目の違和感が気になっていつもストレスを感じる

 13年間にわたるバレーボール選手生活に別れを告げて、チームアドバイザーとして新しい道を歩み始めた鍋谷さん。現役時代の華々しい活躍の裏には、つねに病気との葛藤があった。

「始まりは18歳。高校を卒業し、社会人選手としてスタートすることになった2012年のメディカルチェックです。『専門機関を受診してください』という検査結果を見て、それまで自覚症状のなかった私は何が起こったんだろうと不思議に思うばかりでした」

鍋谷友理枝 Yurie Nabeya クインシーズ刈谷 チームアドバイザー
名門・東九州龍谷高校のキャプテンとして春高バレー三連覇を果たし2012年デンソーエアリービーズに入団。13年には日本代表に選出。16年リオ五輪、17年ワールドグランドチャンピオンズカップ、19年W杯などで活躍。今年3月、クインシーズ刈谷のホームゲーム最終戦で現役を引退。

 甲状腺機能検査の数値に問題があるという結果から、当時の勤務地から近い浜松の甲状腺専門医のもとを訪れ、バセドウ病と診断された。

「今思い返してみると、たしかに症状に思い当たる節がありました。汗をかきやすかったり、いくら食べても体重が増えなかったりしたのは、病気のサインだったのかもしれません」

 すぐ投薬治療を開始したが、その年の末、新たな異変に気づいた。

「テレビに映っている私を見た母から『目が飛び出ているように見える』と言われたんです。バセドウ病は眼球が突出することもあると母が知っていたのでいち早く気づくことができたんですね。毎日鏡を見ている自分では微妙な変化は気がつきにくいので、離れて暮らす家族の指摘はありがたいと感じました」

 すぐ主治医に相談したところ、眼の突出度を計測、突出が認められるとして治療可能な病院を紹介され、甲状腺眼症の治療が始まった。しかし、症状の改善には時間がかかり、その後もさまざまな症状と向き合いながら競技を続けることになった。

「ボールを目で追うと、まぶたがひっかかって気になります。ドライアイも激しく、集中してボールを見ていると涙が出てくるんです。なるべく目薬をさしていましたが、ゴロゴロした感覚はなくならず、いつもストレスを感じていました」

甲状腺眼症ってどんな病気?
免疫システムの異常によって、さまざまな目の症状が起こる疾患です。甲状腺疾患に伴って発症することが多く、バセドウ病患者の25%から50%に起こると言われます。まぶたの腫れやひきつれ、充血、痛み、ドライアイ、ものが二重に見える、目が閉じにくいなどの症状が現れますが、中でも特徴的な目が飛び出したように見える眼球突出が現れることも。症状が重くなると、失明する恐れもあるので、バセドウ病の人は、目の違和感に気づいたらすぐ医師に相談することが大切。バセドウ病とは異なる治療が必要になります。ステロイド治療、放射線治療、手術などに加え、最近は新しい治療薬も登場して治療の可能性が広がってきました。思い当たることがあればまずセルフチェックを。
※Lazarus JH: Best Pract Res Clin Endocrinol Metab. 2012; 26(3): 273-279.

甲状腺疾患にかかわる目の症状を知るサイト
「甲状腺眼症.jp」はこちらから

顔にボールが直撃し硝子体出血で失明の危機に陥ったことも。鍋谷さんはチームの精神的支柱となり、プレー面でも精神面でもチームを支えた。(25.3.1-2 岡山シーガルズ戦)©クインシーズ刈谷

 日常生活でも、目が疲れやすい、目の奥が痛いという症状が続いた。何より気になったのは、眼球が出ているために就寝中も目が開きっぱなしになることだ。

「眠っていても目が閉じないので、周囲の人は私が起きていると思って声をかけてしまうんです。新幹線やバスなどの移動時間に眠る時など、服のフードを深くかぶって気がつかれないようにしていました」

 コンタクトレンズがポロリと落ちてしまうこともあったという。車の運転時は対向車のライトがかなり眩しく、光が目に入らないような角度で運転したりと気を使っていた。

「サングラスも目立つし、そもそも普通のメガネだとまぶたがレンズに当たって違和感がある。いつも目のことを考えている状態でした」

周囲の何気ない一言に落ち込むことも

 立場上、映像や写真が拡散され、容姿に言及される機会も多かった。

「試合が終わると『今日の顔はどうだったかな』と考えてしまう。笑う時には目を半開きにしてみたりもしました。SNSの反応も気になって『雰囲気が変わった』と書かれると『目』という言葉がなくても傷ついてしまったり……。周囲の人の何気ない一言にも、気にしないフリをしながらいちいち落ち込んでいました。だんだん受け流せるようになってきましたが、今でも『目が大きい』という言葉が怖いんです。私自身、言葉で他の人を傷つけないように気をつけたいと強く思うようになりました」

 現在は経過観察中で、眼球突出やドライアイなどは落ち着いている。

「何より早期に治療を受けることが大切。バセドウ病など甲状腺機能障害がある人は甲状腺眼症のリスクが高いので、目にちょっとした違和感があったらためらわず、主治医に相談してほしいと思います」

 投薬や手術、放射線治療などいろいろな治療法があるが、今は新しい薬も登場して選択肢の幅は広がった。

「まれな病気と聞いていますので、この疾病について詳しくないお医者さまもいらっしゃると思いますが、患者さんの困りごとにしっかり耳を傾けて、一緒に考えてほしい。私は家族をはじめ主治医やトレーナーさんなど多くの方に親身になってもらえました。病気は大変でしたが、まわりの人の温かさに触れることができたのはよかったです。今後はチーム・アドバイザーとして活動しますが、選手たちが気持ちよくプレーできるようにサポートしたり、バレーボール教室などの社会貢献活動にも尽力できたらと思います」

早期発見・早期治療が大事!Let’s セルフチェック
3か月以内に以下の症状がある?
□眼が出てきている
□白目が見えてきた
特に朝、以下の症状を感じる?
□まぶたが腫れている
□眼の奥が痛む
□涙が出る
□光がまぶしく見える
□眼が充血している
□眼がゴロゴロする
□眼が乾く
□両目で斜め上や左右を見たときに、物がダブって見える
日常生活で困っている?
□屋外を歩くとき
□車を運転するとき
□文章を読むとき
□仕事をするとき
□階段を上り下りするとき
□テレビを見るとき
□料理をするとき

気になる症状のある方は、医師に相談の上、専門的な診断を受けるようにしてください。

甲状腺疾患にかかわる目の症状を知るサイト
「甲状腺眼症.jp」はこちらから

提供/アムジェン株式会社

資材番号:CA250043CO1


photo:Kenji Ishikawa
text : Ayaka Sagasaki