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認知機能低下、うつ、引きこもり
聞こえは“健康”を左右する

「話が聞き取りにくく、会話についていけない」「話し声が大きいと言われる」――これらは難聴のサインかもしれない。聞こえづらさを放置することは、実は老後の健康を悪化させる一因になる。老後の聞こえと健康、そして補聴器の役割について、専門家に話を聞いた。

聞くことに疲れると会話がおっくうになる

大石直樹先生(おおいし・なおき)
慶應義塾大学耳鼻咽喉科
准教授・聴覚センター長
大石直樹先生(おおいし・なおき)
慶應義塾大学耳鼻咽喉科
准教授・聴覚センター長

「高齢期の聞こえの不調は、脳の認知機能や体のあちこちに影響を与えることがわかってきています。聞こえがもたらす問題は、必ずしも『耳』にだけ現れるとは限らないのです」

 慶應義塾大学耳鼻咽喉科准教授の大石直樹先生はこう指摘する。

 耳が遠くなっても「年だから仕方ない」で済ませる人は多い。しかし、難聴を放置することで知らないうちに心身の機能が低下していくとすればどうだろうか。

「難聴の方は『リスニングエフォート』が大きく、聞こえづらい状態で話を聞こうと無意識にがんばっています。その結果、会話が終わるとどっと疲れてしまったり、話を聞きながら考える余力がなくなっていると考えられています」

 また、世界五大医学誌の一つ「ランセット」に掲載された論文によると、予防可能な認知症のリスク要因のうち、「中年期(45~65歳)の難聴」は最大のリスクと指摘されている。

「聞こえづらくなるとコミュニケーションにも支障をきたします。言葉の聞き返しが増えたり、聞こえないのに話を合わせたりする状態が続くと、会話を楽しめず、人と会うことそのものがおっくうになる。結果として引きこもりがちになったり、うつ状態になりやすくなるのです」

 外出の機会が減れば足腰は弱り、要介護の前段階であるフレイルにもつながりやすくなる。「耳が遠い」ことを侮ってはならないというわけだ。

3か月のリハビリ期間を伴走できる専門家を選ぶ

 では、高齢期の難聴にどのように向き合っていくべきか。大石先生はまずは最寄りの耳鼻科で聴力検査を受けるように勧める。

「だれもが補聴器をつければいい、というわけではありません。軽度難聴であれば補聴器をつけずとも生活できることもあります。まずは医療機関で聴力をきちんと測り、さらにその方の生活環境で聞こえに関する悩み事がないかを聞いて、補聴器の適用があるかを考えていきます。一度聴力検査をして問題がなかったとしても、人によっては急に聴力が落ちていくこともありますので、時間を空けて2回は検査を受けるとより判断しやすくなります」

 補聴器をつければ、その瞬間から聞こえの問題が解決するわけではない。

「補聴器が自分の聞こえに馴染むまで、慶應義塾大学病院では3か月程度のリハビリ期間を設けています。はじめのうちは補聴器の音をうるさく感じたり、違和感を覚えるかもしれませんが、補聴器を適切に調整しながらつけ続けていくことで、脳が新しい聞こえに慣れていきます」

 このリハビリ期間に専門家からフォローを受けられなかったために、補聴器を使いこなせず、つけるのを諦めてしまった人は多い。適切なサポートを受けることを考えると、補聴器相談医に相談したり、また補聴器を購入する際には認定補聴器技能者がいる販売店を選ぶと安心できる。

 適切なリハビリを経た補聴器は、聞こえづらさからくる疲れやイライラを解消する、頼もしいパートナーとなる。

「補聴器をつけたことで話を聞きやすくなり頭がすっきりしたという方や、親御さんが補聴器をつけはじめてから表情が明るくなったという方など、診察の現場でも補聴器によって暮らしが変わったという方をたくさん見てきました。聞こえづらさのサインを感じたら、ぜひ耳鼻科を受診のうえ、補聴器の使用を検討してください」

認知機能の低下が始まる前に備えを!

 認知症の予防と合わせて、認知症を発症した場合の備えも求められる。例えば認知機能が低下すると有効な遺言を残すのが難しくなる。
 遺言を作成しておけば財産分配に関する揉め事を防げるほか、死後に財産から寄付をする遺贈寄付も可能。元気なうちに自分の意思をきちんとした形で示しておこう。