日本特殊陶業は、自動車のエンジンの心臓部で火花を飛ばして燃料を燃やす部品「スパークプラグ」で世界シェアトップを誇る。2023年にはグループブランド「Niterra(ニテラ)」を掲げ、今年11月11日には創立90周年という大きな節目を迎える。自動車業界が電動化という大きな変革期を迎えるなか、今年4月に社長に就任した鈴木啓司氏は、次の100年の成長戦略をどう描くのか。主力のスパークプラグを生産する日特スパークテックWKS二野工場(岐阜県可児市)で話を聞いた。
聞き手●村井 弦(文藝春秋PLUS編集長)
スパークプラグとともにあった90年
――今年4月に社長に就任されました。創立90周年という節目の年に経営の舵取りを担うことになり、どのようなお気持ちでしょうか。
鈴木啓司社長(以下、鈴木) 想像以上の重責があるのはもちろんですが、それ以上に、この歴史と我々が今置かれている環境を愉しみながら経営に邁進しているところです。最近、海外を含めたいろいろな拠点を訪問していますが、どの従業員も、このビジネスで世界ナンバーワンのシェアを取ってきたというプライドをすごく感じますし、そのプライドを胸に新しいビジネスに向かっていくぞという意気込みも強く感じます。
――90年という歴史をどう捉えていますか。
鈴木 当社の歴史は、主力のスパークプラグとともにありました。酸素センサなどセラミックスを基軸とした内燃機関用の部品で、自動車メーカー様を通じてお客様と、この内燃機関を支えてきた90年間だったと捉えています。ただ、歴史の後半では半導体事業など新規事業にも存在領域を広げてきました。この90年で培ったものを、次の100年につなげていきたいと考えています。
――自動車業界の変革期をどう見ていますか。
鈴木 ご存じのように、内燃機関を使ったモビリティは今後、電動化に置き換えられていきます。そうなれば、我々のスパークプラグや酸素センサは使われなくなる可能性がある。我々の会社にとっても、自動車業界にとっても、ものすごく大きな変革期です。これまで内燃機関で貢献してきた事業の軸を、ほかの製品や事業に少しずつ動かしていかなければならない実行フェーズに入ったと捉えています。
私は「第二の創業期」という言葉をよく使っています。今までスパークプラグで世界を輝かせてきたように、次の新しい事業で新たに世界を輝かせる。そんなイメージで取り組んでいます。
新たな成長分野は半導体事業
――90年の歴史で培われた、会社の強みは何でしょうか。
鈴木 大きな強みは2つあります。1つは、セラミックスという無機材料を操る技術力。もう1つは、内燃機関事業で長年培ってきた物流網や、我々が「顧客資源」と呼んでいるお客様とのパイプライン、つまりネットワークです。この技術とネットワークという両輪を次の事業に活用していくことを模索しています。
――昨年発表された中期経営計画について伺います。全体像はどのようなものでしょうか。
鈴木 策定にあたり、90年の歴史で我々が何をしてきたのかを振り返りました。それはまさに「地球を輝かせてきた」のではないかと。「地球を輝かせる企業」となるという長期ビジョンを、今後も内燃機関事業で継続していくのはもちろん、それ以外の事業でも具現化していこうという思いを計画に盛り込みました。
――新たな成長分野として、どこに注力していきますか。
鈴木 まずは半導体事業です。半導体製造装置向けにセラミックスを活用した製品を強くしていきます。もう1つは、環境・エネルギー分野。ここにも我々のセラミック技術を応用した製品を広げていきたいと考えています。これまで強みのあった領域にプラスアルファする形で、時代に合わせた事業ポートフォリオへと少しずつ変えていく。それをまさに進めていこうというのが、今回の計画の骨子です。
売上収益1兆円、営業利益2100億円という目標
――売上収益1兆円、営業利益2100億円という数値目標を掲げています。
鈴木 一見すごく高い目標に見えるかもしれませんが、我々が描いている成長戦略、特にまだまだ成長が続くモビリティ事業の成長と、先ほど申し上げた新たな領域の成長を掛け合わせれば、決して高い目標ではないと考えています。1兆円という数字が持つインパクトで、社内外すべてのステークホルダーの皆様にご理解いただき、そこへ向かってみんなで邁進していきたいです。
――計画を貫くキーワードは「事業ポートフォリオの最適化」ですね。
鈴木 はい。モビリティ事業では決して力を抜くわけではなく、内燃機関の製品にもっと投資をして強くしていきます。さらに、窒化ケイ素関連など電気自動車向け製品も拡大します。半導体事業や環境・エネルギー事業に関しても先行投資をしっかり行い、成長を促していく。内燃事業にあった軸足を、徐々に新しい柱のほうへ移し始めていくということです。
