元ソニー社長兼CEOで一般社団法人プロジェクト希望代表理事の平井一夫氏とライフネット生命代表取締役社長の横澤淳平氏。業種もキャリアも異なるふたりのトップが、リーダーシップの本質と組織文化の作り方について率直に語り合いました。(全2回の後編/最初から読む)
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肩書きで人はついてこない――EQこそリーダーの条件
横澤淳平(以下、横澤) 平井さんは人を引っ張る立場に立つとき、IQ(知能指数)よりも大切なものがあると常々おっしゃっていますね。
平井一夫(以下、平井) そうです。それはEQ(心の知能指数)です。人の上に立った瞬間に、EQの高さがIQよりも実は大事なんだ、ということをまず理解してもらうのが重要です。肩書きをもらった瞬間に、その下で働く人間が言うことを聞いてくれるとか、尊敬してくれると思ったならば、それはかなりの勘違いです。肩書きだけもらっても全く意味がない。
人間として尊敬できるから、「部長となったあなたについていきましょう」と思えるのであって、そこを理解してEQを磨いてくれる人たちは、良いリーダーになっていきます。最後まで肩書きに固執してしまうと、リーダーとしてうまくいかない。特にアメリカでは、そういった方々は早々に会社を去ることになります。
横澤 組織には仕事はものすごくできるけれどEQの観点では改善の余地がある人もいます。彼らに対しては、どのように向き合ってきましたか。
平井 人事から「あの方は実績はすごいのですが、EQがちょっと……」という相談を受けることがあります。その場合は、EQがいかに大事かを丁寧に説明します。そこを磨いてもらわないと本人も、その下で働く人たちも、うまくいかないよと伝えます。一番残念なのは、営業成績ナンバーワンだからと営業部長に据えた瞬間、EQが足りずに誰もついてこないという状況になることです。
気づかせてあげることがすごく大事で、特に若くして実績を上げた社員にEQの要素を教えてあげないと、もっと伸びるはずだった人がそこで止まってしまう。それは会社にも責任があると私は思います。
村井弦(以下、村井) 横澤さんはご自身の会社でEQについてどのようにお考えですか。
横澤 EQという言い方はしていないのですが、人を引っ張る立場においては、自分のためではなく人のために働ける人、つまり利他性が大事だと思っています。リーダーを選ぶときも、利他の心が必要な要素だという考えのもと、リーダーに適しているかをしっかり見極めるようにしています。
「KANDO」を文化にする――70回のタウンホールと3年という時間
村井 平井さんが掲げた「KANDO」というコンセプトをソニーという大組織の企業文化にまで育てた方法を教えてください。
平井 パーパス、ミッション、ビジョン、バリューは、現場に行って直接メッセージを伝えなければ定着しません。これを人に振ってはだめで、社長が自ら現場に行って話すことが非常に大事です。私は社長を6年間務めましたが、タウンホールミーティングを70回行いました。月1回、全世界のどこかの拠点で社員を集めて、なぜKANDOなのか、その拠点の皆さんに何を期待しているかを話し、現場と対話を続けました。ありとあらゆるところでKANDOという言葉を出し、行動で示す。フレーズを作っておしまいではなくマネジメントチームが毎日語って文化にしていく。それに3年はかかりましたね。
横澤 3年ほどかかるのですね。
平井 はい、3年ほど経つと、例えば予算審議でテレビ事業本部が「来年度はブラビアでこういうKANDOを提供したいからこのバジェットにしました」と言えるようになってくる。3年もやり続けると、さすがにこれは大事らしいぞとみんなギブアップするんですよ(笑)。マネジメントチームの皆さんが日々それを語り、問い続けることが必要です。
横澤 私も「最高の保険体験を届ける」というスローガンを1年間言い続けているのですが、あと2年は続けなければいけないということですね。
平井 そうですね。あとはマネジメントチームが毎日語ることも大事です。
情熱のマグマを引き出す――ランチョンミーティングという場
横澤 社員の情熱のマグマを見つけ出し、組織全体に伝えるためにどのような工夫をされましたか。
