企業が刻んできた歴史は、これからの未来を導く轍となる。企業の成長の裏にあるドキュメンタリーをお届けするシリーズ「未完の轍」。第3回目は、群馬県館林市で「うどん作り」を地域の産業に変えることを目指す五代目社長のストーリーをお届けします。
小麦粉、塩、水。うどんの材料はただそれだけだ。だからこそ小麦がうどんの命になる。群馬県館林市で明治から続く花山うどんの五代目、代表取締役社長・橋田高明は固くそう信じている。
全国有数の小麦の産地である群馬県には昔からうどん文化が根付いている。館林も群馬三大うどんの一つに数えられる麺の街だ。花山うどんの初代・橋田金三郎は当初東京・日本橋の乾物問屋に奉公していたが、全国の上質な乾麺を見て「館林のうどんを日本一に」と奮い立ち、明治27(1894)年、故郷館林で自家製麺のうどん店を開業した。
「二代目を継いだ藤吉が大正時代に考案したのが、群馬名物の幅広麺『ひも川』をさらに幅広にした『鬼ひも川』です。三代目で僕の祖父でもある正雄は戦中戦後の物資不足を工夫と技術で乗り切り、南極地域観測隊の携行品に採用されるほどの評判を得ました」
そう語る五代目の高明が家業に加わったのは26歳の頃。それまでは子どもの頃からの夢だった建築職人の仕事に就いていたが、花山うどんの将来を考えて転身を決断。四代目である父・三造のもとでうどんづくりを学び始める。
「建築とは畑違いですが、ものづくりの楽しさは変わりませんし、努力すればすぐに結果が出るうどんづくりは本当に面白い。小麦粉の配合を追究するため、国内外の小麦粉を取り寄せられる限り取り寄せて研究したこともあります」
興味のある小麦があれば、どの品種を掛け合わせて生まれたものなのか、「家系図」まで辿って特性を調べたという。
「群馬県産の小麦はタンパク質が低めでモチモチとした食感が特徴。それを生かすには群馬の5〜6月の温度帯と風で乾燥させるのが最適です。父は苦労してこの天日干しの環境を室内で再現し、じっくり熟成させながら乾燥させる『バニッシュループ製法』を生み出しました」
この製法を駆使して高明が復刻させたのが、長く製造が途絶えていた「鬼ひも川」だ。試行錯誤を繰り返し、当時のものよりさらに薄く、小麦の豊かな香りと口の中で踊るような食感を持つ「鬼ひも川」を誕生させた。2013年にはご当地うどん日本一を決める大会でお客様評価部門1位に。以降3年にわたり優勝を続け、花山うどんの名は一気に全国区となった。2016(平成28)年にオープンさせた銀座店には、茹でたての「鬼ひも川」を求めて連日人々が列をなす。
「どんなに忙しくても大量生産をせず、自分たちの手でつくったものを自分たちでお客様にお届けする。それが花山うどんの在り方です。自己満足することなく、『昔と変わらずおいしいね』と言ってもらえるよう少しずつブラッシュアップを重ねて、群馬県産をはじめ日本の小麦のおいしさを届けていきたいと思っています」
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text:Yuko Harigae(Giraffe)
photo:Takashi Shimizu
出典元
【文藝春秋 目次】東京極秘対談 ティール×トッド 世界は終末を迎えているのか/池上彰×佐藤優 “暴れ獅子”トランプと“女豹”高市の生きるか死ぬか/官邸官僚の第二の人生
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