「始めは外食チェーンさんやアニメなど一般的なコラボばかりだったんです。それが、まさかこんなことになるなんて……」
神妙な面持ちでそう語るのは、おやつカンパニーでマーケティング担当を務める40代の男性・Tさんだ。今回Tさんが「文春オンライン」に明かしてくれたところによると、同社は看板商品「ベビースターラーメン」と異業種とのコラボレーション企画を、毎年何十件にもわたって繰り返しているのだという。
おやつカンパニーといえば、創業76年を誇る日本のおやつメーカー。「ブタメン」やパンスナック菓子で知られており、中でも「ベビースターラーメン」は誰しも一度は食べたことがあるはずの“国民食”とも言える存在だ。そんな老舗メーカーの代表的ブランドに、一体何が起きているのか。
おやつメーカーとは思えないコラボの数々
Tさんによれば、ことの発端は1997年に北海道のお土産品として味噌ラーメンをイメージしたベビースターを発売したことだったという。
「ベビースターはもともとラーメンと同じように製麺機を使った本物の“麺”から作っているので、ご当地ラーメンを再現したり、有名ラーメン店との協業は自然な成り行きでした。そういった点で、当社はコラボレーションが過去から得意だったかもしれません。
昨今ではお客様の価値観が多様化する中、改めてコアとなるベビースターのブランディングが重要課題と捉えており、改めて当社のブランドを知っていただくためにも、スナック菓子以外の食品や非食品でのコラボのお話を進め、徐々に増やしてきたのですが……今ではそういった異業種も含めたコラボが1年で30件ほど実施されていて、この1年ではさらにそれを上回る数が予定されているんです……」
実際に過去に実施された企画を見ると、アルコール飲料やアイスクリームといった、私たちのよく知るベビースターラーメンからは想像のつかないコラボ商品がずらっと並ぶ。中には、スニーカーやヘアメイクサロンなど食品メーカーらしからぬコラボ企画まで見受けられる。
お菓子業界を長年ウォッチしてきたライターも、この動きには戸惑いを隠さない。
「おやつカンパニーの動向は数年前から気になっていました。ベビースターラーメンは消費者のブランド認知率が97%を超える超ロングセラー商品です。今さら他業種とのコラボを連発する意味がどこにあるのか……」
ほとんどの消費者は「1年以上食べていない」
しかし、そんな看板商品にも弱点があるのだとTさんは語る。
「知名度は十分なのですが、調査してみると、1年以上もお召し上がりいただいていないお客様が大半だったんです。そういったお客様はベビースターを嫌いになったわけではなく、むしろ好意的に感じていただいている。ただ普段の生活の中で忘れているだけということも分かりました。コラボ企画の根底には、改めてベビースターを思い出していただける機会を作り出したいという考えがあるんです」
ベビースターラーメンへの並々ならぬ思いからマーケティング業務に当たっているTさん。ただ、コラボ先はベビースターとは程遠い企業も多い。当然ながら、コラボ商品の開発には困難が伴っている。
「お客様からの反応は様々ですね。2017 年にアミューズメント景品としてアイスクリームを商品化したときには、『美味しいけど(ベビースターとアイスそれぞれを)バラバラに食べたかった』という声もいただきました。ただこれに関しては、賛否あるということは『話題化出来る』と考え、結果的に第2弾、第3弾の商品化に繋がりました。
アルコール飲料の開発を巡っては、社内でも少し議論が起きましたね。お子様にも好まれているブランドなので、『ベビースターでやるべきなの?』という意見もありました。お酒に合うというのはみんな分かっているんですが……。試飲するときも、業務の一環とはいえちょっと人目は気になるので、18時ぐらいからこっそりとベビースターとの相性を確認していました」
例年、コラボ企画がピークを迎えるのは、おやつカンパニーが「ベビースターの日」とする8月2日の前後。Tさんらマーケティング担当者の苦労は今年も収まりそうにないという。
「昨夏に好評だった網走ビールさんとのコラボ商品『ベビール』第2弾の発売に向け、先月も網走の工場まで出向いたところです。昨年すぐさま完売してしまった反省を踏まえ、今年はより風味を調整したものをタンク1本仕込んでいただきました。
また、江ノ島電鉄さんとのコラボも予定していて、車内を駄菓子屋風に装飾したラッピング電車を走らせます。ただ、スタンプラリーや駅の看板など沿線一体となったイベントを予定している上に、江ノ島電鉄が走っている藤沢市さんと鎌倉市さんのそれぞれに景観条例があるなど関係各所が多いので、そういった調整が大変ですね」
「残念ながらボツになってしまった企画は10件や20件ではきかない」
商品開発や予算編成、広報活動といった通常業務の傍ら、年に数十件もの企画を成功させてきたTさん。「最大で10企画ほどが同時並行で進んでいる」というが、その努力をもってしても、実現までたどり着かないものも多い。
「残念ながら、これまでボツになってしまった企画案は10件や20件ではきかないと思います。直近で難航しているのは“香水”ですね。食品はやはり味と香りがブランドを思い出してもらう直接のきっかけになりやすい。そう考えたとき、“ベビースターの香水”は非常に直線的かつ面白いコラボだと思いましたし、再現性は非常に高いんですが……社内では『これは製造ラインの香りであって、ベビースターそのものの香りではない』という意見もあり……。これまでベビースターの“味”をしっかり守ってきた多くの従業員の意見は尊重しないといけないですし、そういった兼ね合いで止まってしまう企画もあります」
おやつカンパニーからの回答は……
Tさんの切実な告白を、会社はどう受け止めるのか。おやつカンパニーにコラボ施策に関する質問状を送ったところ、書面で以下のように返答があった。
「弊社では『驚きとワクワクを持ったブランドであり続けたい』という理念のもと、近年では『意外性』にフォーカスして業種を超えたコラボを推進しています。今夏に江ノ島電鉄さんでのイベントや『ベビール』第2弾を実施することは事実であり、スナック菓子業界内でのコラボも予定しています。また、ベビースターが65年目を迎えるにあたり、ブライダルジュエリーでも有名なユートレジャーさんとコラボした『純金ベビースター』を全世界65本限定で発売します」
またも異色のコラボを多数予定しているという同社。迎えた8月2日の「ベビースターの日」には、実際に純金製ベビースターの受注も開始された。
「ベビースターを思い出してほしい」というTさんの思いは届くだろうか。
※本記事は事実をもとにしたジョーク記事であり、おやつカンパニー様のご厚意により実現したものです。