威力の高い炭素イオンのビームをがんに集中的に照射し、病巣周囲への影響も抑えることができる「重粒子線治療」。11疾患に保険が適用され、身近な治療になりつつある。

量子科学技術研究開発機構 QST病院
病院長 石川 仁

いしかわ・ひとし/1995年群馬大学医学部卒。同大学医学部附属病院、筑波大学医学医療系教授などを経て2024年から現職。専門は放射線腫瘍学、粒子線治療。

がんを集中的に叩く重粒子線治療の実力

 放射線治療は手術同様、固形がんの病巣に働きかける局所治療ですが、がんに高エネルギーの放射線を当ててがん細胞の遺伝子に傷をつけて死滅させます。切らずに治療ができるため、体への負担がきわめて少なく、高齢や持病などで手術を諦めなければならなかった人でも、無理なく治療を受けることができます。臓器の形や機能を温存できることも、大きな強みと言えるでしょう。

 重粒子線治療は、放射線治療の一つです。一般的に用いられているX線は体の表面に最も強く当たって減弱しながら体を突き抜けていきますが、重粒子線は病巣まで進んでから一気にエネルギーを放出して止まるため、病巣周囲の正常組織への影響を抑えつつ、病巣にのみ高い線量を集中させることができます。しかもがんを殺す威力はX線の2~3倍強く、X線が効きにくいがんや、X線ではカバーしきれない大きな腫瘍も治せる可能性があります。

保険適用が拡大し「身近な治療」に

 重粒子線治療は日本が研究と治療の両面でリードしてきた技術で、1994年に放射線医学総合研究所(現・QST病院)で治療が始まりました。その後、各地に治療施設が開設され、現在は山形・群馬・千葉・神奈川・大阪・兵庫・佐賀の7施設が稼働しています。施設が増えるとともに治療を受ける患者さんの数も増え、積み重ねてきた治療実績をエビデンスとして発信し、先進医療から「保険診療」に移行する形で実力が認められてきました。

 2016年に骨軟部腫瘍が保険適用となったのを皮切りに、18年には頭頸部悪性腫瘍と前立腺がん、22年に4cm以上の肝細胞がん、肝内胆管がん、局所進行性膵がん、術後再発した局所大腸がん、局所進行性子宮頸部腺がんが追加。さらに24年には早期肺がんと子宮頸部扁平上皮がん、婦人科領域の悪性黒色腫に適用が拡大されました。稀ながんだけでなく、肺がんのような罹患者数の多いがんに対しても効果が認められ、保険が適用されたことで、治療の機会が広がり、身近な治療になりつつあります。

治療成績向上をめざし、手術や薬物との併用も

 これまで保険適用を求めてきた疾患のほぼ8割に保険が認められましたが、食道がんや腎細胞がんなどがまだ先進医療に残されています。今後、さらに データを積み重ねてより多くの疾患に保険適用を広げていくことは、治療を行う施設に課せられた重要なミッションであり、国内の7治療施設が参加し、多施設共同臨床研究を行っています。すでに保険適用されている疾患についても、治療効果を上げるための線量の増加や治療期間の短縮を図るなどさまざまな臨床試験が進行しています。

 また、根治の可能性を高めていくには、重粒子線治療だけでは限界があり、薬物療法や免疫療法、手術といった他の治療を組み合わせる「集学的治療」が欠かせません。しかし併用療法に関するエビデンスは、X線治療に比べると圧倒的に少なく、集学的治療の中に重粒子線治療をどう組み込んでいくか7施設でともに考え、道筋をつけていければと思います。

 一方、重粒子線の潜在能力を引き出して新たな治療法を開発するために、自由度を上げて施設ごとに研究や治療に取り組むことも必要でしょう。7つの治療施設は、研究に力を入れている施設、大学病院やがん専門病院に付設し、連携しながら診療に取り組む施設、利便性の高い都市型の施設など、それぞれ特色があります。各施設の知恵を結集すれば、より安全でより効果的な治療として発展していけると確信しています。

 重粒子線治療は多くの患者さんの救いになり得る素晴らしい治療であるだけに、患者さんにも医師にも理解を深めていただけるよう、これまで以上に国内外にさまざまな情報を発信していきます。

