〈うまくできずに(手術を)そのまま続行して、わからないうちに患者さんの尿管と膀胱をズタズタに切断してしまって〉
〈(別の医師に)『あんたやって』という感じで、勝手に手術室から出て行ったこともありました〉
〈生命への畏敬の念が一切感じられません〉
目を疑う言葉が並ぶのは、東京地裁で係争中のある民事裁判の陳述書だ。2023年秋に提起されたこの訴訟の舞台は、病床数904床を誇る総合病院、東京医科大学病院(新宿区)の産科・婦人科。この科に所属する50代後半の“名物女医”のA医師が、同科トップの主任教授B医師に手術を執刀させてもらえないなどパワーハラスメントを受けたとして、B主任教授と東京医科大に対し、1000万円の損害賠償を求めて訴えていた。

原告は「ロボット手術に長けたエース女医」
「A先生は、1993年に医師免許を取得したベテランで、同科が力を入れている『ロボット支援手術』の名医として有名でした。ロボット支援手術は、『ダヴィンチ』などの医療用ロボットを使い、患者の体に小さな穴を開けて行う術。傷口が小さく、患者への負担も少ないことが特徴です」(医療ジャーナリスト)
体の深部に病巣がある婦人科とも相性が良いとされ、子宮筋腫などに対する手術法として、ロボット手術は近年急速に普及している。
「東京医科大は、2009年に国内1例目の婦人科領域でのロボット支援手術を成功させて以来、業界を牽引する権威。A先生も、2019年の『週刊ダイヤモンド』の調査で婦人科ロボット支援手術の執刀数が、“名人”と呼ばれる倉敷成人病センターの安藤正明氏に次いで2位にランクインするなど、評判の高い医師です」(同前)

訴状によれば、A医師はB主任教授に「2022年1月、午前の外来診療及び手術を行わせないことを一方的に告げられ」、執刀した手術数は75件(17年)から13件(22年)にまで激減。B主任教授から「手術の妨害」を受けたことなどが、差別的な処遇であり、パワハラに当たると主張していた。
日本を代表する名門病院で、ロボット手術に長けたエース女医のキャリアが潰されかけている……そんな裁判の構図が浮かび上がる。ところが――。
自爆的に主張された“危険すぎる実態”
対決姿勢の彼女を待っていたのは、被告となったB主任教授や東京医科大からの“猛反論”だった。社会部司法担当記者が語る。
「医科大とB主任教授は、A医師に手術を禁止したことは、医療の安全の観点からむしろ『必要かつ相当な処置』だったとして、彼女に手術を禁ずるに至った経緯を反論。同僚や元同僚などの『陳述書』も次々に提出し、同科がこれまで直面したA医師の“重大な医療事故”やパワハラ、様々な『患者の安全・医療の安全を軽視した』『医者として許されない』という行為の数々を、医科大側の視点から開陳しはじめたのです」
さらに弁護のため、医科大の手掛けてきたロボット支援手術の“危険な実態”を自爆的に主張する珍事に発展しているというのだ。一体、何が起きていたのか。
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source : 週刊文春 電子版オリジナル