アジア最大級の規模を誇る、サムソナイト・ブラックレーベル銀座店を貸し切って行われた特別な一夜。週刊文春WOMAN連載「はたらく私」特別編として、ジェーン・スーさんがその才能を見出し、世に出るきっかけを作った文筆家の伊藤亜和さんをお迎えし、旅・仕事・キャリアの築き方について語り合ってもらった。
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──お二人の出会いから対談をスタートさせたいのですが、その前に、スーツケースやビジネスバッグが美しくディスプレイされた会場にちなんで、最近行った旅行先について聞かせてください。
ジェーン・スー(以下、スー) 私は韓国です。それこそ、機内持ち込みできるスーツケースでビューッと行って、美容医療を受けて、美味しいご飯を食べて、ビューッと帰ってきました。
伊藤亜和(以下、亜和) 私は昨年、20年ぶりの海外で、台湾に行きました。
スー 台湾は次の旅先の有力候補。
亜和 私は来年、父の故郷であるセネガルに行きます。
スー そういえばこの間、お父さんが帰国すると聞きました。
──お二人には、サムソナイトに関連するご家族のエピソードがあると伺っています。
スー 私は大人になって父のサムソナイトのスーツケースを借りるようになったんですけど、暗証番号「326」のおかげでようやく父の誕生日を覚えられたんです。
亜和 実は我が家にも、夫が中学の修学旅行のときに買ってもらったサムソナイトのスーツケースがあります。
──お父さんとのことを書いたnoteをスーさんが目にし、X(旧Twitter)で紹介したことが伊藤さんが文筆家としてデビューするきっかけだったそうですね。
亜和 岩の裏にいた私を見つけていただいて。
スー 虫じゃないんだから(笑)。
亜和 スーさんの紹介で、フォロワーが1万人以上増えましたから。
スー 私は一つのきっかけでしかなく、才能がある人は見つかりさえすれば世の中が放っておかないというお手本のような例ですよ。
──伊藤さんは文筆家として注目を浴びる以前、さまざまなアルバイト経験があると聞きました。
亜和 焼き鳥屋やケーキ屋などバイトはたくさんしました。いちばん長く続いているのは大学入学直後に始めたバニーガールです。
スー まだ続けてますか?
亜和 週1回だけですけど。
スー 経済的なことだけなら、辞めても生活はできるでしょう?
亜和 そうですね。今はバニートレーナーとして、子うさぎのトレーニングをしています。
スー 彼女から聞くバニーの話がすっごく面白いんです。でも、現役だと書けないことが多いから、辞める日を心待ちにしています。
亜和 私にはどの話題も当たり前になり過ぎていて、何が面白いのかわからないですけど……。
スー いつか絶対に本にしてね。
亜和 そうですね。自分の持っている言葉で書くことで新鮮に読んでくれる人がいるはずなので、いつかは書いてみたいです。
スー 亜和ちゃんは、もう4冊の単行本を出したんでしたっけ?
亜和 最初に約束したものを必死に書いて、絵本を含めて5冊の本を出させていただきました。
スー デビューから2年ちょっとで5冊はかなりハイペース。
亜和 今よりずっと物知らずな状態で、バーッと書いてここまで来てしまいました。人生の中で自分のテーマになっていたことを使い果たすのに2年かかるのかなって。ここから先、新しく考えていかないとな、とは思っています。
スー 書きたいことが〝降りてくる〟なんて絶対にないから。学校の社会の授業で、「胡麻の油と百姓は、絞れば絞るほど出るものなり」って習ったでしょう? 年貢を徴収する領主のあくどい格言として。あれを自分に課して、ここからは絞り出していくしかないんです。
ボーイズクラブと気付けなかった
──近年、フェミニズムが社会に浸透してきましたが、依然として男女格差があるように感じます。スーさんは35歳まで会社員を、伊藤さんは数々のアルバイトをされてきた中で、性別が理由で仕事のやりにくさを感じたことはありますか?
スー いま思い返せば、会社員時代にはそこそこ嫌な思いをしていたと思います。当時は自分の実力不足だと思っていたけど、それだけではなかったとわかったのはかなり後からですね。「今年の新卒女性社員は勢いがあっていいね」と口では言うけど、数年後に腹心にするのは男性社員ばかり。私が女性だからボーイズクラブから外されていただけだったと、当時は気付けませんでしたが。
亜和 私は性別の前に見た目で判断されることが多いのと、鈍いから「今、なめられてたよ」と周りに言われてから気づくタイプで。
スー なめられてるのがわかったら、どう対処するんですか?
