日本人にとって最も身近なコンテンツの一つであるマンガ。昨今はデジタル化も進んでおり、スマートフォンの中にマンガアプリがたくさん入っている人も多いのではないだろうか。中でも、今年4月にサービス開始から10周年を迎えたLINEマンガはアプリのダウンロード数は累計4000万DLと、国内マンガアプリのNo.1を誇る。人気電子コミックサービスとして確固たる地位を築いた理由や、韓国発の縦スクロールマンガ「WEBTOON」の可能性などについて、LINEマンガ共同代表の髙橋金信培(キム・シンベ)さんと髙橋将峰さんに話を聞いた。
――LINEマンガ10周年おめでとうございます! 日本市場でサービスを開始した頃から日本のマンガ市場はどう変化していきましたか?
金さん(以下、金) 従来の日本の読者たちには、まずマンガ雑誌で作品を見つけ、そこからファンになって単行本を買うという流れがあったと思います。それが、デジタルプラットフォームの発展により、スマートフォンなどからいろんな作品を探して読めるようになりました。作品との出合いの場が、雑誌や単行本というアナログからデジタルプラットフォームになったのは大きな違いだと思います。このことにより、アナログ時代よりもはるかに多い作品に出合えるようになりました。
髙橋さん(以下、髙橋) スマートフォンが普及をはじめて間もない10年前、マンガアプリは主に出版社と連携して電子書籍を売る場だったのですが、そこに無料連載や単話販売を取り入れつつ、いち早くビジネスとして確立したのがLINEマンガです。ここ数年では大手出版社の作品だけでなく、スマートフォンなどでの読みやすさに特化した縦スクロール型マンガ・WEBTOONからもヒットが出るようになり、よりオリジナリティーが出せるようになったのではないかと思っています。
マンガ出版が「崩壊」していた韓国で生まれたワケ
――いま話に出たWEBTOONといえば、「Web」と「Cartoon(マンガ)」の合成語で、韓国で流行したデジタルコミックですが、どうしてこのような形態が生まれたのでしょうか?
金 日本はマンガの出版社が作家を育て、読者もさまざまな作品に出合えるなど、とてもいい環境が維持され続けてきました。一方の韓国は、マンガ出版が崩壊状態にあり、作家が活躍できる場が限られていました。そうした状況の中、韓国NAVER社がNAVER WEBTOONというデジタルプラットフォームを作り、作家をいち早くデジタルの世界に移行させることに成功したんです。スマートフォンなどに合ったフォーマットや、ストーリー展開などを研究し、現在のWEBTOONが形作られていったのです。デジタル環境では読者と作家がすぐに出合うことができ、読者が作品にコメントを残すことでコミュニケーションも生まれ、より発展していくことができました。いうなれば、危機が機会を作ったのです。
想像を凌駕するクリエイターの進化
――WEBTOONはフルカラーで、縦にスクロールして読むマンガです。WEBTOONならではの強みとは何でしょうか?
髙橋 スマートフォンで読むことを前提として描いているので、すごく読みやすいです。従来の横開きマンガもスマートフォンで読めますが、作品によっては文字が小さく拡大しなくてはならないなど、微妙にストレスがかかりますよね。
――わかります(笑)。
髙橋 とはいえ、読者はストレスがないからWEBTOONを選ぶのではなく、面白いから読むのであって、快適さと面白さの掛け合わせが一番大切だと考えています。
――逆にWEBTOONの弱みはあるのでしょうか?
髙橋 WEBTOONでは紙のマンガのように見開きで見せることができないため、ダイナミックな動きのあるスポーツ系・格闘系の作品は難しいと言われることもありますが、私はそうは思っていません。現に『喧嘩独学』のように、格闘シーンのある人気作品も登場しています。表現についてはクリエイターさんに委ねておけば、僕らが考えるレベルを凌駕したものを出してくださるのではないかと期待しています。
金 どのようなものも、長所があれば短所もあります。WEBTOONはモバイル環境で読みやすいことが基本。ただ、作品によっては長い説明を必要とするものもあり、その時は限界を感じることもあります。しかし、縦長での表現性については作家と編集者が常にアイデアを出し合っていますし、スクロールによって時間の流れを感じさせるのは逆にWEBTOONならではの演出法です。横開きでも、縦スクロールでも、作品の面白さをしっかりと伝えられればいいのではないでしょうか。
WEBTOON界の“ドラゴンボール”
――LINEマンガにとって、発展のターニングポイントになった作品は何ですか?
髙橋 やはり『女神降臨』でしょうか。日本で公開されたのは2018年で、大ブレイクしました。今もランキングの上位にあるのですが、これは、今から何十年も前に発表された『DRAGON BALL』(集英社)が今も人気なのと同じようなもの。新たにLINEマンガのユーザーになった人たちが、まずは人気の定番作品から入っていき、そこからさまざまな作品に興味を持つようになっていくのだと思います。
金 『女神降臨』をはじめとする、最近のWEBTOONは、登場人物が10頭身というように、かっこよく見せる絵柄にするなど、工夫が凝らされています。作家さん自身も若いので、若者たちの恋愛を今風に表現することができ、読者もそれに熱狂するのだと思います。
――K-POPのアイドルのような完璧なビジュアルが、若い人に刺さったってことなのでしょうか?
金 LINEマンガの年齢層はとても幅広く、『女神降臨』も10〜20代だけでなく、40〜50代の方にも多く読まれているんですよ。LINEマンガが10周年ということは、読者も同じく一緒に成長してきたことになります。そのことが、幅広い年齢層や多様なファン層につながっているのだと思います。
日本ほどマンガに課金する国はない
――グローバル展開をしているLINEマンガですが、日本ならではの特徴はありますか?
