「おかざきよろず心のクリニック」の岩崎寿史院長は、発達障害ではなく「発達特性」と捉え、子どもたちが自信を持って社会に踏み出せるよう支援を続けてきた。2024年には診療体制を拡充し、より静かな環境で作業療法や言語療法を行えるよう診察室を増設整備。さらに同年11月には、障害のある人が安心して働き、正当な対価を得られる場として「久遠チョコレート&ドゥミセック岡崎店」をオープンした。自己肯定感を高め、社会の一員として“稼ぎ、生きていく力”を育てる。その情熱が、発達特性を持つ子どもたちの未来を確実に変えはじめている。

院長 岩崎 寿史
いわさき・ひさし/1986年東京大学法学部第二類(公法コース)卒業。2003年名古屋大学医学部医学科卒業。2010年より特定医療法人共和会共和病院医局長を務め、2016年「おかざきよろず心のクリニック」開院。

「心のよろず相談所」として、あらゆる年代を支える

 おかざきよろず心のクリニックは、その名の通り「あらゆる心の悩みに応える場」を目指して設立された。「子ども、親、祖父母という全年齢層の心のかかりつけ医になりたいという思いから、院名に『よろず』と入れました」と岩崎寿史院長は語る。発達特性、統合失調症、躁うつ病、認知症まで、幅広い症状に対応する。

 患者層は小学生を中心に、未就学児から成人までと幅広い。診療では医師の診断のもと、有資格のカウンセラーがカウンセリングを行い、看護師、心理士、作業療法士、言語聴覚士、精神保健福祉士が連携するチーム医療を実践している。

「当院では一人ひとりに合わせてゴールを設定し、3カ月、6カ月と段階を踏んで治療を進めていきます。発達特性を持つ子どもの中には、接し方を変えるだけで投薬が不要となるケースも少なくないのです。2024年6月には、静かな環境で作業療法や言語療法を行えるよう診察室を増設し、支援の質を高めています」(岩崎院長、以下同)

「医療だけで完結しない心の支援」を掲げるのが同院の特徴。「対話」から始まる診療は、家庭や学校、地域社会をつなぐ支援を念頭に置いている。

行政と連携、デイケアは学校の出席扱いに

 同クリニックでは、小学生から20歳未満の若者を対象に「デイケア」と「ナイトケア」を実施している。どちらも教育・行政・医療の三者連携の好例として注目を集めており、地域の支援ネットワークの核となりつつある。

クリニック2階では、デイケア・ナイトケアを行っている。

 デイケアでは、発達特性を持つ子どもたちが勉強やレクリエーション、作業活動を通して能力を伸ばす「ハビリテーション」を実施。岡崎市や愛知県教育委員会に認定され、学校の出席扱いとなるため、受験において内申点の不利もない。

「晴れた日には散歩やスポーツを取り入れ、敷地内にある施設でバランスボールやトランポリンなど、体を動かす活動も行っています。携帯電話やSNSとの付き合い方、友達との距離のとり方も学んでいます」

修学旅行に行きたくても行けない子たちのために、デイケアでは、2年前からデイケア修学旅行を企画。子どもたち主導で計画を立て、スケジュールを組む思い出の時間となっている。

 手先を使うレクリエーションも多く、楽しみながら集中力や社会性を育てていく。勉強面では、漢字の読み書きが苦手な子には「体の感覚」を使った学習法を導入。「発達特性を持つ子は、何度もノートに漢字を書いても覚えにくいですが、体を動かして全身で漢字を覚える“エア漢字ノート”のような工夫が効果的です」

 ナイトケアでは、宿題や学習支援を中心に、一人ひとりのペースに合わせた指導をする。「勉強が苦手でも“学ぶ楽しさ”を取り戻せる場にしたい」と岩崎院長。中には小学生から通い、最初は人を寄せつけなかった子が、やがて「作業療法士になりたい」と進学。卒業後、作業療法士として戻り、今は後輩たちを支えている。

「将来は体育館のような広い空間をつくり、もっと体を動かせる支援をしたい」と岩崎院長は意欲を語る。

「働く喜び」を支える久遠チョコレート岡崎店

 2024年11月、クリニック近くにオープンした「久遠チョコレート&ドゥミセック岡崎店」も好評だ。元結婚式場を改装したメルヘン調の空間で、カカオ本来の香りを生かした本格ピュアチョコレートを提供する。

久遠チョコレート&久遠チョコレートドゥミセック岡崎店
〒444-0875 愛知県岡崎市竜美西2-10-5
クローチェ教会内 TEL.0564-73-5730
営業時間/10:30~19:00 定休日/水曜日

 全国に展開する「久遠チョコレート」は、障害のある人の雇用創出を掲げるブランド。岩崎院長はその理念に共感し、長年の念願だったフランチャイズ出店を実現させた。「発達特性を持つ方が安心して働ける場をつくりたい。精神科に通う方々にも、正当な対価を得て誇りを持てる仕事を提供したいのです」

 厚生労働省が公表した「令和5年度工賃(賃金)の実績について」によると、就労継続支援B型事業所の全国平均工賃(月額)は2万3053円だ。 前年度の1万7031円から、増加しているとはいえ、生活の糧とするには厳しいのが現状だ。「まずは久遠本部に近い賃金体系を目指して、少しずつ引き上げていきたい」

「久遠チョコレート&ドゥミセック岡崎店」では、接客や包装、製造補助など多様な業務を用意し、それぞれが発達特性に合わせた働き方をしている。スタッフの中には、クリニックのデイケアやナイトケアに関わる職員もおり、「クリニックで接しているスタッフのもとで働けることは、発達特性を持つ本人にとっても、家族にとっても大きな安心です」と岩崎院長。

 商品の品ぞろえも充実しており、店内には色鮮やかなチョコレートや焼き菓子が並ぶ。手みやげやギフト用にも人気で、地域の人が気軽に立ち寄れる温かな場所だ。「医療の枠を越えて、学ぶこと、働くこと、生きることを一体で支えたい。クリニックも久遠チョコレート岡崎店も、そのための“居場所”なんです」と岩崎院長は熱く語った。

INFORMATION

おかざきよろず心のクリニック
愛知県岡崎市竜美西2-1-17
TEL 0564-64-6616
https://okazaki-yorozu-kokoro.com/
■児童精神科・心療内科・精神科

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