PNHという病気をご存じですか?医療の進歩により患者さんのQOLの改善を目指す治療ができる時代になりつつあります。

多様な症状で生活の質を低下させる発作性夜間ヘモグロビン尿症(PNH)

ご監修
筑波大学医学医療系
臨床医学域 医療科学(血液学)
小原 直 先生
ご監修
筑波大学医学医療系
臨床医学域 医療科学(血液学)
小原 直 先生

 発作性夜間ヘモグロビン尿症(paroxysmal nocturnal hemoglobinuria:PNH)という病気をご存じでしょうか。多くの方にとっては聞き慣れない病名だと思います。それもそのはずです。PNHは日本人の100万人に3.6人が発症すると推定されており、現在、日本で治療を受けている患者さんは1,035人と報告されている※1、まれな病気だからです。PNHは、何らかの原因で遺伝子に異常が生じたことで、PNH型赤血球と呼ばれる異常な赤血球がつくられるために、赤血球が壊されてしまう(溶血と言います)病気です。まれな病気ですが、発症する年齢や性別に傾向はなく、誰にでも発症する可能性があります。

 PNH患者さんでは酸素を運んでいる赤血球が壊されるため、貧血、めまい、息切れ、動悸、壊れた赤血球から出たヘモグロビンが尿から排出されるため尿の色がコーラ色になるヘモグロビン尿などの症状が現れます。ひどい貧血が続く場合は、輸血が必要になります。また、重大な合併症として血栓症や腎不全が知られています。発作性夜間ヘモグロビン尿症という病名から、ヘモグロビン尿が必ず現れる病気と思われるかもしれませんが、ヘモグロビン尿が現れる患者さんは1/3程度と報告されています※2。溶血や赤血球が壊れる病気からは想像しにくいかもしれませんが、疲れやすさ(疲労)、食べ物の飲み込みにくさ、皮膚や白目が黄色くなる(黄疸)、腹痛、男性機能不全などもPNH患者さんによくみられる症状です。これらの多様な症状により、PNH患者さんの生活の質(QOL)は低下しています。

PNH型赤血球とは?
 ヒトには感染症などから身を守る免疫機能が備わっています。その免疫機能で役割を果たすタンパク質の一つに補体があります。補体は病原菌を攻撃し壊すことで、私たちを感染症から守ってくれています。通常、赤血球には、補体からの攻撃を受けないようにするタンパク質(補体制御タンパク質)が付いているため、補体からの攻撃を受けませんが、PNH患者さんで作られるPNH型赤血球にはそのタンパク質が付いていないため、補体によって攻撃を受け、壊されてしまいます。

患者さんの症状やライフスタイルを考慮した治療選択が可能に

 PNHは2010年以前には治療として、骨髄移植、輸血、支持療法などしかなく、PNHのための治療薬はありませんでした。しかし、2010年にPNH型赤血球を壊す補体を抑制する治療薬(抗補体薬と言います)が登場し、命にかかわる症状や合併症が現れるリスクを下げられる可能性が高くなりました。その後、10年以上にわたって治療に大きな変化はありませんでしたが、2023年から2024年にかけて、新しい治療薬が立て続けに4つ登場し、その治療選択肢が広がりました(図)。これまで十分に対応できなかった症状やQOL、生活パターン、ライフスタイルを考慮した治療を検討できる時代へと変わり始めています。

日常生活で困っている症状があれば、医師に相談を

 治療選択肢が広がったことで、病気のコントロール状況やライフスタイル、社会環境などの情報を医師と患者さんが共有し、一緒に話し合い、治療目標や治療方針について意思決定する共同意思決定(Shared Decision Making:SDM)という考え方がPNHでも広がるだろうと考えています。気になる症状があれば、PNHと関係ないと思わずに、医師に相談することが重要です。また、疲れやすさや飲み込みにくさなど少しずつ悪化するような症状や、ずっと続いている症状は自分では気づきにくいケースもあります。今一度、自身の体調を再確認してみてもよいと思います。PNHの状態は症状だけでなく、血液検査の結果からもわかります。自分の体調はこんなもんだとは思わず、例えば、ヘモグロビン値が基準値よりも低い場合は、体調を見つめ直して、日常生活で困ることなど思い当たることがあれば、医師に相談してみましょう。

※1 特定医療費(指定難病)受給者証を取得し治療を行っているPNH患者さんの数(2022年度)
※2 保仙直毅ほか. 発作性夜間ヘモグロビン尿症診療の参照ガイド令和4年度改訂版
 

ノバルティスのPNHへの取り組み
PNHに関する疾患情報サイト「PNHとの生活」をチェック

提供:ノバルティス ファーマ株式会社