日本最大の発電会社JERAは、世界初となる火力発電の“脱炭素化”に取り組んでいる。その原動力とは何か、お二人に語り合ってもらった。

photograph:Miki Fukano
hair&make:Kaori Ichikawa

文学に目覚め、作家をめざした高校時代

奥田 今日は三浦さんにお会いできるのを楽しみにしていました。

三浦 ありがとうございます。

Hisahide Okuda
1965年、三重県生まれ。早稲田大学政治経済学部卒業後、中部電力入社。経営戦略本部事業戦略グループ部長、グループ経営戦略本部アライアンス推進室長などを経て、2019年、株式会社JERA常務執行役員経営企画本部長に。その後、取締役副社長執行役員を経て、23年から現職。

奥田 実はわたし、小学生のときは算数と理科にしか興味がない科学大好き少年だったんです。それが、たまたま勧められて読んだ芥川龍之介の『蜘蛛の糸』がきっかけで、急に文学に目覚め、高校では文芸部に入って、作家をめざしていたんですよ。

三浦 へぇ~、すごい。わたし、作家になるなんて夢にも思っていませんでした。大学を卒業して、本がたくさん読めそうだからと出版社を受験したんですが、結局不合格。ただ、就職試験で書いた作文を編集者の人が見て「面白い」と言ってくださって、「何か書いてみたら」と声をかけてくれたんです。

奥田 三浦さんの才能を見抜いたんですね、その人は。

三浦 どうなんでしょう(笑)。どこにも就職できずに、古本屋さんでずっとアルバイトをしていましたから、時間だけはあったんです。

奥田 わたしはすぐ壁にぶつかってしまいましたよ。「やっぱり書けない」って。で、結局、大学では政治経済を専攻し、英会話サークルに入りました。そこで英語で政治や経済の問題をディスカッションしたり、ディベートをしたりしているうちに、エネルギーに興味が湧いてきたんです。「エネルギー事業を安定的にやること=平和への貢献」という図式を勝手に思い描いて。

三浦 そこで発電事業と結びつくんですね。

奥田 ええ。電力会社に就職してからは、仕事が忙しかったこともあって、文学とは距離を置いていました。ところが、40歳を過ぎた頃から、なんだか自分の感性が鈍ってきたような気がしてきましてね。そこで、現代作家の本を20冊ぐらいまとめて買ってきて、一気に読んでみたんです。その中にたまたま三浦さんの『月魚』が入っていた。「あっ、これだ。こういうのを読みたかったんだ」って。それ以来、三浦さんの作品はすべて読んでいます。

日本発のグローバルエネルギー企業

三浦 ありがとうございます。でも、不惑を過ぎて、感性を鍛えなおそうと思い立つというのはめずらしいですね。

奥田 今日のテーマでもあるんですけど、「知性」と「感性」、その両方を磨くことがビジネスでは大切だとわたしは思っているんです。その前に、「JERAって何?」というのがあるでしょうから、少しご説明しますね。

三浦 お願いします。

奥田 JERAは日本最大の発電会社で、日本で使う電気の約3割を発電しているんです。

三浦 じゃあ、うちで使っている電気にも、JERAさんがつくったものが混じっているかもしれない。

奥田 そうなんです。JERAは東京電力と中部電力の火力発電事業、燃料事業、海外事業を切り出して統合し、2015年にスタートしました。世界10か国以上で発電事業を行っていて、液化天然ガス、いわゆるLNGの取扱量は世界最大級という、日本発のグローバルエネルギー企業です。

三浦 いまは脱炭素で再エネが注目されている時代ですよね。なぜまた火力発電を?

