森林は「パンツを脱いでいる以上、僕は白ではない」と言う。「だけど、白寄りのグレーでいたい、という気持ちは強くなってきました。胸を張れる仕事ではないけど、罪を犯しているわけじゃないので。業界全体も、生き残っていくために限りなく白にしていこうって動きはあります。だけど、黒寄りのグレーの人は、グレーはグレーなんだよ、白じゃねえんだぞ、っていう風に取り込もうとしてくる。まだそういった人も少しはいますね。それでも、現場は整備されてきていると感じます」
モザイクの“こちら側”で自分にできること
森林は、男優としての自分は「パフォーマー」なのだという。「男優は、見せるセックスを求められて、それに応える。僕らがやっているのは、楽しむセックスとは違うんです。その仕事でお客さんが喜んでくれたらもちろん嬉しいですけど、それは自分発信ではないんですよね。だから、自分から何かを伝えたり、創りだしていきたい、って思いは強くなってます。調子に乗るなって否定されることもありますが、そんなことも含めて何か新しいものが見つかるんじゃないか、って」
今、森林は新たな挑戦を始めている。「モザイクの向こう側ではないところで、性に関することを片っ端からやっていて。性教育をやったり、性の講演会や個別相談をやったり。出張ホストだけはやってないですけど(笑)。何かしらの形で、性が人間にとって本質的なことなんだ、っていうことを伝えて、もっと探求していきたいなって思っています」
「どっかで親孝行したいって気持ちもあるんです」
そんな森林はインタビューの終盤、微かに苦笑しながら、呟くようにこう言った。「でもね、自分の中で、どっかで親孝行したいって気持ちもあるんです。昔みたいに、テストでいい点取ったよ、って。それでお母さんから『すごいね』って言ってもらえるような、そういう親孝行をしたいって気持ちもあって」
小学校時代の思い出を振り返る際に、森林は「先生に反抗して、親ごと呼び出されたことがあるんです」と語っていた。「黒板で使う大きな三角定規で、忘れ物をした生徒を殴る先生がいて。それで僕は体罰だ!って叫んだんですよ。そしたら体罰じゃない、教育だ、とか言われて、言い合いになって結局親が呼び出されたんです。それで、お宅の教育はどうなってるんですか、みたいな。でも僕の親は、うちの子は間違っていないと思います、と。これでいいんだ、自分が思ったならそれでいいんだ、って言ってくれたんです」
中学受験で大人たちを喜ばせた12の春から、28年。“自傷行為”で飛び込んだ世界で才能と努力が認められ、1万人の女優とセックスしたAV男優。エリート街道を突き進む同級生たちを横目に、「グレーな世界」でもがきつづけてきた森林原人を今日まで支えてきたのは、もしかしたらあの日、隣に座る両親が力強く伝えてくれた、そんな優しい言葉だったのかもしれない。
撮影=杉山秀樹/文藝春秋