髙橋 LINEマンガでは、各出版社からご提供いただいている横開きのマンガと、縦スクロールのWEBTOONの両方が読めるようになっているのですが、どちらも読むことができるのは日本市場ならではですね。海外だと、横開きのマンガはどういう順番でコマを読んでいいかわからない人もいますが、日本人は誰かに読み方を教えてもらわなくても、マンガのコマを読み進めることができる。あと、40〜50代でもマンガを日常的に読む、というのも日本ならではの特徴です。
日本はマンガがヒットするとまずアニメ化されることが多いのですが、実はこれ、グローバルで見ると大きな特徴です。韓国のアニメ市場は日本ほど大きくないため、WEBTOONはドラマ化されることが多くなる。そうなると、おのずとドラマ化しやすい設定の作品が増えます。
――アウトプットの違いが作風の違いになってるんですね。
髙橋 IP(知的財産)ビジネスの展開先の裾野が大きく違いますからね。WEBTOONの普及は日本にとってチャンスだと思っています。多種多様な漫画ジャンルがある日本がWEBTOONという新たな表現を手にすることで、世界にアニメ市場の領域が広がり、日本の作家さんにいい刺激を与えることにつながるんじゃないかなと。
――LINEマンガアプリをはじめとしたマンガアプリは、1話ごとに課金して読めるのも大きな特徴です。こうしたスタイルは浸透していますか?
髙橋 そもそもグローバルからみても、日本ほどマンガというコンテンツにたくさんお金を払う国ってそうありません。ですから、1話ごとの課金も着実に浸透しています。
金 連載作品で、エピソードごとに課金して読むユーザーはとても増えています。でも、私たちは販売するだけでなく、幅広い人にマンガを楽しんでもらいたいので、無料でマンガを読みたいユーザーには、「毎日¥0」など、無料でも最大限お楽しみいただけるモデルを設計しています。もちろん課金してくださる方は大変ありがたいのですが、より多くの人がこのLINEマンガというプラットフォームでさまざまな作品に出合い、マンガを楽しんでいただければと思っています。
ゲーム会社、IT企業もWEBTOONに参入
――LINEマンガでは、若手作家の発掘や育成にも力を入れていますね?
髙橋 「LINEマンガ インディーズ」という投稿サービスを展開しています。出版社だと作家さんに担当編集者が付き、編集者の目を通った作品が世に出ます。でも、ここでは一定のルールを守っていれば、アマチュア作家が自由に作品を発表できます。彼らを支援する給付金プログラムもあり、作家さんが仕事として取り組める環境を作っています。
金 韓国のWEBTOONは、デジタルプラットフォームによって、アマチュアからプロデビューする作家さんが着実に増えています。『女神降臨』や『喧嘩独学』の作家もアマチュア出身ですし、注目を集め、アニメ化が発表された『先輩はおとこのこ』は日本人のLINEマンガ インディーズ出身作家が手掛けた作品です。私たちはマンガ産業そのものを拡大させたいですし、作家の活動も支援していきたい。そんな中から、オリジナリティーのある作品が誕生すればとても素晴らしいことです。
――AmazonやAppleも続々とWEBTOONに参入し始めたことが話題となっています。LINEマンガが10周年の節目を超え、今後どうなっていくのでしょうか?
髙橋 今、大きな流れが2つ来ていると感じています。1つはデジタル化。グローバルに、世界中のどこにいてもマンガにアプローチできるようになりました。もう1つは、WEBTOONへの出版社以外の参入です。最近名乗りを挙げているのは、ゲーム会社やIT企業など。そんな動きの中、紙のマンガにはなかった全く新しいものが登場して、グローバルな大ヒットが生まれるかもしれない。これってすごく大きな衝撃だと思うのです。
金 引き続き面白いオリジナル作品を作っていくことが、大きな強みになると思っています。出版社の単行本か、WEBTOONか、という二元論ではなく、バランスを保ちつつ共生することが大事ですし、そうすることでLINEマンガは常に前向きな姿勢で成長していけると思っています。
LINEマンガCEOが選ぶ!「次に来るWEBTOON」
金さん推薦!
『鉄槌教師』チェ・ヨンテク(原作)・ハン・ガラム(作画)
LINEマンガで読む
既に累計閲覧数1億1600万を超えるwebtoon作品『鉄槌教師』をぜひ読んでいただきたいです。学校教育の崩壊を防ぐために主人公たちが日々奮闘する、読めば読むほど胸がスカッとする作品で、今後より一層人気作になると考えています!
髙橋さん推薦!
『作戦名は純情』kkokkalee(文)・Dledumb(絵)
LINEマンガで読む
高校生のリアルな関係性を描いた胸キュンラブストーリーで、2023年4月の「毎日無料」タブ月間読者数ランキングでは『私の夫と結婚して』『女神降臨』に次いで3位にランクインするなど、人気急上昇中のwebtoon作品です。ぜひご覧ください。
PROFILE
金信培(キム・シンべ)
大学を卒業後、LINE Plus株式会社に入社。2017年にNAVER WEBTOONに入社後、韓国内の事業戦略だけでなく、日本を含めたグローバル市場の事業開発を行う。2021年にLINE Digital Frontier株式会社の取締役に就任。2022年7月には、LINE Digital Frontier株式会社の代表取締役CEOに就任。
髙橋将峰(タカハシマサミネ)
2006年、ヤフー株式会社に入社。その後オセニック株式会社代表取締役などを経て、株式会社イーブックイニシアティブジャパン代表取締役社長に就任。2022年7月からLINE Digital Frontier株式会社代表取締役を兼任する。
提供:LINEマンガ
撮影:釜谷洋史