企業が刻んできた歴史は、これからの未来を導く轍となる。企業の成長の裏にあるドキュメンタリーをお届けするシリーズ「未完の轍」。第6回目は、「北海道のブドウ農家とともに、道産のブドウで道産ワインをつくる」という信念を貫く、親子三代のストーリーをお届けします。
「国産のブドウを使わずに国産ワインと言えるのか」。輸入原料であっても日本国内で加工・瓶詰めすれば国産ワインとして扱われていた1970年代、一人の男が私財をなげうって自家栽培ブドウによるワインづくりに乗り出した。それが、北海道小樽の醸造所、北海道ワイン株式会社の創業者 嶌村彰禧だ。
常識にはない豪雪地帯でのブドウづくりに挑んだ彰禧と社員たちは、40を超える品種の苗木を輸入して試行錯誤を繰り返す。未開地の悪条件や雪害、獣害に苦しめられた末にようやく編み出したのが、苗木を斜めに植えて冬期は雪の下に寝かせ、雪解けとともに人力で起こしワイヤーに結びつけて成長を促すという独自の栽培方法だった。
「大変な手間ですが、雪の下は外気より暖かいのでブドウも越冬できます。この方法で次第に畑も安定し、ワインづくりもドイツからマイスターを呼んで指導を受けたことで品質が向上して、ようやく事業が回り始めました」
そう語るのは、彰禧の長男にして現在の代表取締役社長である公宏だ。大学卒業後東京の金融系企業に勤務していた公宏は、苦況が続く家業の様子を見て北海道に戻ることを決意。ドイツに渡ってワインづくりを学んだ後、経営面で父を支える役割に就いた。
(左)同経営企画室課長 嶌村昌紘氏
※撮影のため、特別にヘルメットを外しています。
「自社農園だけでなく、取引があるブドウ農家の生活を守ることを父は何よりの使命としていました。ブドウあってのワインであり、農家あっての我々だと。市場の変化から引き取り手がなくなったブドウも農家に懇願されたらタンクを増やしてでも全部買い取るんです。資金繰りには苦労しましたが、そうしたことから農家との信頼関係が深まり、優れた作り手たちとの絆が生まれたのは何よりの収穫でした」
創業から50余年。現在北海道ワインは、総面積約447ヘクタールという広大な鶴沼ワイナリーなどを有し、日本ワインの最大生産量を誇る醸造所となった。二百を超える契約農家のブドウからは国際的なアワードを受賞するワインも毎年のように生まれている。
一方で公宏は、無人草刈りや防除といったスマート農業への取り組みや、病気に強く減農薬が期待できるPIWI品種(真菌耐性ブドウ品種)の栽培、ブドウの残渣を活用した機能性食品素材の開発など、息子の昌紘と共に日々挑戦を重ねている。それが、ブドウ農家の未来、そして自社のみならず北海道の全ワイナリーの未来に繫がると信じるからだ。
「従来通りのワインづくりという道しかなかったら、万が一その道が閉ざされた時にブドウ農家さんを守れないことがあるかもしれない。過去の轍に縛られず、ブドウの可能性を広げる新たな道を常に探していきたいと考えています」
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text:Yuko Harigae(Giraffe)
photo:Takashi Shimizu