最近よく目にする「AGA」の3文字。悪玉男性ホルモンが引き起こす男性型脱毛症(Androgenetic Alopecia=AGA)のことだ。この物語の主人公、薄井秀夫も薄毛に悩むアラサー男子。髪の毛の悩みさえ解消できれば、もう少し女性にモテるかも……。そんな薄井に友人の黒井から朗報がもたらされた。AGAは治療できるというのだ。その言葉に勇気づけられた薄井は、積極策に打って出ることにした。
やっと取りつけたデートの約束。でも……。
「うーん、この髪型だと前髪が薄く見えるなあ。こっちの方が濃く見えるけど、隠しているのがばれたらあとで嫌われるかもしれないし……」
薄井秀夫は悩んでいた。30歳手前、独身。勤務しているのは地元のIT企業だ。
先月、友人の黒井が開いてくれた合コンに参加し、そこで出会った女性とLINEで繋がる友だちになった。それ以来、毎日1通のメッセージを送っている。すぐに返事が来るときもあれば、なかなか来ないときもある。
そして昨日、思い切って彼女をデートに誘ってみた。
――今度の休み、二人でどこかに遊びに行かない?
さりげなさを装ったが、内心はドキドキだ。
それから待つこと30分。返ってきたメッセージを見て、薄井は躍り上がった。
――嬉しいです。明日会社に行って、仕事が空いている日を調べて返事をしますね。
いてもたってもいられない薄井は、洗面所に行き、デートに備えて当日の髪型を研究し始めたというわけだ。
「はあ~」
鏡を見ながら思わずため息を漏らす。やはり薄くなってきた髪を何とかしたい。髪のせいでふられるのは嫌だ。
「デートがいつになるのか、分からないんだよなあ。AGAの治療にも行きたいけど、東京のクリニックまで往復2時間もかかるし、デートの約束と予約の日がかぶってしまったらまずいよなぁ」
彼女はイベント会社に勤めていて突発的な業務が発生しやすい。合コンに来たきっかけは、土日の勤務が多くて仕事以外の出会いが限られているからだそうだ。デートの予定も急に変更になるかもしれない。
ここはボクが柔軟に彼女に合わせるべきだ。しかしAGA治療のために病院にも行きたいし……。どちらを優先すればいいのか悩むなぁ。
髪がさらに薄くなって彼女に嫌われるというネガティブな想像がどんどん膨らんでいく。あまりにも額にしわを寄せすぎたせいで、髪の毛が抜け落ちるのではないかと心配になった。
「ああ、もう駄目だ。こんなときは黒井に相談だ!」
同じ薄毛の悩みを抱える友人の黒井を呼び出して、駅のそばの居酒屋で緊急対策会議だ。こんな遅い時間に付き合ってくれる黒井には感謝しかない。
「うーん、オンライン診療という手もあるけどなあ……」と黒井。
「オンライン診療?」
そういえばAGA治療のクリニックのウェブサイトに書いてあった。自分が利用するとは思っていなかったので説明を読んだことはない。
「オンライン診療なら直接病院に行くことなく、リモートで診察が受けられる。治療薬は配送してもらえるし、オンラインでの支払いも可能。便利なシステムだからメリットばかりに聞こえるかもしれないけど、本気でAGAを治療しようと思ったら、オンラインよりも対面治療がベスト。特に、最初はオンラインではなく、直接病院にいったほうがいいぞ」
ビールのジョッキを傾けながら、黒井は自分の体験を披露してくれた。AGA治療のスペシャリスト・銀クリ(銀座総合美容クリニック)に通って3カ月、髪が生えてきたというのだ。そういえば、黒井の表情は明るい。ここは素直に、黒井の話に耳を傾けることにした。
オンライン診療と対面診療、どちらを選ぶ?
年代を問わず多くの男性が悩むAGA(薄毛)だが、最近ではネット経由での診療も一般的になってきた。電車内の広告で見かけたり、ウェブやスマホのアプリにも広告が出ている。気軽に受けられそうなオンライン診療だが、いまも銀クリに通って途中経過をチェックしてもらっている黒井は「対面による診療」を推す。
「対面だったら、頭皮や毛髪の状態を近くで見たり触ったりしながら、きちんと診てもらえるだろう。治療を始めてからも途中経過をしっかり確認してもらえる。お医者さんに実際に間近で薄い部分を触って診てもらうっていうのが重要なんだよ。それって、オンラインではできない。マイクロスキャナーを使って頭皮の状態もきちんと確認してもらえるしな。オンラインよりも対面で診察してもらうほうが、得られる情報も治療の選択肢も多いんだ。だから、対面がベストだとオレは思うね」
うーむ、黒井がいうことももっともだ。でも、診察のために、往復2時間は結構きつい。平日は仕事が忙しいし、土日はデートのために空けておきたいし……。
「オレだって、薄井と同じさ。そういう人もいるから、銀クリでもオンライン診療をやっているんだ」
黒井も、最初は遠距離通院が気がかりで、オンライン診療についても聞いてみたそうだ。
全国的にオンラインでの初診が解禁になったのはコロナ禍のタイミングだった。病院に行くことでウイルスに感染するかもしれないという状況が、オンラインでの初診解禁の後押しになった。
「AGAは進行性の病気だから、治療はなるべく早く始めたほうがいい。AGAは髪の毛のヘアサイクル(毛周期)が短くなる病気で、ヘアサイクルには限りがあるから、早めの治療が効果的なんだ。あの頃はコロナ禍での対面診療が心配で、なかなか最初の一歩が踏み出せない人が多かった。そこで銀クリでは、早期治療のメリットがうけられるようにと、オンラインによる初診をスタートしたんだ」
オンラインでの初診解禁以降、医師が直接症状を診察することなく、オンラインだけですべてを完結させる治療やクリニックも増えているが、「対面診療推し」の黒井はそれに否定的だ。
「AGAの治療に使われるフィナステリドやデュタステリドといった薬は、もともと前立腺肥大症の治療薬として開発されたものだし、ミノキシジルは高血圧を改善する薬として作られたものなんだ。だからこうした薬はただ飲めばいいというものではなく、ちゃんと診察したうえで処方する必要がある。銀クリでは体調や病歴も聞かれるし、服薬が可能かどうかを、採血で確かめるんだ」
「それに、経過をきちんと確認することで、順調なときもそうじゃないときも、そのつど最適な種類や用法用量の薬が処方されるから効果が出やすい。オンライン診療のみの治療は、サブスク的に同じ薬をひたすら飲む治療になりやすいんだ」
黒井も薄毛に悩んできたのだろう。AGAについてずいぶん勉強したみたいだ。ひと言ひと言に重みがある。
じゃあ、銀クリで治療を始めるにはどうしたらいいんだろう?