みずほフィナンシャルグループは2026年3月期の純利益予想が初めて1兆円を超えるなど、大変好調な業績を上げています。その背景にある戦略や取り組み、そして今後の展望について、グループCEOである木原正裕氏に、知られざる素顔にも迫りながら、詳しくお聞きします。

聞き手●新谷 学(文藝春秋総局長)

――本日はよろしくお願いいたします。早速ですが、グループCEOに就任されて4年になります。システム障害の直後という、まさに嵐の中での船出でしたが、今振り返っていかがですか。

木原 取り組んだことは主に3つありました。1つ目は安定的なシステム運営を確立すること。2つ目はカルチャーの改革。そして3つ目は、社員が成功体験を味わえる戦略を作っていくことです。

 システム障害という点では、障害を起こさないための予兆管理の徹底、そして万が一障害が起きた際にしっかりと対応できる体制の整備を進めてきました。昨年、基幹システム「MINORI」の更新がありましたが、再発防止策を準備に生かし、順調に完了させることができました。

木原正裕 みずほフィナンシャルグループ グループCEO
1965年生まれ。89年に一橋大学卒業後、入社。95年、米デューク大学ロースクール修了。2020年、みずほ証券常務執行役員、21年、みずほフィナンシャルグループ執行役常務を経て、22年2月より現職。

――2つ目のカルチャー改革について、当時は「物が言いづらい雰囲気」とも言われていました。

木原 物が言いづらいというよりも、言えない雰囲気があったのかもしれません。ですから、「社員の声を大事にすること」が非常に重要だと考えました。社員の建設的な意見を経営に生かし、それによって会社が変わっていくという実感を持ってもらうことで、社員が挑戦し、成長していく。そういう挑戦のカルチャーを作っていこうと考えました。

――具体的にはどのような取り組みをされたのでしょうか。

木原 1つは、我々がどういう企業になっていきたいかというパーパス「ともに挑む。ともに実る。」を策定したことです。日本が様々な課題を抱える中で、お客さまの課題に寄り添い、私たち自身も挑戦し、そして挑戦と挑戦をつなぐ架け橋になりたい。そんな思いを込めました。

 また、私自身が年間100拠点以上を訪問し、本社でもタウンホールミーティングを開催して、社員と双方向の対話の機会を作ってきました。これを毎年続けていると、だんだん「言ってもいいんだな」という感覚が醸成されていきます。いただいた意見の中で良いものは実行に移す。そうすることで「言えば変わるんだ」という実感につなげてきました。

――実際に社員の声が反映された事業もありますか。

木原 新しい事業を立ち上げる「グループCEO チャレンジ」という制度も始めました。社員からの提案で良いものには資金もつけて実行します。様々な挑戦が生まれてきていると感じますね。良いカルチャーがあれば、皆が挑戦する。そこで成功体験を味わえる戦略があれば、実際に成功し、また次の挑戦に向かう。この挑戦のカルチャーと戦略が好循環しながら成長していく、そういう発想です。

――よく仰られている「オープン&アカウンタブル経営」ですね。その成果は、業績にも表れています。

カルチャー改革が導いたV字回復

木原 システム障害の後、従業員調査のエンゲージメントスコアとインクルージョンスコアはそれぞれ50%台でしたが、その後の3年間で65%まで引き上げるという目標を達成しました。もちろん、まだまだ道半ばですが、一定の成果は出せましたし、それが業績にも反映されているのだと思います。今期の純利益予想は1兆1000億円、中期経営計画の数値目標も1年前倒しで達成できました。社員の皆さんの頑張りによって、収益力もずいぶんついてきたと思います。

――株価や財務基盤にも変化はありましたか。

木原 私が社長になった4年前、時価総額は約4兆円、PBRは0.5倍でした。それが今では時価総額が約17兆円、PBRが1.5倍程度まで上がってきました。2024年11月には16年ぶりの自社株買いも実施し、株主還元の強化と成長投資を両立できる体制になりました。

――ここで少し木原さんご自身のことも伺いたいのですが、学生時代はアイスホッケーをしておられたとか。

木原 父親の仕事の関係でシカゴに住んでいた小学校時代に3年間やっていました。日本に帰国後、中学では続ける環境がなかったのですが、一橋大にアイスホッケー部があると知ってすぐに入部しました。4年生の時にはキャプテンを務め、そこでリーダーとはどういうものかを少し学んだ気がします。

