よい依存と悪い依存を分けられるわけではない。そして依存症は時代と共に姿を変える、時代を映す「鏡」である――。近年のストロング缶の流行と、市販薬依存やODの急激な増加から見えてくるものは何か? 依存症臨床の第一人者である信田さよ子が解説する。

依存症の基本について

 本連載のタイトルにある依存症は、アディクションとも嗜癖とも呼ばれることは繰り返し述べてきた。ここで改めて、依存症に関する基本的なことを押さえておきたい。

 よく誤解されるが、依存そのものや、依存することは悪いことではない。また、よい依存と悪い依存があるわけでもない。しかし、依存の結果はさまざまだ。依存すれば、いいことも悪いことも起きるからだ。わかりやすくメリット・デメリットでとらえるならば、依存によって起きるデメリットが、依存によって起きるメリットを上回るところから問題が生じる。つまりデメリットのほうが大きいにもかかわらず、特定の物質の摂取や行動をやめたり、頻度を減らしたりすることができない状態が依存症なのだ。日常生活や心身の健康、人間関係などに問題が起こっていても、依存対象の物質の摂取や行動をやめることが難しい。これを精神医学的に「病気」としたものが依存症(アディクション)である。正式な診断名は、アメリカ精神医学会のDSM(精神疾患の診断・統計マニュアル)に拠っており、その改変に伴って1970年代から呼び方がさまざまに変遷してきた。今では、正式には依存症ではなく物質使用障害やギャンブル障害などと呼ばれるようになっているが、ここではわかりやすく依存症に統一している。

 病気とされる依存症だが、人間関係に問題が起きるという点が大きな特徴である。中でも家族関係は大きなポイントだ。生活をともにする家族がいちばん大きな影響を受けてしまうのだ。アダルト・チルドレン(AC)という言葉は、今から半世紀近く前にアメリカで誕生した言葉だが、アルコール依存症の親のもとで育った子どもたちがどれほど深い影響を受けるか、そして成人してからの人生が生きづらいものになってしまうかを表している。もちろん配偶者が受ける傷つき(さまざまな被害)は言うまでもない。

 メリットとデメリットは客観的に測定などできない。あくまでも主観的な指標であり、本人と周囲(家族)では受け止め方も大きく異なる。たとえば依存症者が飲酒はメリットしかないと思っていても、周囲にとってはデメリットでしかないという相反状態は当たり前である。

 おおざっぱに分けると、依存症の種類は、手に取って確かめられる物質を対象とする「物質依存症」と、物質ではないさまざまな行動を対象とする「非物質依存症」の二つがある。

 疾病として認められているのは、物質依存ではアルコールと薬物、非物質依存ではギャンブルとゲームだ。この4つ以外にも、病気と認められてはいないが、ありふれているのがカフェインやニコチン依存症などである。非物質依存としては、インターネット、買い物、窃盗、セックス、過食・拒食などの行動がある。

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source : 週刊文春WOMAN 2025夏号