虚血性心疾患、不整脈は高齢化などを背景に増えている。日本では、虚血性心疾患で年間約7万人が亡くなり、不整脈の一種で脳塞栓症のリスクもある心房細動の推定患者数は170万人以上とされる。しかし、いずれも低侵襲なカテーテル治療が可能だ。心房細動については、より安全性の高いパルスフィールドアブレーションが2024年9月から保険診療で受けられるようになった。

濱嵜裕司
医療法人社団 誠高会
おおたかの森病院
循環器内科部長
はまざき・ゆうじ 1991年昭和大学医学部卒業。医学博士。昭和大学医学部内科学客員教授。日本内科学会認定総合内科専門医、日本循環器学会認定循環器専門医。日本心血管インターベンション治療学会代議員。

川崎志郎
医療法人社団 誠高会
おおたかの森病院
循環器内科
かわさき・しろう 2008年昭和大学医学部卒業。医学博士。日本内科学会認定総合内科専門医、日本循環器学会認定循環器専門医。パルスフィールドアブレーション、ウォッチマンなど、先進のカテーテル治療を実施。
【虚血性心疾患】
器具や検査が格段に進化
治療の成功率向上に貢献
「虚血性心疾患」は、心臓の筋肉(心筋)に酸素や栄養を運ぶ冠動脈が、狭くなったり詰まったりする病気だ。狭心症と心筋梗塞があり、狭心症は冠動脈が狭くなることで起こる。一方、心筋梗塞は冠動脈が詰まって心筋が壊死する病態で、命に危険が及ぶ。
このような虚血性心疾患に対する低侵襲治療として、冠動脈カテーテル治療が行われる。
「カテーテルという細い管を、患者さんの手首の血管などから心臓に向けて挿入し、まず冠動脈の病変部でバルーン(風船)を膨らませて血管を広げます。そこに、ステントと呼ばれる金属製の網状の筒を留置して血流を改善するというのが標準的な治療です。部位によってはステントの留置が難しいこともあり、その場合は、再発予防の薬を塗布した『薬剤溶出性バルーン』を用います」と、おおたかの森病院循環器内科部長の濱嵜裕司医師は説明する。
薬剤溶出性バルーンは、ステントを留置したところが再度狭くなってしまった場合にも用いられる。
虚血性心疾患の大きな原因は動脈硬化だ。動脈の壁に悪玉と言われるLDLコレステロールが入り込み、蓄積した状態のことだが、重症化するとカルシウムが沈着して骨のように固くなる「石灰化」が起こる。
「この石灰化に対して有効なのが、バルーン内部から衝撃波を発する『IVLシステム』です。血管の状態に合わせた衝撃波で石灰に亀裂を入れ、柔らかくなった部分を通常のバルーンで広げます。従来の『ロータブレータ』や『ダイヤモンドバック』による治療に比べ施術時間が短く、正常な組織にはダメージを与えないといった利点があります」(濱嵜医師、 以下同)
血管の状態によってはロータブレータなどが適していることもある。医師から十分な説明を聞き、納得して治療を受けることが大切だ。
冠動脈の状態を調べる検査としては、近年「冠動脈CT検査」や「血管内超音波検査」が広く普及している。
「冠動脈CT検査は造影剤を注射し、心電図を取りながら心臓をCT撮影します。狭くなったり詰まったりしている血管の走行がよくわかり、心臓カテーテル検査よりも低侵襲です」
血管内超音波検査は、血管内部の画像をリアルタイムで観察することができる。
「いわばカーナビのようなもので、カテーテル治療を安全かつ確実に行う上で欠かせません。冠動脈CT検査や血管内超音波検査は、例えば冠動脈が3カ月以上完全に閉塞している慢性完全閉塞など、高度な知識と技術、経験が必要とされる治療の成功率向上に大きく貢献しています」
カテーテルを導く「ガイドワイヤー」の進化も目覚ましく、病変部の状態に応じて使い分けられている。
「患者さんの命を救うのは、先進的な器具や検査、医師の高い技量、そして迅速な救急搬送です。心筋梗塞発症から血流再開までの『ドア・トゥ・バルーン』は90分以内が理想です」
1分でも早く適切な治療につなげることで、その後の生活の質(QOL)も保たれる。
【不整脈】
心房細動で血栓ができることも
早期発見・早期治療が大切
不整脈は、脈が飛ぶ「期外収縮」、脈が遅くなる「徐脈性不整脈」、脈が速くなる「頻脈性不整脈」の3種類に大きく分けられ、頻脈性不整脈の1つに「心房細動」がある。
心臓は電気信号によって動いているが、心房細動では異常な電気信号で心房がけいれんし、脈拍が1分間に400~600回にもなってしまう。主な症状は動悸や胸の不快感などだが、人により様々で、無症状の人も半数程度いる。健康診断を受けて指摘されることも少なくない。
おおたかの森病院循環器内科の川崎志郎医師は、「心房細動があると心房の中で血液が淀み、血栓ができやすくなります。血栓が脳に運ばれ発症する『心原性脳塞栓症』が、脳梗塞全体の約3割を占めます」と説明する。
心原性脳塞栓症を防ぐ治療として、血栓予防の薬を飲む抗凝固療法、血栓ができやすい左心耳という部分を、カテーテル(WATCHMANTM=ウォッチマンTM)を使って閉じる左心耳閉鎖術があるが、心房細動そのものを治せるのはカテーテルアブレーション治療だ。
「カテーテルアブレーション治療は、異常な電気信号を出す心臓組織を消滅させることで、心房細動を根本的に治す治療法です。高周波やレーザー、凍結凝固などの熱エネルギーを用いる従来の方法に加え、パルス電圧で組織を消滅させる『パルスフィールドアブレーション』が、2024年9月に承認、保険適用となりました」(川崎医師、以下同)
パルスフィールドアブレーションのカテーテル先端には、花びらのような形をした複数の電極がある(図)。ここから一瞬高い電圧をかけることによって、異常な電気信号を出す部分の細胞に小さな穴を開けて核を壊し、細胞死を引き起こす。
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「波長を調節することで、目的の場所だけに作用させることができます。熱エネルギーで組織をやけどさせる方法と違い、心臓に近い血管や神経、食道などの組織の損傷を避けられることは大きなメリットです。また、従来のアブレーション治療は、カテーテルの先端で少しずつ組織を焼いていかなければなりませんでしたが、パルスフィールドアブレーションの電極は花びら形なので、必要なところに短時間で電圧をかけられます。つまり、治療に要する時間が短いのです」
従来のアブレーション治療は2~3時間を要するのに対し、パルスフィールドアブレーションは1~1・5時間ほどだという。
安全性が高く、治療時間の短いパルスフィールドアブレーションによって、アブレーション治療のさらなる低侵襲化が実現した。おおたかの森病院では、パルスフィールドアブレーション、従来の高周波アブレーション、左心耳閉鎖術を、患者さんの状態などに応じて使い分けている。
「心房細動は心原性脳塞栓症につながり、心房細動そのものが心不全や体力低下、認知症のリスクを高めるとされます。自覚症状があったり、健康診断で指摘された場合は早めに受診し、適切な治療を受けることが重要です」
新たな治療法で敷居が低くなった心房細動の治療。健康寿命を延ばすためにも、悪化する前に治療したい。