――キャリアの中で、特に今につながる手応えがあったプロジェクトは何でしょうか。

木原 シンジケートローン市場の立ち上げですね。2002年から2011年まで携わりました。シンジケートローンは、当時はまだ日本では黎明期で、「100兆円のマーケットの創造」という大きな目標を掲げていました。実際には50兆円規模でしたが、日本に一つのマーケットを創設できたという自負はあります。そのためには多くの人を巻き込む必要があり、競合する他のメガバンクを含め、様々な価値観を持つ人々と共創を成し遂げた経験が、現在のパーパスである「ともに挑む。ともに実る。」という考え方につながっているのかもしれません。

 

金利のある世界で描く「4+1」の成長戦略

――さて、30年ぶりに金利のある世界が到来しました。この変化をどうご覧になっていますか。

木原 岸田文雄首相(当時)が「成長と分配の好循環」を提唱され、東京証券取引所がPBR1倍割れの企業への改善要請を出したあたりから、日本のCEOのマインドセットが大きく変わったと感じています。自社の強みがある領域に経営資源を集中させ、積極的に投資をしてリターンを上げていくという流れです。そこに賃上げの機運も高まり、経済活動が活発化してきた。そうした成長と分配の好循環に入り込める局面に来たからこそ、金利が戻ってきたと認識しています。

――金利が上がると預金獲得競争が激しくなりますが、〈みずほ〉の戦略は?

木原 我々の戦略は4つの領域にフォーカスしています。1つ目が「顧客利便性の徹底追求」、2つ目が「『資産所得倍増』に向けた挑戦」、3つ目が「日本企業の競争力強化」、4つ目が「グローバルCIBビジネス(Corporate and Investment Banking)」です。預金に関わるのは1つ目の領域で、ここでのキーワードは「利便性」「利得性」「安心感」の3つです。この3つを整備することで、預金の魅力度を増していくことが重要だと考えています。

――具体的にはどのようなことでしょうか。

木原 利便性という点では、この3、4年でアプリのUI(ユーザーインターフェイス)/UX(ユーザーエクスペリエンス)を徹底的に改善してきました。App Storeでの評価も、私が就任した当初は非常に低かったのですが、今では5点満点中4.6まで上がり、「わかりやすい」「使いやすい」とご支持をいただいています。

――利得性の点では、楽天グループとの連携が大きいですね。

木原 楽天経済圏とつながるメリットを提供できるのは、〈みずほ〉ならではだと思います。「みずほ楽天カード」は、楽天ポイントと〈みずほ〉のポイントが両方貯まる利得性の高いカードで、2024年12月の発行開始から1年で、前年比約8倍の発行枚数となり、稼働率も非常に高いです。

――もう一つの「安心感」とは。

木原 やはり店舗の存在です。お客さまの生活の動線上に店舗がきちんとあることは重要です。そして、ご来店いただいたお客さまに最大限のサービスを提供する、まさにおもてなしの精神を体現していくことです。

 もう一つがATM網です。我々はイオン銀行と相互連携しており、両行のATMを合わせるとメガバンクで最大のネットワークになります。この店舗とATMがもたらす安心感を提供し続けることも、我々の重要な戦略です。

みずほのアトリエ

――2つ目の領域「『資産所得倍増』に向けた挑戦」についてはいかがでしょう。

木原 インフレの兆しやNISA制度拡充の後押しもあり、国民の資産形成に対する意識は非常に高まっています。我々は楽天証券に49%出資しており、みずほ証券と合わせるとNISAの口座開設数は国内でもかなり高いシェアを誇ります。また、企業型・個人型の確定拠出年金(DC)では圧倒的なNo.1です。

 我々の強みは、楽天証券の「デジタル」と、みずほ証券・みずほ銀行の「対面」の両方を持ち、初心者から富裕層まで、お客さまの資産の成長に伴って全てのサービスを提供できることです。資産形成の初期段階では楽天証券の便利なツールを使い、資産が増えてコンサルティングが必要になれば、みずほ証券・みずほ銀行の対面サービスを受けていただく。さらに資産承継のご相談にも応じられます。

――まだ一歩を踏み出せない方も多いように感じます。

木原 おっしゃる通りです。だからこそ、私は「資産形成・資産運用の民主化」を進めなければならないと考えています。キーワードは「分かりやすさ」「選びやすさ」、そして「合理的なコスト」です。これらを実現するプラットフォームを作っていきたい。また、「銀行は敷居が高い」と感じる方にも、安心して気軽に来ていただけるような店構えやサービスも考えています。

