「人生」から生まれた名コピー
小西 さきほどの日産セレナの「モノより思い出。」は、「人生思考」という手法から生まれたものです。これは僕が長年大切にしている思考ツールで、アイデアを考える商品やサービスの横に「人生」と書き、そのあいだにある本質的な課題が何かを考えていく方法です(下の図参照)。
このコピー、じつは選考の過程で何度も落ち、社内では何を言っているのかわからないとずいぶん叩かれて、アンケート調査でも最下位でした。でも製品の良さや新機能をうたうのではなく、「人生」と「モノ」の間にあるものを射抜いたほうが、世の中の人たちはきっと幸せになれるという確信があったんです。
糸井 よく通しきりましたね!
小西 当時の日産の宣伝部長が、「僕はこれが一番いいと思う」と拾ってくださったんです。
糸井さんはさらにごく普通で素直な言葉で、驚くほど心が動かされる作品を生み出されています。ジブリ映画『魔女の宅急便』の「おちこんだりもしたけれど、私はげんきです。」もそうだし、『もののけ姫』の「生きろ。」に至ってはたった3文字という、究極の直球です。
糸井 「生きろ。」は僕としては“大変化球”だと思っているんですよ。「生きろ」って人に命令する人はまずいない(笑)。直球ってじつは変化球なんです。ただ、まっすぐに投げたボールは自然落下していきますからね。直球は、上にあがる回転をかけている変化球。
小西 なるほど、それは本質を突いた深い話ですね。
糸井 突き詰めたシンプルな言葉をこれでいいんだと判断できるのが大胆さであり、勇気なんです。その物事を判断するという点で面白かったのが、著書にあった世阿弥の「離見の見」。役者が観客の立場から自分を見るというくだりです。
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本対談の全文は「文藝春秋 電子版」に掲載されています(「“マネタイズ大王”にご用心」)。
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