肺がん Lung Cancer
肺機能が悪くても根治を目指す治療を

▶︎肺がんの罹患者数は12万4531人(2021年)。部位別では大腸がんに次いで第2位。男性に多く、女性の約2倍の罹患者がいる。部位別死亡者数では第1位。

九州国際重粒子線がん治療センター
センター長 塩山 善之

しおやま・よしゆき/1990年九州大学医学部卒。筑波大学陽子線医学利用研究センター講師、九州大学大学院医学研究院教授などを経て、2016年より現職。

 近年、肺がんは画像診断の進歩や検診の普及などによって、転移のない段階で見つかるケースが増えています。早期の根治的な治療は手術が第1選択ですが、高齢や持病があるなどさまざまな理由で手術が難しい場合には、体への負担が少ない放射線治療が有力な選択肢となります。特に肺がんの約8割を占める非小細胞肺がんは、放射線が効きづらいタイプではあるものの、X線の定位照射や粒子線治療で病巣に線量を集中させることで制御できるようになり、手術と遜色ない治療成績をおさめています。

 重粒子線はX線による定位照射よりもさらに線量集中性に優れ、周囲の正常組織へのダメージを抑えることができます。とりわけ間質性肺炎やCOPD(慢性閉塞性肺疾患)などを合併していてもともと肺機能が非常に悪く、できるだけ機能を温存したい患者さんには、メリットが大きい治療と言えるでしょう。

 また手術は可能でも、さまざまな理由で手術を希望しない患者さんの選択肢にもなり得ます。2024年6月から5cm以下の早期肺がん(Ⅰ期~ⅡA期)の重粒子線治療が保険適用となり、治療を受けやすくなりました。早期であれば、重粒子線治療も含めて治療の選択肢は広がります。年齢や体の状態、生活スタイル、人生観などを考慮しながら、ご自身が納得できる治療を選んでいただきたいと思います。

右肺上葉末梢の腫瘍は重粒子線治療により縮小、治療後7年わずかな瘢痕を残すのみとなっている。

頭頸部がん Head and neck cancer
治療が手詰まりの難治頭頸部がんに効果

▶︎頭頸部がんは日本人のがん全体の約3%で、年間約3万3000人が罹患(甲状腺がんを除く)。鼻・副鼻腔、口腔、咽頭、聴器など様々な臓器のがんが含まれる。

山形大学医学部附属病院
重粒子線治療センター長 小藤 昌志

ことう・まさし/1996年東北大学医学部卒。QST病院で重粒子線治療法の開発、確立に携わってきた。2024年より現職。専門は頭頸部がんの重粒子線治療。

「頭頸部がん」は鎖骨から上の脳と目を除く部分に発生するさまざまな悪性腫瘍の総称です。頭頸部には呼吸する、見る、聞く、話す、食べる、味わうといった生活の質を維持する上で欠かせない機能が集中しており、容姿にも大きくかかわります。そのため手術だけでなく、機能や形を温存しながら根治を目指せる放射線治療が活用されています。

 頭頸部がんの約9割を占める扁平上皮がんは通常のX線による放射線治療や薬物療法が有効ですが、残りの約1割はX線も薬物も効きにくく、手術ができない場合は手詰まりになります。こうした他に治療法がないがんに対して、“最後の砦”の役割を果たしているのが重粒子線治療です。重粒子線はがんを叩くパワーが強い上に、病巣まで進んでから一気にエネルギーを放出して止まる性質があり、高い線量を病巣に集中させることでX線が効きづらかったがんにも効果が期待できます。高い線量集中性のおかげで、病巣周囲の正常組織への線量を抑えて、機能を温存しやすいこともメリットと言えるでしょう。

 2018年から頭頸部悪性腫瘍(口腔・咽喉頭の扁平上皮がんを除く)に、保険が適用されるようになりました。根治の可能性があるにもかかわらず、治療の存在自体を知らない患者さんもおられます。重粒子線治療が適応になる患者さんが治療にたどり着けるように、重粒子線治療を行う7施設では医師や一般に向けた啓発活動を展開しています。

左上顎洞の腫瘍。治療前には顔面の変形が見られたが、治療後腫瘍は縮小し、顔面の変形も改善した。

膵臓がん Pancreatic Cancer
手術困難ながんが治療できるケースも

▶︎膵臓がんの罹患者数は4万5819人(2021年)で、年々増加している。死亡者数は全がん中で第3位だが、5年生存率は最も低い水準にあり、難治がんの代表格だ。

量子科学技術研究開発機構QST病院
治療診断部長 篠藤 誠

しのとう・まこと/2003年九州大学医学部卒。日本医学放射線学会放射線科専門医。専門は放射線腫瘍学。

 近年、膵臓がんの罹患者数は増加傾向にあります。早期発見が難しい上に、治療に難渋することが多く、2023年の死亡者数は4万人を超え、がんの種類別死亡者数では胃がんを抜いて第3位となりました。遠隔転移がない段階における最も根治性の高い治療は手術ですが、高齢や合併症、主要な血管にがんが浸潤しているなど、さまざまな理由で手術ができない場合も少なくありません。22年から、手術による根治的な治療が困難な局所進行性膵臓がんに重粒子線治療が保険適用となり、治療の機会が広がっています。

