母譲りの波瀾万丈の人生を送ってきた。50代なら少しは落ち着くかと思いきや、一段と思いがけない展開の連続だ。なかでも、おそらく誰にとっても予想外の展開だったのがコロナのパンデミックであり、私の母もその犠牲になった。

 

 コロナはそれまで日本とイタリアを行き来する生活だった私を長く日本に足止めすることになり、私の興味が向く先も、仕事の仕方も、夫婦の形も変えることになる。そして昨年は、もうひとつの大事な命との別れがあった。

ヤマザキマリさんの連載は『週刊文春WOMAN』に掲載。年4回刊行

 15年ほど遡るが、漫画家の私にとって最も大きな人生の転換を導いた波濤は、1匹の猫によって齎されたような気がしてならない。

「その猫は北朝鮮を経由しますか?」

「北朝鮮?」

「品物が北朝鮮を経由する場合、海外送金はできません」

 旅先の沖縄の郵便局でこうしたやり取りの末、猫の代金をポルトガルのブリーダーに送金し、生後1年にも満たないベンガル猫の仔猫ベレンが我が家の一員になった。私が41歳、ポルトガルの首都リスボンに住んでいた当時のことだ。

イタリア・パドヴァの自宅で。つま先立ちで窓外を眺めるベレン。

 その直後、マイナーな漫画雑誌で連載していた『テルマエ・ロマエ』を1冊にまとめたものが、担当編集者を含む大方の予想を裏切って増刷に次ぐ増刷を重ね、翌年にマンガ大賞と手塚治虫文化賞短編賞を同時受賞し鉄腕アトムのトロフィーをいただいた。阿部寛さんの主演で実写映画化も決まり、世界中で翻訳本が出版された。

 このヒットを機に漫画連載のオファーが殺到し、毎月4~5本の締切に追われる私を、ベレンはいつも3メートルほど離れたところから眺めていた。

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source : 週刊文春WOMAN 2025春号