平井 情熱のマグマは、社員とのコミュニケーションの中で感じるものです。私が重要視したのはランチョンミーティングで、10人から15人ほどのさまざまな社員を集めて、テーマを設けずに「なんでもいいから言ってくれ」と話を聞く場です。現場の皆さんがどう思っているかを知らないと経営できないと感じていたので、これを大切にしていました。また、11万人の社員全員とコミュニケーションすることはできないので、ランチョンミーティングの参加者にプロモーターになってもらう効果もありました。
「平井さんに話を聞いてもらった、ちゃんと議論してくれた」という声が現場に広がることで、そういうリーダーなんだという環境が作られていきます。夏祭りには必ず行っていましたね。そのときには役員全員に短パンで来なさいと言ったり、社員と交流したり、オフィシャルなイベントも含めてどう交流するかにかなり時間を割いていました。これは社長にしかできない仕事だと思っていましたから。
ネアカであること――逆境でこそリーダーの顔が問われる
横澤 マイナスなことが起きたとき、リーダーはどうあるべきだとお考えですか。
平井 社員はリーダーがどうリアクションするかを見ています。売上が目標に届かないとき、株価がよくないとき、そこで暗くなったり、一日中ぶつぶつ文句を言ったりすると、そのレベルの人間だと思われておしまいです。ネガティブなことが起きたときに、それを跳ね返すくらいのネアカさと前向きな姿勢を見せられるかが大事です。
最初の3年はひどい赤字でしたが、そのときでも「悔しい、でもソニーを再生するのは私たちだから頑張ろうよ」と言えるかどうか。「俺は悔しい」と怒ったまま帰るのかでは、全部違いますから。どうプレゼンテーションするか、ということです。横澤さんはどうでしょうか?
横澤 私はもともとはネアカではないのですが、従業員から常に見られていると意識しているので、背筋を伸ばし、なるべく笑顔を作り、言葉もポジティブなものを使うよう気をつけています。リーダーとしてやっていくと姿勢が整ってくるので、後天的にネアカになれるのではないかと感じています。
次世代リーダーへ――管理職を「やりたい」と思わせるために
横澤 最近の若手社員には「管理職になりたくない」という人も多いです。次世代を担う社員に向けて、マネジメントの醍醐味や面白さについてメッセージをいただけますか。
平井 まず、前任者が暗い顔をしていたらやりたくなくなりますから、トップが明るく、次のレベルの皆さんも楽しそうに仕事しているのを見せることですね。そうすれば、リーダーシップで世の中を変えることにチャレンジしたいという社員も出てくると思います。これはもうトップが模範を示して、それが下まで落ちていくしかない。そして、責任あるポジションに就いたらそれなりの報酬やベネフィットがきちんとある、ということも重要だと思います。
AI時代のリーダーシップ――人格とEQがますます問われる
村井 AI時代のリーダーシップについてお考えをお聞かせください。
平井 AI時代のマネジメントがどうなるかとよく聞かれますが、人の上に立って人を引っ張るという行為は、やはり人間にしかできないことだと思います。どんなに素晴らしいスピーチでも「by AI」と言った瞬間に社員はがっかりしますから。そういった意味で、より人格で仕事をすること、EQが高いという要素がますますリーダーには求められる時代だと思います。
横澤 今日お話しいただいたリーダーシップの発揮の仕方や、社員の情熱のマグマの生かし方は、ぜひ参考にさせていただきたいと思います。
ライフネット生命の目指す未来
村井 最後に、第2の創業をテーマにお話ししてまいりましたが、改めて、ライフネット生命をどのような会社にしていきたいですか。
横澤 ライフネット生命は2008年に開業して、ネットで申し込めるようにすることで人や店舗にかかる費用を抑え、お手頃な保険料で保障をお届けしてきました。
そこから大きな技術革新がない状態が続いていましたが、昨今は、AIやマイナンバー制度といった社会インフラ・テクノロジーが進化してきました。この進化を活かし、マイナポータルの医療情報を連携することで保険加入時に告知漏れを防止する、給付金支払い時も診断書取得等の請求の手間を減らすなど、「ネットで入る保険だから、むしろ安心できる」と思っていただける真の「デジタル生保」として、最高の保険体験を届けていきたいと考えております。
