しいとされる新ジャンル市場で3年目を迎えた「GOLD STAR」のリニューアルに合わせ、愛される理由をブランドマネージャー・野並祐介氏に聞いた。

サッポロビール野並氏。当たり前ですが、めちゃくちゃ新ジャンルに詳しくていろいろ聞いちゃいました。
サッポロビール野並氏。当たり前ですが、めちゃくちゃ新ジャンルに詳しくていろいろ聞いちゃいました。

黒ラベル×ヱビスというファクトの強さ

――20年の酒税税率改正で、ビールは買いやすくなり、新ジャンルは値上がりしたそうですね。新ジャンルにとっては逆風とも言える状況の中、「GOLD STAR」は売上を伸長させているということですが、支持された理由はズバリなんでしょうか。

野並祐介氏(以降、野並) やはり「黒ラベル」と「ヱビス」を大きく打ち出したことは大きかったと思います。お客さまは「確かなうまさ」を求めている。「GOLD STAR」はそこに応えることができたのではないかと考えています。

――「確かなうまさ」……というと、具体的には……?

野並 開発チームからも散々「“確かなうまさ”を追求するんだ!」「いま求められているのは“確かなうまさ”だ!」と聞かされていたのですが、実は私も最初はそれがなんなのか掴みきれなくてですね(笑)。

――ただ、コンビニやスーパーで「確かなうまさ」を求めて棚をさまよっている自分がいるので、わかるような気もするんです。

野並 ですよね。特に今の現役世代は共働き世帯が多いですし、娯楽も多種多様。そんな中で、ビールについて深く考える人や時間というのは、昔よりだいぶ減ったのではないかと考えています。

――失敗はしたくないけど、商品を選ぶ時間や手間を楽しむ余裕がないこともあります。

野並 そういったとき、“「黒ラベル」の麦芽と「ヱビス」のホップを一部使用した「GOLD STAR」”というファクトが強く響いたのではないでしょうか。誰が見ても「間違いない」「コレ、確実にうまいやつ」と瞬時に思ってもらえる商品が「GOLD STAR」なんです。

 Twitterで検索すると、美味しさに驚くファンの声が多数見つかる。

――「GOLD STAR」をSNSで検索するとおつまみにこだわっている人が多くて、こだわり派の人に選ばれている印象も持ちました。

野並 サッポロビールの調査では、「GOLD STAR」を選んだお客さまは、他の新ジャンル商品よりもビールと一緒に購入している割合が高いことがわかりました。味わいに対する意識が高く、こだわりの強い方に選んでもらえていると考えています。

――私はおこづかいとの兼ね合いで、平日は手頃な価格の新ジャンル、休日はリッチに「黒ラベル」や「ヱビス」を楽しむ、みたいなルーティンだったんです。でも妊娠・出産でしばらくお酒から遠ざかり、それからもお酒を飲める日が限られたことから、新ジャンルをここ数年飲んでいなくて。

野並 ビールと新ジャンルをお財布具合で飲み分けている、というお声はよく聞きます。では「GOLD STAR」で久しぶりに新ジャンルを飲まれた?

おいしさに「理由」があるのがサッポロらしさ

――まさに、5年ぶりに飲んだ新ジャンルが「GOLD STAR」だったんです。「新ジャンル、こんなことになってるんだ!」と、味の進化にかなり驚きました。

野並 それこそ、2004年に発売された初期新ジャンルと、2022年現在の新ジャンルを比べたら、味の進化は本当にすごいものがあると思います。それはサッポロビールだけでなく、他社さんも含めて、きっと全部おいしくなっていると思いますね。

 だから今まさに小泉さんも「おいしい」と言ってくださったと思うのですが、「おいしい」だけのコミュニケーションはサッポロビールらしくないとも思っていて。

――ふむふむ。「確かなうまさ」にもつながっていきそうな部分ですね。

野並 もちろんお客さまに「おいしい」と感じてもらうことは大切ですし、ビールメーカーとして大変嬉しいことなのですが、サッポロビールらしさを考えると、ただ「おいしい」だけで終らない、そのおいしさにきちんと「理由」があることがサッポロビールらしさではないかと思ったんです。

――そういえば「黒ラベル」や「赤星」といったサッポロブランドを選ぶ人って、一家言ある人が多い気がします。ある高名な音楽家の対談を取材したとき、ビール党の2人が「サッポロビールのうまさ」について延々と語り出したことがありました。テーマからそれるので若干迷惑だったんですけど(笑)。

野並 ありがたいですね。たしかにそういうお話を聞くことは本当に多いです。それこそ、昔ながらの焼き鳥屋さんや居酒屋さんのこだわりある大将がサッポロを選んで入れていてくれて、お店からお客さまへといったかたちで、脈々と「こだわり」が受け継がれている気がします。