亜和 今はまだ、私に落ち度があったのかなって考えちゃいます。
スー 世の中には、女性というだけで過度にくだけた態度を取る人が一定数いるので、自分のせいばかりだとは思わないほうがいいかも。サービス業でも、中年の私にタメ口で話しかけてくる年配の男性がいますけど、私が中年男性だったら、そんな口の利き方はしないだろうなと思いますよ。
亜和 一部の方ではあるけれど、私も遭遇することがあります。
スー タメ口で聞かれたら、「うん、そう」ってタメ口で返すようにしているんです。相手はギョッとして、話し方を変えてきます。言葉は悪いけど、女の人は社会で無料のコンフォートゾーンとして扱われがちだな、と思うことがあります。電車のロングシートで女性と女性の間、男性と男性の間に空席があったら、女性の隣に座る男性は少なくない。物理的に広いほうに座るのかもしれないけれど、座られたほうは狭くなる(笑)。
亜和 無意識でしょうけど、女性をコンフォートゾーンだと思っているからこその行動ですよね。
スー 相手が女性なら親しくして良いと思っているのか、同性には取らない距離感で話しかけたり。男性にこの話をしても「信じられない」と言う人もいます。同じ世界にいても、見えている景色が違うんだなと思う瞬間ですね。
評価軸をドライに考える
──連載「はたらく私」の読者からは、自分は会社に必要とされている、会社にとって大切な存在であると実感できないというお悩みをいただくことがあります。
スー それは、すごく繊細な話。というのは、会社の規模を問わず、大切な存在だと思わせることで、社員をコントロールしている会社が少なからずあるんです。難しいことだけれど、「会社に必要とされている」という価値基準は、最優先事項からは外したほうがいいと私は思っています。「はたらく私」でも書いたように、労働とはお金を稼いで生活をするためだけの行為ではなく、誰かの役に立つことで社会に自分の居場所をつくる行為。
亜和 以前モデルをしていたとき、同じ人種の同じくらいの背丈の人たちと一緒に一つの部屋に集められることがたびたびあって、すごく削られたんですよね。自分の代わりがいくらでもいる、自分の中身を試されている場じゃないと感じることが嫌で、モデルの仕事をやめました。
スー 亜和ちゃんのように、自分の気持ちに忠実でいることは大事ですよね。会社をすぐには辞められない人は、そこはドライに考えて、会社の評価軸が何かを調べてみるといいです。数字に表れる成果やスキル、集団における協調性といった評価軸をカバーしながら働いていれば、会社は文句を言ってこないから。
──今はSNSなど他人からの評価が気になる世の中ですが、お二人は世間から自分がどのように見られているかとか、例えば、エゴサをすることはありますか?
スー 常に、エゴサですよ(笑)。でも、私はテレビに出ないというキャリアを選んだし、今は大きな露出もないから、エゴサしても悪口も面白いコメントもそんなに出てこない。亜和ちゃんは、今、いっぱい出てくるでしょう?
亜和 はい。だけど、いいことも悪いことも、自分の話をされているのを見るのが好きなので、X、Threads、Bluesky、2ちゃんねる、隅から隅まで見てます。
スー 亜和ちゃんから仕事の相談をされることはほとんどないのに、こちらから聞き出して勝手にアドバイスをするんです(笑)。テレビでの露出は「慎重に」とは伝えていたんだけれど、結果的にはテレビとの相性がよかった。『news23』と『サンデージャポン』の両方に出演しているのなんてこの人くらいですよ。
亜和 そうなんですか!?
スー テレビに出た途端、SNSであれこれ言う人が爆増するけど、彼女は強く出られる人。
亜和 毅然としていられます。
スー 本人の前で絶対に言えない言葉をポストした人に対して、この人は「もういっぺん言ってみろ」ってリプライ(返信)する。
亜和 その人がどんな人なのかに興味があります。
スー 私なんて、ごくたまに引用するくらいなもんです。ただ、腹の奥底に、怒っているぞ、という思いはしっかり持っていますけど。
亜和 ははは(笑)。
スー 最近はXくらいしか見ないけど、雑誌連載についてのコメントがいちばん嬉しい。
亜和 確かに、連載って誰が読んでくれているのかが見えにくいですもんね。
――本誌夏号では「何者って何?」をテーマに書いていただきました。
スー さっき読み返したら、まあ、くどい(笑)。「何者かにならないと社会から取り残される」みたいな風潮があるけど、それは、何者かにならなきゃいけないと思わされているだけだから、ということを7千字使って書いていて。
亜和 すごい!
スー SNSは、人間の存在価値という、本来なら市場化できないものを数字で可視化しましょうと人を煽ってきます。旅先の絶景というプライスレスな体験を投稿したら〝いいね〟がついて、その数で自分に価値がついたように見えるでしょう?
