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少年野球“お茶当番”への母親たちの怒りと苦しみ――筒香嘉智に届いた手紙

2019/12/26
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午前7時から真っ暗になるまで続く練習

 手紙を渡してくれたときにこんな話をしたが、筒香が球団とシーズン中は原則としてグラウンド外の取材は受けない約束をしていたこともあり、すぐに記事にすることはできなかった。そこで周囲の取材をしていると、同じような声が少年野球の現場のあちこちから聞こえてきたのである。

 神奈川県横浜市の青葉区少年野球連盟・菊池侃二会長の元にも、ある野球少年の母親からこんな手紙が届いていた。

 小学校5年生の子供を持つその母親は土、日曜日の午前、午後と練習があり、いずれも午前7時にはグラウンドに集合して真っ暗になるまで練習が続くと伝えている。そのため子供が疲弊してしまっている現状に「親としてはもう少し余裕を持ったスポーツ活動ができないものかと考えています」と訴える。

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©文藝春秋

「楽しかったはずの野球が一部の野球マニアのものに」

 しかしそうした環境の改善を阻んでいるのが、「勝ちにこだわり過ぎる熱狂的な指導者の方と一部の家族」なのだという。その上で「子供にスポーツをさせたいと考えるお父さんやお母さんはたくさんいます。しかしグラウンドに見学に来てくれた親は土、日すべてが潰れること、家族でのお出かけが全くできなくなること、少しの勉強時間さえも確保できなくなる現状を知り、結局は入団はしてくれません」と勝利至上主義や指導者の独善が野球の裾野を広げる弊害になっていると訴えた。

「楽しかったはずの野球が、いつの間にか、一部の野球マニアのためだけのものになっています。“怒鳴られながら厳しい練習に耐えることが野球道だ”などと言っていては、他のスポーツとの差は、ますます開いてしまいます」

 この手紙を見せてくれた菊池会長も、こうした少年野球を取り巻く現状を憂い、何とかしなければならないと動いている一人だ。

「いまだに監督がふんぞりかえってお母さんたちをアゴで使うようなチームがある。とんでもないことです。子供が野球をやりたいと言っても、最終的に子供に野球をやらせるかどうかを決めるのは、9割がお母さんだと思います。父兄、特にお母さんたちの負担が大きく敬遠される環境では、野球の裾野を広げることは絶対にできない」