 膵臓がんは放射線が効きにくい上に、周囲を消化管などに囲まれているため、X線を用いた従来の放射線治療ではがんを制御できるほどの高線量を安全に投与するのは困難でした。重粒子線は体内での散乱が少なく、より狭い範囲に線量を集中させることができるため、周囲への影響を最小限に抑えつつ、高い線量を照射することが可能です。とはいえ、局所にとどまっているように見えても目に見えない小さな転移があることが多いので、根治性を高めるために全身療法の抗がん剤を組み合わせるなど、集学的な治療戦略が欠かせません。

 難治がんの代表とも言われる膵臓がんですが、重粒子線治療は根治を諦めない選択肢になり得ます。より良い戦略で治療に臨んでください。

消化管に浸潤がなく、安全に消化管を避けて照射できる場合は重粒子線治療の適応となる。一方、消化管に浸潤があり、安全に消化管を避けて照射できない場合は重粒子線治療適応外となる。

大腸がん Colorectal Cancer
再発でも根治が可能。骨盤内再発に保険が適用

▶︎大腸がんは1975年以降増え続けており、2021年の罹患者数は15万4585人で、全がん中トップ。男女ともに40歳代から増え始め、年齢を追うごとに罹患率が高まる。

量子科学技術研究開発機構QST病院
治療診断部消化器腫瘍課医長 瀧山 博年

たきやま・ひろとし/2008年東京大学医学部卒。日本外科学会認定専門医。専門は外科学、放射線腫瘍学。

 大腸がんは他の多くの部位のがんと違って、術後にがんが再発したり他臓器に転移したりしても、手術や放射線治療といった局所的な治療をすることで根治が期待できます。しかし骨盤内に再発した場合は奥深く狭い位置に病巣があって手術が難しく、従来のX線による放射線治療も、放射線に弱い腸や膀胱があるために、がんを治し切れるほどの十分な線量を照射できないのが実情です。

 2022年4月から、こうした手術が困難な大腸がんの骨盤内再発を対象に重粒子線を含めた粒子線治療が保険適用になりました。重粒子線はX線よりも殺細胞効果が強い上に、病巣の位置で線量を一気に放出して止まる性質があり、がん周囲の正常組織への影響を最小限に抑えつつ病巣に高い線量を集中させることが可能です。また、病巣が腸に接していても、手術で特殊なシート(スペーサー)を挟み込んでから照射することで、副作用を極力減らせるようになりました。これまで治療ができなかった患者さんも根治を目指せるようになり、良好な治療成績が得られています。

 現在、大腸がんで保険が適用されるのは骨盤内の再発のみですが、肝臓と肺、リンパ節の少数転移(3個以内)は、先進医療で治療を受けることができます。将来的に原発巣の治療にも活用するなど、さまざまな研究が進められています。

肝臓がん Liver Cancer
高い線量集中性で大きながんを叩く

▶︎肝臓がんの罹患者数は3万4675人(2021年)。男女比は2:1で男性に多い。50歳代から増加し、80~90代がピーク。2000年以降罹患率、死亡率は減少傾向にある。

大阪重粒子線センター
センター長代理 鈴木 修

すずき・おさむ/2000年大阪大学医学部卒。大阪府立成人病センター放射線治療科、大阪大学大学院医学系研究科重粒子線治療学寄附講座寄附講座准教授などを経て2025年から現職。

 肝臓がんのほとんどは、肝臓の細胞ががん化する「肝細胞がん」です。2022年4月から「手術による根治が難しい4cm以上の肝細胞がん」に対する重粒子線治療が保険適用になり、治療の機会が広がりました。

 肝細胞がんはこれまで肝炎ウイルス由来で発症するケースが多くを占めてきましたが、近年はアルコールの多飲や脂肪肝など生活習慣病が原因のがんも増え、定期的な検診を受けていないためにがんが大きくなってから見つかることも少なくありません。もともと肝機能が悪い人が多く、肝機能を悪化させないようにがんの治療をすることが重要です。治療の選択肢には手術、ラジオ波焼灼療法、肝動脈塞栓療法、放射線治療(X線)などがありますが、がんが大きいと治療ができなかったり、十分な治療効果を得られない場合もあります。一方、重粒子線はX線よりも威力が強く、線量集中性が高いという強みを生かし、病巣周囲の肝臓へのダメージを抑えながら大きながんを叩くことが可能です。現在保険が適用されるのは4cm以上ですが、サイズにかかわらず他の治療が難しい患者さんが治療を受けられるよう、保険適用の拡大をめざしているところです。