亜和 いいね欲しさに旅先で写真を撮っている人もいますからね。
スー そうです。でも、いいねの数が多いほど価値があると思わされているだけだから。不特定多数の他者からの承認よりも、自分の感覚を研ぎ澄ませて行動したほうが、人生はずっと楽しく過ごせる。
亜和 確かに。
スー Podcast番組「ジェーン・スーと堀井美香の『OVER THE SUN』」のリスナーにはお馴染みのヘアメイクのリカさんという方は、バカンスのために生きていて。年に3カ月くらい休んで一人で海外に行くんです。我々と一緒で、発注があって成り立つ仕事の人は、長期休みは怖い。だけど現実は逆で、リカさんはバカンスに行くようになってからのほうが仕事がうまく回り出したんですって。
亜和 なんだかわかる気がします。
スー 誰の人生にも、他者からみたらユニークで話を聞きたくなることがあるんだと思います。
亜和 私も友人の話を聞いて、思わず「書け!」と言うことがあります。一人ひとりに物語がありますものね。
スー そう! 山賊と海賊の間に生まれたとかじゃなくても。
亜和 銀貨2枚で取り引きされた人生でもなくても。
スー 誰でもきっかけさえあれば、身近な面白エピソードがゴロゴロ出てくるはず。みんなバンバン自分のことを書いたほうがいい。
亜和 スーさんは、これから新しく始めたいと思ってることはありますか?
スー これから先の人生は、いかに自分を飽きさせないかがテーマですから。地味なもんですよ。新しいことももちろん大事だけど、いちばんは、仕事の精度を上げることを諦めない、手を抜いたものが世の中に出ないようにすることかなって。
亜和 なるほど、納得感があります。
スー 飽きたらすぐに辞めて転職していた私が、いちばん長く続いているのが今の仕事だから。書くことは好きだし、仕事の精度を落とさずにいられれば、他のやりたくない仕事をやらずに生きていけるでしょう? それが、私にとっては超重要だから。
ジェーン・スー
1973年、東京生まれ。TBSラジオ「ジェーン・スー 生活は踊る」、ポッドキャスト番組「ジェーン・スーと堀井美香の『OVER THE SUN』」、「となりの雑談」のパーソナリティとして活躍中。『貴様いつまで女子でいるつもりだ問題』(幻冬舎)で第31回講談社エッセイ賞受賞。他の著書に『介護未満の父に起きたこと』(新潮新書)、『ねえ、ろうそく多すぎて誕生日ケーキ燃えてるんだけど』(光文社)などがある。
伊藤亜和
1996年、神奈川県生まれ。文筆家。note掲載のエッセイ「パパと私」がSNSで注目を集め、同作を収録した『存在の耐えられない愛おしさ』(KADOKAWA)でデビュー。著書に『変な奴やめたい。』(ポプラ社)、絵本『モプーはヘンダ』(KADOKAWA、絵:出口かずみ)など。ラジオ・テレビ出演など幅広く活動。第19回(池田晶子記念)わたくし、つまりNobody賞受賞。最新刊は「現代の魔女」をドラマティックに描いたエッセイ集『魔女になりたい』(文藝春秋)。
INFORMATION
サムソナイト・ブラックレーベル 銀座フラッグシップストア
サムソナイト・ブラックレーベルのアジア最大級となる旗艦店。「和」のコンセプトを取り入れ、253平方メートルの店舗面積を誇る。
同店では、9月25日(金)から、店頭のショーウインドウに「はたらく私」とコラボレーションした特別装飾が10月下旬まで登場。店内では連載初回から最新回までの各回の内容を紹介するパネルが展示されるほか、サムソナイト×「はたらく私」コラボレーションステッカー( 全3種)を配布。ぜひ銀座に足を運んでみては。東京都中央区銀座3-4-12文祥堂銀座ビル1階 TEL 03-6263-2099

はたらく女性のためのビジネスバッグも充実
INFORMATION
毎日の通勤に使いやすいトート
しなやかに、力強く歩む女性の毎日に寄り添うハートマンの「アルヴァーノ トート」。グレイとブラウンが溶け合う洗練の「トープ」は、どんな装いにも馴染み、ビジネスシーンに柔らかな品格を添えます。光沢感あるナイロンに上質なイタリア製レザーをあしらった気品ある佇まいは、PC収納などの高い機能性をスマートに内包。単なる「道具」ではなく、キャリアを重ねる彼女たちの確かな「パートナー」として、手にするたび自信と美意識を呼び覚まします。59,400円(税込)
INFORMATION
日常に静かに寄り添うバックパック
今日を凛として歩み始める。多忙な日々を送る「はたらく女性」の日常に静かに寄り添い、確かな歩幅を共にするのが、『オードリナ バックパックデラックス』です。知性を漂わせる色彩に、上品な輝きを放つライトゴールドの金具が洗練された品格を添えます。15.6インチのPCを美しく収める高い機能性と、心まで軽やかになるような優れた携行性。単なる道具としてのバッグを超え、彼女たちの挑戦と選択を支え続ける、人生という旅の最良のパートナーです。33,000円(税込)
文:今富夕起
写真:平松市聖(文藝春秋)
ヘアメイク:藤原リカ(ThreePEACE、ジェーン・スーさん)
小夏(XICO Inc、伊藤亜和さん)
スタイリング:宮崎真純(likkle more)
ジェーン・スーさん
シャツ¥39,600(HERALBONY) その他スタイリスト私物
伊藤亜和さん
ワンピース¥79,200(CFCL) その他スタイリスト私物