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こんなみじめな授乳施設に感謝するしかないなんて…「段ボール授乳室騒動」が可視化した日本の大問題

source : 提携メディア

genre : ライフ, 社会, ライフスタイル

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段ボール授乳室「ないよりはいい」

そもそもこの段ボール授乳室は、日本道路建設業協会による寄付であった。「段ボール授乳室に対して文句を言うべきではない」と考える人は、「せっかく善意で寄付されたものに対して、ケチをつけるなんて、ワガママで失礼に当たる」と感じたのではないだろうか。「ないよりはいい」とSNSにポストした女性がいたのも理解できる。私も最初は、「善意の寄付であれば、文句は言いにくいかもしれない」と思っていた。

他人の好意を踏みにじる「感謝の気持ちを持たない、恩知らず」だと思われたくはない。特に女性はそうなのではないか。こうして“善意”を受けた側の母親たちの中には、潜在的な批判を恐れて不満を口にするのを躊躇するひとも多かっただろう。

そして「まず使ってみたらいいのに」と言う側は、よかれと思っての行動や発言が「女性の気持ちがわかっていない」と批判されたことに、何かしら傷ついたのではないか。

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「寄付」でまかなうべきものなのか

しかし私自身は、「寄付だからこそ」問題なのではないかと思うようになった。

国土交通省は、2025年までに全国の「道の駅」50%以上に授乳室などの子育て関連の設備を設置するという目標を掲げている。日本道路建設業協会からの段ボール授乳室の寄付は、こうした国交省の方針に沿ったものだ。

災害時であれば、確かに段ボール授乳室は一定の基準をクリアしているだろうし、避難所にあったら乳児を抱える母親たちには、とてもありがたいだろう。しかし、道の駅などの授乳室は、しっかりと使い勝手や適切な設置場所を考えて作られるべきものではないだろうか。段ボール授乳室でも「(ないよりはいいので)ありがたいです」と言わざるを得ない、子育て世代が置かれている状況こそ、改善の余地があるように思われるからだ。

だからこそ、数値目標を掲げるのであれば、国や自治体で予算をつけて、きちんと達成すべきだろうと考える。寄付された段ボール授乳室をとりあえず設置して数値目標を達成したことにするのだとしたら、それは本当に「地域の子育てを応援するための取り組み」といえるのだろうか。

千田 有紀(せんだ・ゆき)
武蔵大学社会学部教授
1968年生まれ。東京大学文学部社会学科卒業。東京外国語大学外国語学部准教授、コロンビア大学の客員研究員などを経て、武蔵大学社会学部教授。専門は現代社会学。家族、ジェンダー、セクシュアリティ、格差、サブカルチャーなど対象は多岐にわたる。著作は『日本型近代家族―どこから来てどこへ行くのか』、『女性学/男性学』、共著に『ジェンダー論をつかむ』など多数。ヤフー個人
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