探検家・角幡唯介さんの4年以上にわたる壮大な旅が完結し、出版された『極夜行』が、「Yahoo!ニュース|本屋大賞 ノンフィクション本大賞」を受賞しました。この賞が掲げる「ノンフィクション」の定義とは、「世の中で起きた『ほんとうのこと』を見聞きして、物語にすること」。なぜ角幡さんは人生をかけて太陽が昇らない「極夜」の世界へ自ら足を運び、旅したのでしょうか。単行本の担当編集者が、角幡さんに現在の心境を聞きました。

授賞式での角幡唯介さん ©文藝春秋

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こんな変わった人がいる

 角幡唯介という作家を知っているか?

 彼はこのたび、「今までで一番うまく書けた」という作品『極夜行』で、「Yahoo!ニュース | 本屋大賞 2018年ノンフィクション本大賞」を受賞した。そう、あの全国の書店員が選ぶ「本屋大賞」のノンフィクション作品に与えられる新しい賞だ。

 今回初めて彼の名前を聞いた人がいるかもしれない。『極夜行』という名作を初めて知った人のためにもここにあらためて角幡唯介を紹介したい。

 こんな変わった人がいるんだということを。

世界最北の村、シオラパルク。旅はここから始まった ©角幡唯介

 角幡唯介は、常に命を懸けて探検をし、無事に生還するとライフル(だけではない)をペンに持ち替えて、巧みにノンフィクション作品を編み出して来た。

 これまで、チベット、ヤル・ツアンポー峡谷の地図上空白部分を調査して書いた作品『空白の五マイル』で、開高健ノンフィクション賞、大宅壮一ノンフィクション賞、梅棹忠夫・山と探検文学賞を受賞、次作『雪男は向こうからやって来た』で新田次郎文学賞、『アグルーカの行方』で講談社ノンフィクション賞を受賞した。

 ノンフィクション界で、若くして短期間にこれだけの賞を受賞した作家は、彼の他にいないだろう。

 今年2月に発表した『極夜行』は、極夜という、北極における太陽の昇らない4カ月を一匹の犬と旅した探検をまとめたものだ。原稿用紙650枚もの原稿を書き上げた後、角幡は編集者に「うまく書けた」と言ってそれを渡した。旅そのものはコントロールのできないことだらけだったが、帰国後パソコンを前にして思うのは、自分が感じた恐怖、不安、飢餓感をどうやったら伝えられるか、暗闇を照らす月の美しさやありがたさをどうすれば表現できるか、ひとつひとつ確実なコントロールのもと書き続けた結果、「最高傑作」が出来上がった。

©角幡唯介