「世界最高のがん医療・がん予防の提供」「世界レベルの新しいがん医療・がん予防の創出」をビジョンに千葉県柏エリアの研究機関と協働。新規治療のチャンスを患者に提供する。

院長 土井 俊彦
どい・としひこ/1989年岡山大学医学部卒。四国がんセンターを経て02年より国立がんセンター東病院。24年4月より現職。

日本発の新しい医療を開発
患者支援は手厚く継続的

 当院は、国のがん医療および研究の基幹病院です。がん全般の診断・治療等を行い、特に治療の難しい難治がんに力を入れています。また、柏エリアに集積する大学や企業の研究室と連携し、新しい治療法の開発に取り組んでいます。

 がん医療の研究開発は非常に速いスピードで進んでいます。日本は、研究力はあるものの実際の医療に活かす力は弱いと言わざるを得ません。当院では、大学などの研究室で生まれた有望な“シーズ”と開発力のある企業を結びつけ、日本発の新しい医療として世の中に出すことを目指しています。これまでに、血液のがんに対するCAR-T細胞療法や再生医療などで成果をあげてきました。

 当院に隣接する「三井リンクラボ柏の葉1」には、先端技術を持つ国内外の企業が集まり、当院の「先端医療開発センター」と協力して新しい検査法や治療法の研究を進めています。病院と研究開発機関が隣接していることにより、研究の成果をいち早く患者さんに届けると同時に、臨床のエビデンスを研究に活かすことができます。今後、研究開発力をさらに加速させ、ドラッグラグ・ロスの解消を目指します。

新規医療創出のため、世界最大級の産業クラスター「テキサス・メディカル・センター」とパートナーシップを締結

 新しい医療をより多くの患者さんに届けるために重視しているのが、多職種によるチーム医療です。初診時から退院後の生活に至るまで、一人ひとりにより適した支援を提供しています。がんの患者さんは病気が分かったときから様々な苦しみを抱えがちですが、緩和医療科のチームが支えます。

 2022年には敷地内にホテルがオープンしました。当院と連携したスムーズな宿泊予約が可能で、ケアスタッフが24時間常駐しています。

 医療連携も活発で、地域の医療機関の他、山形県鶴岡市の病院とは新しい治療法を希望する患者さんのリモート診療、ナビゲーションシステムによる腹腔鏡手術支援などで協力関係を築いています。がん医療では患者さん自身が治療に積極的に参加することも大切です。安心して快適に治療を受けられるように私たちが伴走し、精一杯支えます。

消化管内科
ウイルス療法など、治療が難しいがんに新たな選択肢を

消化管内科医長 小島 隆嗣

 食道がん、胃がん、大腸がんを中心としたがん薬物療法と臨床研究に取り組んでいます。科学的根拠に基づく標準治療をベースにしながら、治験という形で新たな治療の選択肢を患者さんに提供しています。その1つが「ウイルス療法」です。これは、がん細胞にウイルスを感染させて攻撃させる治療法で、「腫瘍溶解性ウイルス療法」と呼ばれます。治療に用いるウイルスは、遺伝子組み換えなどにより改変されており、正常な細胞には影響を与えません。さらに、免疫チェックポイント阻害薬の効果を高める作用も期待されています。脳腫瘍に対してはすでに承認されていますが、現在、消化管のがんに対する治験が進行中です。近年、さまざまな新薬が登場し、従来は治療が難しかった患者さんにも新しい選択肢が広がってきました。初回治療から治験に参加できる場合もあります。標準治療に加えて、臨床研究や治験を通じてより先進的な治療を患者さんにお届けできる体制を整えています。

チームでがん治療に取り組む

消化管内視鏡科
光線力学療法を含め内視鏡治療を幅広く提供

消化管内視鏡科長 矢野 友規

 早期の食道がんや胃がん、大腸がんの低侵襲治療として内視鏡的粘膜切除術(EMR)や、内視鏡的粘膜下層剥離術(ESD)を多数行い、光線力学療法(PDT)も提供しています。PDTは、がん細胞に集まりやすい光に反応する薬を血管内に注射した後、内視鏡で患部にレーザーを当て腫瘍を壊死させる治療法です。消化器では放射線治療後や化学放射線療法後に遺残している、または再発した食道がんに保険適用されていますが、当院は開発を主導した施設の一つです。がんやがん治療に伴うつらい症状を緩和する治療も行っています。手術後に狭くなった食道を広げる治療に用いるステントとして、体に吸収されるタイプも開発されていて、このステントは当院で臨床試験を行い、2025年6月に薬事承認となったばかりです。様々な臨床試験に取り組み、現在は根治が難しい食道がんに対する光免疫療法の医師主導治験を実施しています。