奥田 脱炭素の動きというのはヨーロッパ発なんです。洋上風力発電は結構大量に電気を起こせますから、ヨーロッパはこれで脱炭素を図ると。でも、国によって事情が違うわけですよ。ヨーロッパは1年を通じて偏西風が同じ方向から、ほぼ同じ強度で吹いてきますから、電力が安定して作れる。でも日本では季節風しか吹かないわけです。環境価値は高いけれど、発電量が自然条件で大きく変動するのはよくない。

三浦 電気が来たり来なかったりというのでは困りますね。

奥田 電気というのは厄介で、需要と供給をぴったり一致させないと、すぐ停電してしまいます。結局、再エネはバックアップする電源と一緒じゃないとうまくいかないんです。で、発電量を自由に制御できる柔軟性、需給変動対応力を持っているのは、やはり火力発電なんです。火力発電を残すしか、日本としてはやりようがない。

電力の安定供給と脱炭素を両立させる

三浦 なるほど。そうなると問題はCO2ですね。

奥田 そうなんです。結局、火力を脱炭素化するしか方法はない。そこで、JERAは2020年にこれを戦略として打ち出しました。世界で初めてのチャレンジでした。

三浦 火力発電で使うのは化石由来の燃料ですよね。それを別のものに?

奥田 水素・アンモニアに転換しようと。化石由来の燃料には化学記号にCが入っていますから、燃えるとO2がついてCO2が出ます。ところが水素はHだけですから水しか出ない。アンモニアはNH3で、燃やすとNOxという窒素酸化物が出ますが、日本では70年代にこれをほぼ完全に除去する技術を開発しているんです。

三浦 へぇ~、アンモニアが燃料に使えるなんて知りませんでした。

奥田 石炭の燃焼スピードとアンモニアの燃焼スピードはほぼ一緒なので、今の石炭火力のバーナーを少し改造すれば、アンモニアを加えて燃やしても、うまくいくというのを発見したわけです。愛知県の碧南火力発電所では、すでに商用運転に向けて工事が始まっています。

石炭火力としては日本最大の愛知・碧南火力発電所。脱炭素の取り組みが進められている

三浦 電気がどうやってつくられているかなんて、普段意識していませんけれど、どんどん進化しているんですね。

奥田 再エネと低炭素化した火力発電を組み合わせた新しいビジネスモデル、これは世界へ提供できる最先端のソリューションです。イノベーションの典型ですね。で、先ほどの「知性」と「感性」のテーマに戻るんですけど、たとえば、エネルギー事業でも、10年後の世界なんか、やっぱり誰も予測できないわけですよ。ただ、予測はできないけれど、今、起きている事実を積み上げて、つなぎ合わせることで、「こんなシナリオが書けるよね」と、ある程度想像できるわけです。

三浦 そうですね。

奥田 将来この会社が生き残るためには、こういうことをしておけばいいというのがわかる。ここは「知性」の部分です。でも、実際に変革しようとすると、人を動かしていかなければいけないわけですよ。でも、みんなリスクは取りたくない。

三浦 変革は痛みを伴いますからね。「いまのままでいいんじゃない」というのが自然な反応ですね。

人を動かすために「感性」を磨く

Shion Miura
1976年、東京都生まれ。2000年、書下ろし長編小説『格闘する者に〇(まる)』で作家デビュー。06年『まほろ駅前多田便利軒』で直木賞、12年『舟を編む』で本屋大賞受賞。小説『風が強く吹いている』『仏果を得ず』『ゆびさきに魔法』、インタビュー集『ふむふむ おしえて、お仕事!』など著書多数。

奥田 そうなんです。肝心なのは、「ここでこういう対応をしておかなければ、こんなシナリオになったときに、こんなことになっちゃいますよ」というのをきちんとストーリーにして、相手の心にスッと入るように届けられるかどうか。そこが大事なんです。そのためには、感情を動かしていく、心を動かしていく「感性」の部分を鍛えておかないとできない。それって、小説を書く作業にすごく似ているんじゃないかと思うんです。

三浦 確かに、小説ってストーリーはもちろん大事なんですけど、それをどんな文章で、どんな語り口で描くかってほうが大事なのかもしれません。わたしがいつも意識しているのは、目に映ったもの、感じた気持ち、それを端から言葉にする。言語化するということです。

奥田 企業にとっても言語化というのはすごく大事です。同じ利益を上げていくにしても、どういうストーリーで利益を上げていくのか、企業によってそれぞれ違います。そこが企業の言葉で言う差別化戦略なんです。同じような利益目標であっても、他とどういうふうに違うことをやって、そこにたどり着くのか、きちんと言葉にしなければ戦略にはならないわけです。

