サンピエトロ広場に集まる群衆が固唾を呑んで見守るなか、システィーナ礼拝堂の屋根から静かに「白い煙」が立ちのぼる。その約1時間後、サンピエトロ大聖堂のバルコニーに新教皇は姿を現した。秘密選挙「コンクラーベ」の結果、第267代ローマ教皇となったのは、史上初のアメリカ出身、ロバート・フランシス・プレヴォスト枢機卿(69)。教皇名は「レオ14世」だ。

 奇しくも、現在公開中の映画『教皇選挙』が、今年度アカデミー賞で脚色賞を受賞したばかり。日本でも満席続出で大ヒットとなっている。映画では枢機卿らによる謀議が迫真的に描かれているが、現実のコンクラーベ(現地時間5月7日〜)でも思わぬドラマがあった。バチカンで取材していた日本大学国際関係学部の松本佐保教授が話す。

映画の興行収入は8億円を突破(映画の公式SNSより)

中国の信者を狙った最有力候補

「今回のコンクラーベは2日目(5月8日)の午後に決まった。少なくとも決定は3日目になると予想されていましたが、早くも白い煙が出ました。関係者の間では、最有力候補のパロリン枢機卿が選ばれたに違いないと言われていた。ところが、バルコニーから顔を出したのはプレヴォスト枢機卿だった。現場では『え、誰だろう?』と、どよめきが起こったほどです」

システィーナ礼拝堂から「白い煙」が

 バチカンの国務長官(首相に相当)を務めていたパロリン氏。前教皇フランシスコの路線を継承しつつ、「外交の達人」と評価されていたという。一体、なぜ下馬評は覆ってしまったのか。

「2日目以降、パロリン氏の票がプレヴォスト氏に流れていったと見られます。パロリン氏は中国との関係改善に熱心だったこともあり、『中国寄り過ぎる』と懸念されたことが影響したのでしょう」(同前)

 バチカンと中国の関係は決して良好ではない。バチカンは台湾(中華民国)と1942年から外交関係を維持する一方で、中国とは51年から断交状態にある。

「高位聖職者である司教を、中国側とローマ教皇のどちらが任命するかを巡って長く対立していました。司教の任命権は本来、ローマ教皇が自由に持つ権限です。しかし、前教皇フランシスコが就任した13年以降、中国においては任命権を実質的に譲渡している状態でした」(同前)

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source : 週刊文春 2025年5月22日号