 なお、肝臓がんの約1割に当たる肝内胆管がんでも重粒子線治療に保険が適用されます。手術では取りにくい肝門部に進展している腫瘍なども、重粒子線であれば治療できる可能性があります。

前立腺がん Prostate Cancer
副作用を大きく軽減 高リスクがんにも効果

▶︎前立腺がんの罹患者数は9万5584人(2021年)。男性の部位別罹患者数では第1位。50歳以降から加齢とともに増え、日本人男性の約9人に1人が発症している。

神奈川県立がんセンター重粒子線治療センター
治療科部長 加藤 弘之

かとう・ひろゆき/2001年群馬大学医学部卒。群馬県立がんセンター、QST病院、群馬大学・重粒子線医学研究センターなどを経て、2018年より現職。

 前立腺がんは男性で最も多く、今後も罹患者数が増えることが予測されています。近年は検診の普及などで、多くが他臓器に転移のない状態で見つかるようになっています。この段階の根治的な治療は手術のほかに、体に負担が少ない放射線治療も有力な選択肢です。高齢者に多いがんだけに、体力面や持病などで手術が難しい患者さんでも治療が可能で、通院で治療を受けられることも大きなメリットと言えるでしょう。

 前立腺がんの場合は、放射線治療にもX線や粒子線による外照射、組織内照射などさまざまな選択肢があります。治療成績にほとんど差はないものの、重粒子線は優れた線量集中性が強みで、外照射の中でも病巣周辺に当たる範囲や線量が最も少なく、近接する直腸や膀胱に生じやすい副作用を大幅に抑えることができます。2018年から保険適用され、良好な成績を積み重ねてきました。特に、高リスクに分類される悪性度の高いタイプには、がんを殺す威力が強い重粒子線治療の特性が生かされている印象です。

 たくさんの治療の選択肢がある中で、どの方法を選ぶべきか、迷ってしまう患者さんも少なくありません。前立腺がんは心筋梗塞や脳卒中のような一刻を争う病気ではなく、考える時間はあります。医師の説明を聞き、正確な情報を集め、ご自身の病状やそれぞれの治療のメリットとデメリットを十分に理解した上で、納得できる方法を選択してください。

前立腺には膀胱や直腸が近接している

婦人科がん Gynecological Cancer
X線では効果が不十分な腺がんや大きながんも

▶︎子宮頸がんの罹患者数は1万690人(2021年)。若い人に多く、女性の部位別では第5位だが、20代から30代の女性では第1位となっている。

山形大学医学部東日本重粒子センター
赤松 妃呂子

あかまつ・ひろこ/2009年山形大学医学部卒。QST病院などを経て、2014年に山形大学医学部附属病院。2017年医学博士(山形大学)。現在は放射線治療科助教・医学部講師。

 婦人科領域では主に「子宮頸がん」に対して重粒子線治療が行われています。子宮頸がんは他の多くのがんと違い、20代~40代といった若い世代にも多く発症しています。子宮頸がんの組織型の7割以上は扁平上皮がんで放射線が効きやすく、通常のX線による放射線治療が行われてきました。しかし残り2割程度の腺がんは放射線に対する感受性が弱く、X線では十分な効果を得られないことがあります。一方、高い殺細胞効果を持つ重粒子線であれば、腺がんでも効果的に治療することができ、近接する膀胱や腸も含めた正常組織を避けながら、がんだけに集中的に照射することが可能です。

 2022年からは手術が困難な局所進行性子宮頸部腺がんは、保険適用で重粒子線治療が受けられるようになりました。さらに2024年6月からは6cm以上の扁平上皮がんと、婦人科領域の悪性黒色腫にも保険適用が拡大されました。

 治療には可能であれば化学療法を併用します。重粒子線の外部照射単独で行う場合と、重粒子線と小線源治療(腔内照射)を併用する方法があり、施設によって採用している方法は分かれます。いずれも予防域を含めた広い範囲から照射を始め、最終的に残った腫瘍に線量を集中させてがんを残さず叩く治療計画で、高い効果が期待できます。

