南東北がん陽子線治療センターは南東北病院グループの中核をなす総合南東北病院と連携し、局所進行がんなどへの「集学的治療」に力を入れている。センターの特徴などについて村上昌雄センター長に話を聞いた。

センター長
村上 昌雄
1982年神戸大学医学部卒業。2010年兵庫県立粒子線医療センター院長、神戸大学客員教授、大阪大学招聘教授。2012年獨協医科大学教授。2017年より現職。

動脈に抗がん剤を注入する動注化学療法を併用した陽子線治療を実施

 同センターは2008年の開院以来、24年8月までの16年間で7700例以上の治療を実施してきた。

 村上昌雄センター長は「疾患別割合は前立腺がんと肝臓がんが20%、肺がん、膵がん、頭頸部腫瘍が10数%程度。比較的治療が容易な前立腺がんなど特定の疾患に偏重することなく、早期がんから局所進行がん、あるいは放射線治療後の再発がんなど、治療法が複雑な疾患にも積極的にチャレンジしています」と話す(以下同)。

 同センターの最大の特徴は総合南東北病院と密に連携し、化学療法や手術療法を併用した集学的治療に注力していること。

「内科や外科など他診療科との連携により、外科手術だけ、あるいは陽子線治療単独では困難とされてきた症例に対しても適応となり、がん治療の幅が広がっています」

 その代表的な例が頭頸部がんや膀胱がんに対する動注化学療法併用陽子線治療だ。動注化学療法とは血管からカテーテルを挿入し、がん組織に栄養を送る動脈に直接、高濃度の抗がん剤を流して局所がんを縮小、消失させる治療法のこと。「陽子線治療との併用により、頭頸部や膀胱の機能や形態を温存することも可能です。こうした治療を行っている施設は国内でも稀で、当センターから情報を発信し、標準的な治療法として確立したいと思っています」

正常組織へのダメージを防ぐ「スペーサー手術」

 陽子線でも治療しにくい部位は肝臓の一部や膵臓などの腹部、そして直腸がん術後再発などの骨盤領域のがんだ。何も工夫しないと隣接する胃や十二指腸などの腸管に高線量の陽子線が当たってしまう恐れがある。

「これらのがんに対しても、外科と連携し、事前にがんと消化管との間に患者さん自身の脂肪や術後半年程度で体に吸収される生体吸収性スペーサーを入れる手術を行うことで陽子線が正常組織に当たらないようにしています。スペーサー手術は外科手術で取れないがん、放射線を十分に当てられなかったがんに対して有効な治療法です。特に切除不能の膵体尾部がんはこの手術を行うことで胃に対する線量を減らすことができるので、高線量の陽子線を安全に投与できます。切除不能膵がんでも治癒を期待できる治療法になることを目指しています」

医師、医学物理士、放射線技師、看護師、事務職の全スタッフが一丸となって治療に臨む
医師、医学物理士、放射線技師、看護師、事務職の全スタッフが一丸となって治療に臨む

 陽子線治療はいま、「切らずに治す」だけでなく「切れないがんをも治す」時代になりつつある。

「2027年には新たな陽子線治療施設を建設する予定です。今後、陽子線治療はさらに発展し、従来のX線治療や手術療法にとって代わっていくことは明らかでしょう。これまでの経験や成果を分析、評価してさらなる発展、普及に貢献し、福島・郡山の地から世界へ、がん治療の可能性を広めていきたいですね」

INFORMATION

一般財団法人 脳神経疾患研究所附属 南東北がん陽子線治療センター
〒963-8052 
福島県郡山市八山田7丁目172
TEL  024-934-3888
https://www.southerntohoku-proton.com/

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