内視鏡による検査と治療を専門に行う

肝胆膵内科
神経内分泌腫瘍に対する「放射線内用療法」を提供

肝胆膵内科医長 今岡 大

 肝臓がん、胆道がん、膵がん、神経内分泌腫瘍に対する検査やがん薬物療法を行っています。神経内分泌腫瘍とは、ホルモンを分泌する神経内分泌細胞に似た性質を示す腫瘍で、様々な臓器に発生します。転移などで手術ができない場合に薬物療法が行われますが、近年、放射線内用療法と呼ばれる治療が行われるようになってきました。この治療で用いる薬剤は、腫瘍に選択的に取り込まれて放射線を放出し、腫瘍の増殖を抑えます。周囲の正常細胞への影響を最小限に抑えられるため身体への負担が少ないことが利点で、薬物療法と放射線療法の「いいとこ取り」と言える治療です。治療は放射線対応の個室で行い、一般に2泊3日の入院が必要です。現在、他の疾患にも有効な薬剤や、より強力な薬剤の開発も進められており、医師、薬剤師、看護師、放射線技師などの診療チームが一丸となって取り組んでいます。

専用の部屋で行う放射線内用療法

精神腫瘍科
がん患者さんと家族の心のつらさを和らげる

精神腫瘍科長 小川 朝生

 がんの治療には精神的な負担や社会的な負担が伴います。また、診断を受けたときや治療が済んだあとも、精神的な支援が必要になることが多くあります。精神腫瘍科は、がん患者さんのすべての時期でご本人やご家族に心のケアを提供する診療科です。

 眠れない、気分が落ち込む、気持ちが揺れるなど、心のつらさを和らげるサポートを行い、ご家族の介護疲れにも対応します。最近は認知症を持つ患者さんを支援することも増えています。認知症の方も治療法などを自分で決めることが大切なので、意思決定のサポートなども行います。また、入院中にせん妄の症状が現れることが少なくないため、認知症看護、緩和ケア認定看護師や公認心理師などとチームを組んで病棟をまわり、せん妄の予防や悪化の防止に取り組んでいます。若いがん患者さんに対するサポート体制も整う当院の強みは、多職種によるチーム力です。

じっくりと話を聞く小川医師

感染症科
がん治療中の感染症予防、治療、啓発に取り組む

感染症科長 冲中 敬二

 感染症科は、がん患者さんが感染症にかかったり重症化したときに、主治医と協力して感染症を治療する診療科です。感染症予防の啓発にも力を入れています。

 がん患者さんは高齢者が多く、もともと感染症への抵抗力が下がっています。そこへがん薬物療法等による免疫不全が加わることで、さらに抵抗力が低下します。感染症予防に有効なのがワクチンです。がん治療中でも、生ワクチン以外は基本的に接種できます。当科はワクチン外来を設置し、インフルエンザや肺炎球菌による肺炎、帯状疱疹などのワクチン接種を薦めています。また、感染制御室と協働して、「がん患者さんにお薦めのワクチン」と、接種してもよいワクチンを主治医がチェックするシート(誰でも印刷可)をホームページに掲載。がん患者さんとご家族のために、感染症やワクチンについて分かりやすく解説した冊子も用意しています。

感染制御室と感染症対策を展開

INFORMATION

国立がん研究センター 東病院
千葉県柏市柏の葉6・5・1
電話 04・7133・1111(代)
https://www.ncc.go.jp/jp/ncce/

■診療科目/頭頸部外科、頭頸部内科、形成外科、乳腺外科、腫瘍内科、呼吸器外科、呼吸器内科、食道外科、胃外科、大腸外科、消化管内科、消化管内視鏡科、肝胆膵外科、肝胆膵内科、泌尿器・後腹膜腫瘍科、婦人科、骨軟部腫瘍科、リハビリテーション科、血液腫瘍科、小児腫瘍科、歯科、総合内科、循環器科、麻酔科(橋本学)、集中治療科、緩和医療科、精神腫瘍科、放射線診断科、放射線治療科、病理・臨床検査科、先端医療科、感染症科、皮膚腫瘍科、脳神経外科、眼科、国際臨床腫瘍科

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