――「サッポロおいしいでしょ。それはね……」と語りたくなってしまう「物語」があるんですね。

野並 サッポロビールの歴史は北海道の開拓と深く結びついていますし、大麦とホップの両方を育種して協働契約栽培している世界で唯一のビール会社でもあります。そこにはおいしさの理由が明確にあって、物語もありますよね。

 それこそ「GOLD STAR」は「黒ラベル」の麦芽と「ヱビス」のホップを一部使用しているので、ホームパーティ用のお土産に持っていったとき、「実はコレ……」と皆に説明するんだ、という方の話を聞いたことがあります。

――第3のビールだからといって引けを取らないどころか、むしろ「『黒ラベル』×『ヱビス』のすんごい飲み物もってきたよ!」と言いたくなりますもんね。でも自分だったら正直、会社の2大ブランドの名前を背負った新商品の担当者になるのは非常に、腰が引けます。

野並 たしかに、「黒ラベル」×「ヱビス」の新商品って、もうそれ以上の商品って今後もない……それを使ったら最後じゃん、みたいな気持ちは正直ありました(笑)。

王道がなかった新ジャンル市場

――最終兵器感がすごいですよね。サッポロの本気度がハンパないといいますか。

野並 スーパーのバイヤーさんに営業をする際にも、「サッポロビールの、本当に大事な資産である2つのブランドを投入してまで作った商品です」という熱は伝わったのではないかと思います。

 実はほんの数年前まで、この新ジャンル市場は新商品が根付かない、ある意味で不毛地帯だったんです。

――それはなんでですか?

野並 機能をプラスしてみたり、アルコール度数の高いものを出したりと、サッポロビール含め、各社が横のジャンルを広げていったのですが、1年続くブランドをなかなか打ち立てることができずにいました。そんな中で長らく手つかずになっていたのが「王道」です。

――ビールとしてのおいしさを追求していく「王道タイプ」が、新ジャンル市場ではしばらく空白地帯になっていたんですね。

野並 今までが横方向とするなら、これから新ジャンルで目指すべきは縦方向の高さ、ビールテイストとしての味のうまさを高めていくことではないかと考えたんです。

 そうした中で「黒ラベル」と「ヱビス」というファクトにたどり着いたわけですが、長らく新商品が定着しなかった市場ですから、「どうせまたダメでしょ」という半信半疑の部分がなかったと言ったら嘘になります。

――となると、「GOLD STAR」が3年目に突入したことは本当に快挙なんですね。実際「GOLD STAR」を飲んで素直に「おいしいなあ~」と思ったんですが、第3のビールでよく感じたアルコール臭さがなくて飲みやすいですよね。

野並 そうですね。過去10年間のサッポロビールの新ジャンルの中で、1年目の売上を超えた商品は「GOLD STAR」がはじめてです。

「GOLD STAR」のポイントは、力強く飲み飽きないということ。一口飲むとまた飲みたくなる、ごくごく飲み続けられる味わいを大切にしているんです。

――わかりやすい派手さというよりも、淡々とずっと飲んでいたくなる……。味わいも開拓使スピリットに通じる部分がありそうです。

野並 愚直な会社だと思います。そういう社員も多くて、ある意味へたくそといいますか。華やかさはないんですが、やるべきことを皆がきちっとやる、丁寧な会社だと自負しております(笑)。

――「ごくごく飲める」ビールって改めてすごいことですよね。華やかさや強い苦味を持つ個性的なビールもおいしいですが、何杯も飲みたくなるかというと、そこはイコールにならない気がするので、「ごくごく」はクラフトマンシップが生み出せる味わいなのかなと思いました。

野並 「何杯も飲める」というのはサッポロビールの大事なDNAだと思います。飲み終わった後にまたフラットに戻る、味わいがゼロになるのがサッポロビールらしさだ、という方もいます。後味が残るのでなくリセットされるからまた、飲みたくなる。一口で終わりでも、一口でうまいでもなく、飲み続けてずっとおいしい。そこをサッポロビールは常に追い求めているのだと思います。

――新ジャンルを選ぶ人はこれまでコスパ重視だったかと思いますが、「味」という指標が今後はより大切になりそうですね。

野並 単に安いからではなく、「これが好きだから選んでいる」という時代に変わってきていますよね。

 普通は「おいしい」までだと思うんです。だけどそこに「好き」という感情が乗っかってきたとき、他の商品ではなく「GOLD STAR」を選んでもらえるんじゃないかなと思います。そんな「好き」という声をいかに増やしていけるか。それがブランド作りなんだと改めて感じています。

提供:サッポロビール

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撮影:三宅史郎