――EVシフトの波は少し弱まっているようにも見えますが、現状をどう分析していますか。
鈴木 EVの波は、5年から10年ほど遅れたのではないかと感じています。ただ、遅れただけなので、将来的に内燃機関事業を何かで置き換えていかなければならないという危機感が薄れたわけではありません。新車向けのスパークプラグは今後減少するかもしれませんが、交換用部品を扱うアフターマーケットの需要は堅調に推移します。内燃機関全体の勢いが少し弱まっても、まだまだ十分に戦っていける領域だと考えています。
今年7月にできた実証施設「N-Terrace(エヌテラス)」
――将来的に、内燃機関事業からの脱却を図るのでしょうか。
鈴木 内燃機関が完全になくなることはないと思います。電動車と内燃車、それぞれに良いところがあり、用途に合った使われ方で内燃機関も残っていくのではないでしょうか。我々は内燃機関の車を支え続けるつもりです。ですから、完全に移行するというよりは、事業の軸を少しずつずらしていくという考え方のほうが合っていると思います。
――新たな大黒柱となる分野はどこでしょうか。
鈴木 やはり半導体関連事業です。この中計期間の5年間で非常に大きく成長すると考えています。とはいえ、今の内燃事業を置き換えられるほどのサイズになるのは難しい。ですから、1本の大きな柱というよりは、複数の柱を立てる必要があると考えています。環境・エネルギー事業も、この中計期間の少し後になるかもしれませんが、柱の1つになりうる事業です。
――この二野工場に、今年7月にエネルギーマネジメントシステムの実証施設「N-Terrace(エヌテラス)」を新設されました。これはどういう施設ですか。
鈴木 再生可能エネルギーの最大活用と省エネルギーを実現する、最先端の施設です。工場で使う電力を、太陽光発電、電力会社からのグリッド電源、そしてセラミック技術を活用したSOFC(固体酸化物形燃料電池)という3つの電源を組み合わせて、最も効率の良い電気を使うための実証を行っています。
――具体的には、どのようにマネジメントするのでしょうか。
鈴木 施設内のAIが、どの電気を使うと一番効率がいいのかを判断しています。例えば、太陽光は天候によって発電量に波がありますし、グリッド電源は時間帯によって料金が変動します。SOFCは火力発電よりも高い効率で発電できます。これらをどう組み合わせれば最も安くて効率が良いかをAIが管理し、工場に電力を供給する仕組みです。
――なぜ、この二野工場に建設したのでしょうか。
鈴木 二野工場は、我々の工場の中でも自動化やDXが進んだ先進工場です。ここで当社グループの技術であるSOFCを用いてCO2排出量を削減していくことには大きな意義があります。また、将来のエネルギー事業を見据えた実証という側面もあります。世界に目を向ければ、電力網が十分に行き渡らない場所に工場があるケースも少なくありません。そうした場所で、当社グループのSOFC技術によって電力を地産地消で供給できるというのは、非常に大きな意味を持つと考えています。
スパークプラグとセラミック技術で世界を輝かせてきた
――こうした新たな挑戦を実行していく上で、人材や組織づくりについてはどうお考えですか。
鈴木 会社は人で運用されています。新しい技術を作るのも、それを上手に売るのも人です。これまでの当社の成長は、定められたことを正しく実行できる人材が支えてきました。しかし、事業ポートフォリオを最適化し、新しい事業に飛び込んでいくためには、自ら考えて道を切り拓いていけるプロフェッショナルの割合をこれまで以上に増やしていく必要があると考えています。
――100年、そしてその先の未来に向けて、どのような会社にしていきたいですか。
鈴木 この変革期を乗り切ることができれば、社内にチャレンジできる風土が醸成されていくはずです。事業の柱は1本ではいけません。複数の柱を立てていくためには、チャレンジできる人間と正しく実行できる人間をうまく混ぜ合わせ、育てていく必要があります。そういった人たちがともに仕事をし、ともに成長の喜びを感じられるような会社にしていくことが、これからの10年、20年で必要だと考えています。
――最後にメッセージをお願いします。
鈴木 我々はこれまでスパークプラグとセラミック技術で世界を輝かせてきたという自負があります。今後、事業の形は変わるかもしれませんが、我々がやることは変わりません。それが我々の存在意義です。ステークホルダーの皆様にはそこに期待していただきたいと思いますし、我々のコア・アセットを活用した事業展開の過程を、ぜひ楽しんで期待していただきたいと考えています。
※このインタビューは、2026年9月17日に行われました。実際のインタビューの内容はこちらからご覧いただけます。