三浦 同じ数字、達成目標でも、そこにどういう形で到達するのか言語化できれば、達成感も違ってきますからね。

奥田 数字の目標だけで人の心を動かすことは絶対できないんです。そこに至るまでのストーリーをちゃんと語ることによって、みんながそれに共感して動いていく。人を動かしていく力っていうのは、やっぱり言葉なんですよ。

三浦 みんながそれぞれのやりたいこと、考えていることを言語化するようになれば、企業はどんどん面白くなるでしょうね。話し合うことでお互いの齟齬とかも見えてきて、「あ、君はそういう発想なのか。なるほどね」みたいな楽しさもあります。

奥田 そうなんですよ。多様性がある社会の面白さっていうのは、やっぱりそういうところなんです。みんなが同じ発想の人間ばっかりだったらつまらない。違う考えとか、違う発想、違う価値観を持っている人間が集まって、言葉を通じてその違いをわかりあえると、相互リスペクトが生まれてくる。「あ、そうか。あなたはそういうプロセスで考えて、この結論になってるんだ」「じゃあ、私の考えとあなたの考えを足し合わせて、両方の考えを超えた、新しい価値を作ろうよ」みたいな話に発展していける。これが仕事の醍醐味、生きる醍醐味ですよ。

三浦 売上目標みたいな数字を見せられて、「とにかくなんでもいいから、これをやれ」って言われるだけじゃ、やる気もなくなるし、つらい競争ばっかりになっちゃいますもんね。

奥田 日本社会では、イノベーションというと「新しい技術を開発すること」みたいに捉えがちなんですが、これってもともとの意味とは相当ずれていると思っているんです。すでにあるものや、すでにある技術を新たに組み合わせることによって、新しい価値を生み出していく。それが経済学者ヨーゼフ・シュンペーターが言ったイノベーションなんです。これって、結局、幅広い教養力とか理性の働きが必要です。でも、それが人に感動を与え、今度は心を動かしていく。感性も豊かになっていく。やっぱりこの「知性」と「感性」が相互に行ったり来たりすることで、人生は楽しくなっていくし、企業も楽しくなっていくんです。いまの日本社会で不満なのは、こういうリベラルアーツの分野、特にアーツの分野が、ビジネスの世界とかけ離れてしまっていることなんです。

「知性」と「感性」の壁を越えて

三浦 行ったり来たりできなくなっていると?

奥田 実は全部つながっているのに、そこに壁を置いているんですよね。社会というのは、三浦さんのような作家の方とか、音楽家の方とか、画家の方とか、さまざまな分野の方と交わりながら作っていくものだと思うんですが、そこがちょっと希薄になっている。そうするとクリエイティブな社会じゃなくなってしまうんです。そこをもう一回考えてみたいということで、「社会的価値共創フォーラム」というのを立ち上げました。

三浦 どういうものなんですか?

奥田 一般社団法人なんですけど、企業人と学者、芸術家が一堂に会して、いろいろな社会問題をディスカッションするような場を設けているんです。で、これを大人だけでやるんじゃなくて、青少年の育成の場にしようと、高校生くらいから参加できるようにしています。若い人たちに実社会の話から芸術の話まで、幅広い分野の勉強を体験型でやってもらうことで、頭でっかちではなく、「感性」もうまくはたらくようになるんじゃないかと思っています。

社会的価値共創フォーラムでは、多様な人材が世代や肩書きを越えて集い、社会問題の解決に向けて継続的に議論を行う

三浦 「知性」と「感性」がひとつになる場。面白そうですね。

奥田 三浦さんにもぜひ講師をお願いしたいなぁ。今日はいろいろお話ができて刺激になりました。ありがとうございました。


JERAゼロエミッション2050
持続可能な社会の実現に向けたJERAの取り組みについては、こちらから。

提供:株式会社JERA

出典元

文藝春秋

【文藝春秋 目次】高市早苗研究 総理の夫 初告白20時間/〈特集〉「歩く」が人生を変える/りくりゅう秘話

2026年6月号

2026年5月9日 発売

1250円(税込)

Amazonで購入する 目次を見る