2024年6月から新たに3つのがんが保険適用となり、さらに患者の治療の選択肢が広がった。大学病院に隣接する立地を活かした、新しい重粒子線の治療戦略について聞いた。
山形大学医学部附属病院 重粒子線治療センター長
山形大学大学院医学系研究科 医学専攻 放射線医学(放射線腫瘍学分野)講座 教授
小藤 昌志
1996年東北大学医学部卒。放射線医学研究所副所長などを経て、2024年7月より現職。
新たに3種が保険認可、計16種のがんに対応
東北エリア初の重粒子線治療施設として2022年10月より本格稼働している山形大学医学部東日本重粒子センターでは2024年6月から保険適用となった肺がん(5cm以下・Ⅰ期~ⅡA期)、局所進行子宮頸部扁平上皮がん(長径6cm以上)、婦人科領域の悪性黒色腫の3つのがんが新たな治療対象に加わった。治療センター長の小藤昌志医師は次のように語る。
「現在は先進医療を含め16種類のがんが治療可能です。早期の肺がんは一般的な放射線(X線)を用いた定位放射線でも治療できますが、保険適用になったことで高齢の方や肺機能が悪い方、手術や定位放射線で治療が難しい方からの相談が増えています。また、子宮頸部の扁平上皮がんは放射線の感受性が良いがんですが、腫瘍が大きくなると効果が出にくい部位が出てくるため、より威力が強い重粒子線への問い合わせがあります」
重粒子線も放射線の一種だが、X線とは線質に大きな違いがある。X線は身体を突き抜けながら徐々にエネルギーが弱まる性質をもつ光子線で、腫瘍に照射すると周囲の正常組織にも広く当たりやすい。
一方の重粒子線は、「粒子線」という粒状の放射線で、腫瘍の位置で止めることができ、その部位で最大のエネルギーを放出する特性をもつ。 その結果、X線よりも線量の集中性が良く、高線量を安全に投与できるため、「放射線が効きづらい」といわれる腫瘍にも効果があるのも特徴の一つだ。
大学病院との連携を強化した研究を準備
小藤医師は今後、大学病院の附属施設である利点もより活かしていきたいと言う。
「大学病院の病院棟とは接続廊下でつながっており、他科の先生との協力体制を取りやすいのも同センターの強みです。例えば、膵がんに関しては手術が難しい方に重粒子線治療を行い、腫瘍が縮小して手術が可能になれば外科で対応するような臨床研究も始めています」
さらに看護学部とも協力体制を取るという。頭頸部がん患者の重粒子線による治療前・治療後の口腔内環境やQOL(生活の質)を調べるための研究準備が進んでいる。
「重粒子線治療に関わる基礎的な研究や他の治療法との併用療法の研究にはまだまだ発展の余地があります。それを担うのが大学病院の附属施設である当センターの役割の一つと考えています。今後は血液から重粒子線が効きやすいかどうかを調べたり、免疫療法の併用時に役立つマーカーを探索したり、臨床に加えて新たな研究開発にも取り組んでいく予定です」(小藤医師)
INFORMATION
山形大学医学部 東日本重粒子センター
East Japan Heavy Ion Center
https://www.id.yamagata-u.ac.jp/nhpb/
山形大学医学部附属病院 山形県山形市飯田西2-2-2
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