企業が刻んできた歴史は、これからの未来を導く轍となる。企業の成長の裏にあるドキュメンタリーをお届けするシリーズ「未完の轍」。第2回目は、岐阜県安八町で大義のために走り続ける奇跡の町工場のストーリーをお届けします。

 その格別な吸水性と使い心地から“魔法のタオル”と呼ばれる「エアーかおる」。奇跡の自社製品を手に、「ロゴマークは妻の顔なんです」と、浅野撚糸代表取締役社長、浅野雅己は微笑んだ。

(右)浅野撚糸株式会社代表取締役社長浅野雅己氏、(左)同専務取締役浅野宏介氏

 撚糸とは糸に撚りをかけて強度や特性を高めることをいう。浅野撚糸は浅野の父が1967年に創業。紡績会社や商社の下請けとして事業を続けてきた。浅野は体育教師の道を経て87年に入社。95年に35歳で2代目社長となる。

「当時大ブームとなったストレッチ生地用の糸の生産などで飛躍的に業績は向上しました。ところが2000年代になると中国の安価な繊維製品が日本市場を席捲。商社からの発注が途絶えて年商は激減し、2003年には大幅なリストラも余儀なくされました」

岐阜県安八町の浅野撚糸本社工場。糸と糸を撚り合わせる撚糸機が24時間稼働している。

 下請け企業の典型的な栄枯盛衰。今会社を畳めば傷は浅いと父は廃業を勧めたが、一方で浅野撚糸からの受注を見込んで設備投資をした数多くの協力工場は債務超過に陥っていた。浅野は苦悩の末、全ての協力工場の返済が終わるまで浅野撚糸を続けると父に告げる。

「すると父は、『続けるなら、大義を持て』と。その時の私の大義は、協力工場の借金を返すこと、そして日本の下請け体制を変えることの二つ。そのために、ナンバーワンではなくオンリーワンの町工場を目指そうと決意しました」

 浅野は東奔西走し、大手繊維商社が持つ“お湯に溶ける糸”と綿糸を撚り合わせた特殊な糸「スーパーゼロ」を開発。さらに老舗タオルメーカーと協業し、「スーパーゼロ」を使用することで優れた吸水性を持ちつつ毛羽落ちを抑えたタオルも生み出した。ところが、どの問屋も「価格が高い」と扱ってくれない。

「もう自己破産しかないと疲れ切って入った寿司屋で、妻が『いつか社員や協力工場さんにもこのおいしいお寿司を食べさせようよ。だから、絶対あきらめちゃだめだよ』と笑ったんです。その瞬間、このタオルを自社ブランドで販売するという考えが天啓のように降りてきました」

従来のタオルに比べ約1.6倍もの吸水力を持つ“魔法のタオル”「エアーかおる」。ロゴには浅野の妻の笑顔が。

 その妻の笑顔が、「エアーかおる」のロゴマークだ。大規模展示会への出展やテレビ通販などに死に物狂いで挑んだ結果、「エアーかおる」は累計販売数2000万枚を超える大ヒット商品に。浅野撚糸の売り上げは2015年に10億を超え、19年には全ての協力工場の借入金が返済完了となったという。

 2023年、浅野は30億円もの投資を行い、東日本大震災の被災地である福島県双葉町に新工場「フタバスーパーゼロミル」を開設。息子宏介と共に新たな挑戦を開始した。そこにある大義は、「東北の復興こそが、日本の再生」。

 父から受け継いだ細い撚糸を確たる道へと変え、浅野はさらに走り続けていく。

浅野撚糸のロングストーリーはこちら

INFORMATION

オープンハウスは地域共創に取り組んでいます

地域共創サイト:kyoso.openhouse-group.co.jp/

text:Yuko Harigae(Giraffe)
photo:Takashi Shimizu

出典元

文藝春秋

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