1996年創設のスイスの高級時計メゾン「パルミジャーニ・フルリエ」。メゾンは毎年、創設者ミシェル・パルミジャーニの誕生日である12月2日に「オブジェ・ダール(Objet d'art)」コレクションを発表している。この作品は同氏の誕生日を寿ぐとともに、メカニカルアートの保全に対する変わらぬ献身に敬意を表すもの。
今年、75回目の誕生日に登場したのは、ミニッツリピーターの「ラ・ラベナール」。卓越した修復技術、芸術的な職人技、機械的な純粋性の融合により生まれたユニークピースである。
自然界の構造へのトリビュート
世界に一点しか存在しないこの薄型懐中時計の名前は、マダガスカル原産の植物「タビビトノキ(Ravenala madagascariensis=オウギバショウ)」に由来。完璧に対称な扇状の葉は黄金比をなし、幹は旅人が未知の土地を進む助けとなるよう雨水を溜める特性を持つ。
ミシェル・パルミジャーニにとって、この植物のフォルムは自然界の根底に流れる秩序を明らかにするもの。その精神はケース、ダイヤル、ブリッジに生命を吹き込むハンド・エングレービング(手作業による彫金)、そしてケースバックを飾るオパールと翡翠のマルケトリー(象嵌細工)に活きている。それはきらめきと静寂、天空と大地の対比を調和させる構図だ。
修復を通じて永続させるもの
ホワイトゴールド・ケースの中で心臓として脈打つのは、ジュネーブでもっとも崇敬されたメゾンのひとつ、エドゥアール・コーエンの工房が手がけた1920年代のミニッツリピーター・キャリバーだ。これはミシェル・パルミジャーニが保有するアンティークムーブメントのプライベートコレクションの一つであり、再び生命を吹き込まれる日のために大切に保管されてきた。ラ・ラベナールは、その長きにわたる願いを優れた修復技術によって成就させたものである。
貴石とゴールドが紡ぐ物語と“黄金の手”


ラ・ラベナール裏面のダブルバックを彩るのは、オパールと翡翠のマルケトリー。これまで、一つの時計に同時に用いられることのなかった組み合わせである。この構成は、貴石を用いたマルケトリーの技術で時計創造と芸術の世界をつなぐ名匠たちによって実現した。匠の技が光、色彩、素材が静かに語り合う鉱物の情景を描き出し、ケースバックを見事な絵画へと変貌・昇華させた。


この芸術品の製作の裏側には、“黄金の手”と呼ばれる職人の集団がいる。彼らは、パルミジャーニ・フルリエの理想を具現化するメートル・アルチザン(熟練職人)たち。彼らの仕事はエングレービングを施したブリッジ、彫刻したゴールド、ストーンマルケトリー、そして完成までに100時間近くを要する手打ちのチェーンなど多岐にわたる。
オパールと翡翠の可憐で繊細なマルケトリーで装飾された、ホワイトゴールド製ケースの、極めて精緻なラ・ラベナール。まさに、“創設者の芸術とレガシーから誕生した唯一無二のアートピース”と言える。
パルミジャーニ・フルリエ
https://www.parmigiani.com/ja/
