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2位『僕らには僕らの言葉がある』「ろう」を受け入れる球児

『僕らには僕らの言葉がある』既刊1巻 詠里(KADOKAWA)

 

【あらすじ】高校でキャッチャーを務める野中宏晃の前に現れた、“ろう”のピッチャー相澤真白。彼の投球とともに、心も次第に受け止めていく宏晃。高校生球児たちの間に交わされていく等身大のキャッチボール。

オグマ 2位は『僕らには僕らの言葉がある』。聴覚障碍者である「ろう者」のピッチャーを取り上げた作品で、単行本1冊にまとまっています。

ツクイ これまで『フジマルッ!』や『松井さんはスーパー・ルーキー』といった女性野球選手を描いてきた詠里先生の作品だったので、男の子同士のバッテリーにスポットを当てたのは意外でした。

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オグマ 2巻以降もあるようなら将来性も含めて1位でもよかったのですが、1巻のみのようなので、今回は2位にさせてもらいました。実際、続きも描けそうな内容なんですが……。

ツクイ 普通に描けそうですよね! 耳が聞こえないというと、野球マンガの世界には『遥かなる甲子園』という名作があって、困難&克服のイメージが強いですけど、こちらはもっと現代的というか、健常者であるキャッチャーの野中宏晃が素直に受け入れていく様が胸を打ちます。

オグマ 野中くんのアプローチは自然で偏見もなく、よかったですね。ドラマ化も出来そうだなと思いました。昨年3位だった『2番セカンド』もそうですし、今回、選ばれた3作品に通じることかもしれませんが、「野球が自由にやりたくてもできない」というのは昨今、通底するテーマなのかなと思いました。

1位『オール・ザ・マーブルズ!』女子野球の美しき進化系

『オール・ザ・マーブルズ!』既刊3巻 伊図透(KADOKAWA)

 

【あらすじ】少女の頃からピッチャーの才能を見せ、男子に交じってリトルリーグで投げる草吹恵。その才能はやがて周りを引き込んでいき、彼女をさらなる高みへと連れていく。女子野球マンガに開かれる新たな1ページ!

ツクイ はい、それでは今年の1位は『オール・ザ・マーブルズ!』です!

オグマ オー、オール……『オール・ザ・マーブルズ!』。このタイトル、覚えにくいですよね。

ツクイ ええ、野球を連想させる単語が何もないですからね。「ボール」とか「ナイン」とか「球団」「バット」「ストレート」などなど。さらに、表紙のタイトルがどこにあるかわからないぐらい小さいから、書店で見つけにくいという……。

オグマ でもツクイさん、伊図透先生にインタビューされたんですよね? タイトルの意味とか、聞かなかったんですか?

ツクイ ああ、そうだった。ええっと……。『オール・ザ・マーブルズ!』はもともと『全速力の。』というタイトルだった。しかし、それだと検索にかかりづらい。ゆえに『オール・ザ・マーブルズ!』にした。意味は、英語の隠語で「死にものぐるいの」「一発逆転」的なものだとのことでした!

オグマ 検索のかかりづらさは変わらないような……。ともかく、中身についても言及していきましょう。一番の魅力は、描写の美しさですよね。主人公の草吹恵が水のなかにいるような動きがたくさん出てきて、見たことがない野球表現になっている。

ツクイ 『野球狂の詩』の水原勇気とは、また別の女性らしさで投げているんだよね。柔らかいけど力強いオーバースローという。あとは「理に適った動き」ができると、スムーズな動作が可能になることなどを表現しているのかなと。

オグマ 女子野球とソフトボールの問題を描いているのも新鮮でしたね。

ツクイ 高校以上とか、ある一定のレベルの女子野球を目指す子は、必ずこの問題を通っていると思うんだよね。ソフトボールにするか、女子野球にするか。ソフトボールの友だちを残して、自分だけ女子野球に進めるのか。そして、女子野球に進んだ後、将来はどうするのか。むしろ「何でいままで取り上げなかったの?」っていうぐらい、重要な問題だよね。

オグマ 女子野球を取り上げた作品もいっぱいあるんですけどね。

ツクイ ただ女子野球マンガは大きく分けて2パターンしかない。男子のなかにひとりだけ女子が混ざっているパターン。もうひとつは、可愛い女子が集まって、とりあえず「いま」だけを目一杯、楽しんでいるパターン。『オール・ザ・マーブルズ!』はそのどちらでもない、女子野球をもっとロングショットで捉えた作品だと思います。

オグマ じつは今回、珍しく1~3位まで意見が合いました。今年はもうこの3作で決まりですね。

ツクイ そうですね。最後に、『オール・ザ・マーブルズ!』の表紙のタイトルが読みにくいといいましたけど、デザインはすごくいいです。存在感もあって美しいので、ぜひデジタルではなく紙の単行本で読んでほしいです。

オグマ では来年もお会いしましょう! ありがとうございました!

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