
院長 山路 健
やまじ・けん/1988年順天堂大学医学部を卒業後、95年に同大学大学院で博士号を取得。アメリカ留学を経て、同大学膠原病内科で研鑽を積み、膠原病・リウマチ性疾患を含む難病医療に注力する。2019年より同大学教授。同大学医学部附属病院院長補佐、副院長を経て25年4月より現職。
病院が抱える課題をAIの活用で解決
当院は特定機能病院として、高度な医療を提供する役割を担ってきました。あらゆる領域において質の高い医療を安全に患者さんに届けるのはもちろんのこと、「ぬくもりを感じられる信頼できる病院」をめざしています。
その実現に向けた取り組みの中で、近年、特に力を入れているのがAI(人工知能)を活用したDX化です。DXは人手を省くイメージが強く、ぬくもりと逆行しているように感じるかもしれません。しかしマンパワーには限りがあるからこそ、デジタルシステムをうまく組み込むことが大切です。当院では日本アイ・ビー・エムと共同でさまざまなシステムを開発し、運用を開始しています。
中でも「AIコンシェルジュ」は、患者さんにとってAIを身近に感じられる事例です。ホームページ上から、AIのナビゲーションに従って初診の事前受付を行えるシステムで、土日や夜間でもご自宅のPCやスマホを使って自分のペースで入力し、新規のカルテ作成から初診枠の予約まで済ませておくことができます。受診当日も、院内に置かれたモニターを通してアバターがさまざまな質問に回答したり、バーチャルホスピタル上で案内をしてくれたりします。もちろんスタッフもいますので、AIを使うのが難しい方にはこれまで以上にじっくり対応できるようになりました。
AIは医療連携の推進にも大いに役立っています。当院では年間約3万人が急性期の治療を終えて退院しますが、そのうちの約5%は医療やケア、あるいは専門的なリハビリテーションが必要な方や、在宅医療を受けたい方たちです。これまで職員が手作業で対応可能な転院先や介護サービスを探してきましたが、2025年からAIを活用した「PFM(Patient Flow Management)AIマッチングシステム」を導入しました。転院を引き受ける4000件以上の医療機関や介護サービス事業所からアンケートで詳細な情報を集めてデータベース化し、カルテのデータをもとにした患者情報と照合して適切な引受先をリストアップするシステムです。退院後の環境をより速く整えられるようになったことで、患者さんやご家族の不安の軽減につながっています。
DXによる効率化でゆとりが生まれ、スタッフが患者さんと向き合う時間やエネルギーが確保しやすくなりました。AIはぬくもりある医療を実現する上で強い味方になると期待しています。
パーキンソン病センター Parkinson’s Disease Center
一人ひとりに合わせた治療で患者さんに寄り添い、支える
はたの・たく/1999年順天堂大学医学部卒業。2025年4月よりパーキンソン病センター長。同年8月より順天堂大学脳神経内科教授を兼務。国際パーキンソン病・運動障害疾患学会理事。
パーキンソン病は、運動にかかわる神経伝達物質(ドパミン)が何らかの原因で減少することで、運動機能が障害される病気です。神経変性疾患の中ではアルツハイマー病に次いで患者数が多く、加齢とともに発症しやすくなることから、今後、人口の高齢化が進む中で増加していくことが予測されています。パーキンソン病の症状は手足の震えや筋肉のこわばり、身体のバランスがとりにくいといった運動症状だけでなく、精神症状、睡眠障害、便秘、もの忘れ、嗅覚障害など多岐にわたり、一人ひとり現れ方が異なります。そのため画一的な治療ではなく、個々の患者さんに合わせた細やかな対応が不可欠です。根治が難しい病気ですが、治療の中心となる薬物療法では次々と新しい薬が開発されていますし、脳の深いところの核を刺激する外科療法や持続注入ポンプといったデバイス補助療法など選択肢は少なくありません。
当院の脳神経内科は、パーキンソン病の診療と研究において国内外でトップレベルの実績があります。2025年4月に「パーキンソン病センター」を新設し、脳神経内科を中心に脳神経外科、リハビリテーション科、メンタルクリニック、消化器外科など各分野の専門家が連携して、生活指導やリハビリテーション、精神的なケアなども含めた多角的な治療アプローチを行っています。パーキンソン病は長く付き合っていかなければならない病気ですから、患者さん自身が何をやりたいのか、どう生きたいのか、一人ひとりの希望に耳を傾け、私たちが持つ医療の知識や経験とすり合わせて、ベストな治療を一緒に考えていくことが大切です。患者さんの不安を軽減し、楽しく心地よく生きていけるように、しっかりと支えていきます。
頭頸部がんセンター Head and Neck Cancer Center
豊富な治療の選択肢で、QOLを落とさず根治を目指す
まつもと・ふみひこ/2000年順天堂大学医学部卒。癌研究会附属病院、国立がん研究センター中央病院などを経て順天堂大学耳鼻咽喉・頭頸科教授。25年4月より頭頸部がんセンター長を兼任。
頭頸部がんは、首から上の鼻腔や口腔、咽頭、喉頭、耳下腺、甲状腺などに生じる悪性腫瘍の総称です。頭頸部には「呼吸をする」「食べる・飲む」「話す」といった基本的な生活にかかわる機能が集中しており、見た目にも大きく影響します。がんをしっかり治すのはもちろんのこと、治療後のQOL(生活の質)を維持するために後遺症をいかに抑えるかが非常に重要で、治療には高度な専門知識を持つ医師と、チームによるサポートが欠かせません。
当院は2025年4月に「頭頸部がんセンター」を新設し、頭頸部がん指導医資格を持つ耳鼻咽喉科医と放射線科医を中心に、食道胃外科、脳神経外科、消化器内科、形成外科といった各分野の医師、さらに看護師、リハビリテーションを担当する専門職などが協力して治療に取り組む体制を強化しました。手術、放射線治療(外照射・組織内照射)、抗がん剤治療のほか、超選択的動注化学療法や光免疫療法のような特殊な治療や再建手術まで、ほぼすべての治療の選択肢を提供できることが強みです。特に手術は、早期がんであれば低侵襲で機能低下が少ないロボット手術をしたり、大きく切除しなければならないときは形成外科医が機能再建を行ったりします。また、複雑な場所に発生したがんを脳神経外科の医師と一緒に手術をしたりなど、バリエーションが豊富です。
頭頸部がんは生命だけでなく機能や見た目にもかかわるだけに、治療の選択に迷う患者さんも少なくありません。私たちは頭頸部がんの専門家として一人ひとりの患者さんに選択肢となり得る治療法の説明をした上で、これまでの治療経験をもとに最善の治療をアドバイスするように努めています。安心してお任せください。