――3つ目の領域「日本企業の競争力強化」について教えてください。

木原 〈みずほ〉は伝統的に大企業取引に強みがありましたが、そのノウハウを今、中堅・中小企業にも広げています。中堅企業向けの投資銀行ビジネスはこの3年間で約7割伸びるなど、非常に好調です。日本は企業の9割以上が中堅・中小企業ですから、日本経済全体の底上げには、この層への成長支援が不可欠です。最近では、AI与信モデルを持つUPSIDER社を買収しました。彼らのAIモデルと我々の従来の審査ノウハウを組み合わせ、中小企業向けのオンラインレンディングの実現などを進めています。また、スタートアップ向けにも審査モデルを見直し、この3年間で約7500億円の融資を実行しました。

――4つ目の「グローバルCIBビジネス」では、2023年の米国のM&Aアドバイザリー会社、グリーンヒルの買収が大きかったですね。

木原 非常に大きかったです。この買収によって、グローバルな投資銀行のリーグテーブルでは、米国の投資適格企業向け社債引受で7位、エクイティで10位、M&Aでは90位台から25位程度まで順位を上げました。全体のリーグテーブルでは11位で、これはアジアの金融機関ではトップです。今後は、我々が持つ日米の強みを連携させ、グローバルでトップ10入りをめざします。

――インドのアベンダス・キャピタルも買収されました。

木原 はい。グリーンヒル(米国)、オーガスタ(欧州)、そしてアベンダス(インド)といった買収したM&Aファームをフル活用し、地域間の連携を深めてディールを創出していきます。

日本、アメリカ、ヨーロッパ、インド、APACにまたがるグローバルネットワーク

――これらの4つの領域に「+1」を加えた「4+1」という戦略を掲げています。この「+1」とは何でしょうか。

木原 「+1」はシナジーのことです。4つの注力領域がそれぞれ単独で機能するのではなく、領域間のシナジーを効かせようということです。例えば、「日本企業の競争力強化」と「『資産所得倍増』に向けた挑戦」のシナジーで言えば、日本の中堅・中小企業の多くはオーナー企業です。企業の成長を支援することは、オーナーの資産が増えることにつながります。そうなると、資産運用のニーズが生まれますし、事業承継という大きな課題も出てきます。我々は銀行・信託・証券が一体となって、企業の事業の成長と承継、そしてオーナーの資産の拡大と承継を一気通貫で支援できます。

 また現在、楽天証券と組んでWorkplaceビジネス(職域ビジネス)を展開し、企業で働く社員の方々の資産形成も支援しています。具体的には、金融リテラシー向上の教育プログラムや職場つみたてNISAなどを提供し、好評をいただいています。

――4つの領域や事業部間で、縦割り組織の壁が課題になりませんか。

木原 昔は壁をどう取り払うかばかり考えていましたが、今は「4+1のシナジーが重要だ」と言い続けることで、壁の高さを下げたり、壁を越えて協力したりする文化をめざしています。まだまだ道半ばですが、皆が同じ方向を向いて共創できれば、もう一段成長できると信じています。

パーパスに込めた「つなぐ」という使命

――改めて、木原さんが大事にされている、〈みずほ〉の理念やカルチャーとは何でしょうか。

木原 やはりパーパスである「ともに挑む。ともに実る。」に、我々の理念やカルチャーを体現していきたい。お客さまの挑戦に寄り添い、自分たちも挑戦して、課題解決のソリューションを提供できるかということです。また、挑戦と挑戦をつなぐ架け橋となる、現状維持ではなく、失敗を恐れずに自らも変わっていく。その気持ちを全社員が持つ会社になれたら素晴らしいですね。

――最後に、みずほフィナンシャルグループとして、どのような社会をめざしていくのかお聞かせください。

木原 「志の高い金融機関になろう」と社員に話しています。今、世界も日本も大きく変化しており、日本には多くのチャンスがあります。1つ目は、日本の産業の勝ち筋、競争力のある領域に対して、我々が成長支援をしていくことです。2つ目は「資産運用・資産形成の民主化」、わかりやすく選びやすいプラットフォーム作りです。

 そして3つ目は、日本企業や海外企業との連携などで「架け橋」となる金融機関になることです。民間レベルでの連携推進、それこそが我々のパーパスを実現することであり、渋沢栄一や安田善次郎といった先人たちのDNAを引き継ぐ我々の使命だと考えています。

(実際のインタビューの模様はこちらからご覧になれます)

この対談は、2026年2月4日に行われました。