40歳代女性 子宮頸癌(扁平上皮癌)
治療前に最大径7cmであった腫瘍が縮小、消失した。

骨軟部腫瘍 bone and soft tissue tumor
放射線抵抗性の肉腫も機能温存しつつ根治を

▶︎悪性の骨軟部腫瘍は肉腫とも言われ、年間人口10万人あたりの患者数が6人未満とされる“希少がん”の一つ。生活習慣に関係なく発症する。

九州国際重粒子線がん治療センター
診療部長 松延 亮

まつのぶ・あきら/2000年広島大学医学部卒。九州大学病院、QST病院、福岡大学病院などを経て、2020年より現職。

 骨軟部腫瘍は骨や血管、脂肪、筋肉といった軟部組織から発生する腫瘍の総称です。部位も組織型も多種多様で、子どもから高齢者まで幅広い年代で発症します。そのうち悪性のものは「肉腫(サルコーマ)」と呼ばれ、発症率の低さから希少がんに分類されます。

 治療は転移がなければまず手術が検討されますが、腫瘍の局在部位や範囲によっては、手術による機能損失が大きい、手術侵襲が大きいなどさまざまな理由で手術が困難な場合には、重粒子線治療が有力な選択肢になります。骨軟部肉腫は放射線感受性が低いものが多く、従来のX線治療では十分な治療効果が得られませんでした。重粒子線はX線よりも強い威力で重要な器官を避けながら照射ができるため、機能をできる限り温存しながら根治を目指すことが可能です。臨床成績で優位性が認められ、重粒子線治療で最初に保険が認められました。また以前は治療できなかった腸に近接している病巣も、近年は腸と病巣の間にスペーサー(吸収性のシート)を挿入して間を開けることで照射できるようになり、治療の対象が広がっています。

 希少がんのため、専門家も限られ、情報を得にくい病気ですが、重粒子線治療という根治的な治療手段が増え、重粒子線治療と手術を組み合わせるなど新たな治療法の開発も進められています。諦めずに、主治医や重粒子線治療施設にご相談ください。

右腸骨原発骨肉腫。重粒子線治療5年後、腫瘍は縮小し、PETの集積も消失している。

山形大学医学部附属病院

重粒子線治療 センター長 小藤 昌志
1996年東北大学医学部卒。QST病院で重粒子線治療法の開発、確立に携わってきた。2024年より現職。専門は頭頸部がんの重粒子線治療。

 北海道・東北エリア初の重粒子線治療施設として2021年より本格稼働。国内2例目の回転ガントリー装置を超伝導技術により超小型化することで、大学病院併設を実現させた。各診療科と協力しながら診療を行っている。

量子科学技術研究開発機構QST病院

病院長 石川 仁
1995年群馬大学医学部卒。同大学医学部附属病院、筑波大学医学医療系教授などを経て2024年から現職。専門は放射線腫瘍学、粒子線治療。

 放射線医学総合研究所の病院部として設立。1994年から重粒子線治療を開始し、臨床研究と治療装置の開発の両面から重粒子線治療を牽引してきた。国内7施設の多施設共同臨床研究グループ(J-CROS)も組織している。

神奈川県立がんセンター重粒子線治療センター

部長 加藤 弘之
2001年群馬大学医学部卒。群馬県立がんセンター、QST病院、群馬大学・重粒子線医学研究センターなどを経て、2018年より現職。

 世界初のがんセンター併設型の治療施設として各診療科の専門医と連携した診療を行う。最新の高速三次元スキャニング照射法のほか自動調整できるロボット治療台、全治療室にCTを設置し、精密な治療を実現している。

大阪重粒子線センター

センター長代理 鈴木 修
2000年大阪大学医学部卒。大阪府立成人病センター放射線治療科、大阪大学大学院医学系研究科重粒子線治療学寄附講座 寄附講座准教授などを経て2025年から現職。

 大阪の中心部に位置する通院型の治療施設。動体追跡照射システムを採用した高精度の高速スキャニング照射を実現。隣接する大阪国際がんセンターや在阪5大学など近畿圏の多くの病院と連携し、治療を行っている。

九州国際重粒子線がん治療センター

センター長 塩山 善之
1990年九州大学医学部卒。筑波大学陽子線医学利用研究センター講師、九州大学大学院医学研究院教授などを経て、2016年より現職。

 2013年に開院した九州地区唯一の重粒子線治療施設(愛称:サガハイマット)。照射角度や照射法の異なる3つの治療室を備え、通院治療が中心の社会生活重視型施設として、最先端の重粒子線治療を提供している。

この記事の掲載号

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