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『ダイヤのA』より面白い作品は登場するのか?…決定「この野球マンガがすごい! 2023」

文春野球コラム オープン戦2023

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 毎年必ずやっているが、どこでやっているかは曖昧だ。野球界とマンガ界のすき間を漂う「流浪のコンテンツ」が、今年は文春野球にやってきた! 野球マンガ評論家のツクイヨシヒサと、「水島新司評論」の顔役であるオグマナオトが贈る野球マンガの最前線分析。これさえチェックすれば、いま読むべき野球マンガがわかる! 

(文&構成:ツクイヨシヒサ)

©AFLO

『ダイヤのA』終劇が与えた衝撃

ツクイヨシヒサ(以下、ツクイ) いやー、今年も無事に開催できましたね。

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オグマナオト(以下、オグマ) ありがたいことです。で、早速ですけど野球マンガ界全体の印象はどうですか? 僕は何となく「本格派」が少なくなってきたような感じが……。

ツクイ それはもうズバリ『ダイヤのA』が終わったからでしょう! この1年間がどんな年だったかといえば、やっぱり『ダイヤのA』が終了した年。「本格派」の柱が消えた年ですよ。

オグマ 「週刊少年マガジン」で『ダイヤのA』を読めることが、ここ10年以上の単位で、野球マンガ界の屋台骨になっていましたからね。

ツクイ 主人公の沢村栄純が1年生の無印、2年生の「act II」と来て、まさか「act III」に行かないなんて! 中途半端に出続けていた、ライバル扱いの巨摩大藤巻・本郷正宗とか、どうするんだっていう!

オグマ まあ、だから『ダイヤのA』は結局、正捕手を務めた御幸一也のマンガだったということですよ。最後が稲城実業との試合だったというのも、稲城実業にいる御幸世代との因縁に決着をつけるという形になっていますから。あとは『スラムダンク』と一緒で、自分なりのピークを描けたからというのもあったんじゃないですか。

ツクイ そうなんでしょうね。いまは野球マンガに限らず、連載が長くなりがちだから。例えば、『ダイヤのA』の寺嶋裕二先生が「体力のある若いうちに、野球マンガ以外が描きたい」と思ったら、どこかで連載を手放さないと新しいジャンルに手が出せなくなる。まあ、もしそうだったとしても、歳を取ってからでいいから、「act III」は絶対に描いてほしいけど。

『ダイヤのA act II』既刊33巻 寺嶋裕二(講談社)

オグマ 『ダイヤのA』という大きな柱がなくなったことで、勢力図はどう変化するでしょう?

ツクイ 大きく見れば、今よりもっとニッチなものが増えて群雄割拠になっていくと思う。そこから新たな柱が残っていくんじゃないかな。適当な例だけど、「未来野球もの」なり「懐古もの」なり。現状、連載しているもので「本格派」といえば『ブンゴ』なんだけど……。

オグマ 本来はそうですよね。ただ、主人公のブンゴたちが現状のシニアのままなのか、高校へ進学していくのかで、作品の立ち位置が変わりますよね。作者ご本人は早く高校野球をやりたいようですけど。

ツクイ 僕はね、『ブンゴ』のなかにある「too much」な部分が好きなので、純粋な「本格派」になるのはどうかなと思っているのね。野球はしっかりやりつつ、過剰な言動を繰り返しているのが『ブンゴ』という作品。おかしなことをいっている主人公に、ライバルも本気でおかしな返事をして、ベンチにいる連中もそのおかしさを許容したまま、コントのように話が脱線していく、みたいなね(笑)。

『BUNGO―ブンゴ―』既刊34巻 二宮裕次(集英社)

オグマ ちなみに、ほかに気になっている作品はありますか?

ツクイ 『バトルスタディーズ』がここに来て、にわかに気になっているね。いっても、最初はPL学園のネタで話題になって、次は一枚絵のうまさで注目された。そこからなぜか、よくわからない「ポエムマンガ」になっちゃって、これは厳しいかなと多くの人が感じたと思う。でもね、いまは描写もセリフもキャラクターもすごく読みやすくて、いい意味でマンガっぽい。

オグマ 作者は元甲子園球児ですから、野球の知識やプレイに関しては信頼できる作品ですね。

『バトルスタディーズ』既刊35巻 なきぼくろ(講談社)

ツクイ もうひとつは、昨年2位にランキングした『イレギュラーズ』。こちらは、いわゆるキャラ人気で上を狙っていくタイプの作品だね。で、巻数を重ねてきて、ようやくメンバーの個性が噛み合ってきた感じがする。女性にも人気が出そうだと思う。

『イレギュラーズ』既刊7巻 松本直記(講談社)

オグマ この辺りが次の柱になれるのかどうか。注目したいですね。

3位『4軍くん(仮)』大学野球マンガの成功を求めて

『4軍くん(仮)』既刊2巻 原作・森高夕次、漫画・末広光(集英社)

【あらすじ】猛勉強の末、池袋大学に入学した荻島航平。この合格によって、都心6大学リーグで野球ができると思った彼だったが、練習初日にいい渡されたのはまさかの4軍行き。最下層から始まる大学野球の行方とは!?

オグマ では本題に入って、今年のベスト3を発表していきましょう。まず第3位は『4軍くん(仮)』です。

ツクイ 『グラゼニ』シリーズや『江川と西本』などで知られる原作者・森高夕次先生の新作ですね。書店でも1巻から平積みや面出しにされているところが多くて、目にした人も多いはず。

オグマ 1巻は確かに面白かったんですけど、ちゃんと大学野球を描く気があるのかが少し心配です。

ツクイ 僕は逆だ。1巻の合コンや就職活動といった大学ならではのネタをもっと盛り込んで笑わせてほしいのに、2巻から急に厳しい野球の話になってしまって残念な気がしてる。

オグマ コージィ城倉(=森高夕次)先生は、過去に『ロクダイ』で6大学リーグを描くも不完全燃焼。にもかかわらず、また「都心6大学リーグ」を舞台にするところに、大学野球への並々ならぬ思い入れが伝わります。

ツクイ 大学野球は正直、誰もうまくいっていないジャンルだからね。対戦相手が5チームのリーグ戦というのが、まずマンガにしづらいし。今回の『4軍くん(仮)』に関しては、マイナス点とプラス点をひとつずつ感じている。マイナス点は、タイトルに「(仮)」と付けたところ。おそらく「4軍からだんだん上がっていくよ」というニュアンスを出したかったと思うんだけど、どうも中途半端な印象を受ける。プラス点は女性キャラが可愛いところ。森高夕次先生の原作作品は、女性キャラが微妙……というのが定番だったけど、今回の末広光先生は女性も野球もうまいので安心。

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