3大メガ損保の一角、MS&ADインシュアランスグループホールディングス(東証プライム上場)は今年3月、傘下の三井住友海上と、あいおいニッセイ同和損害保険の合併を発表した。2027年予定の合併を終えれば、保険料収入が年3兆円に上る国内最大の損保が誕生する。 そのあいおいニッセイ同和が2025年1月31日、熊本県の中小企業に対して民事訴訟を提訴していたことが分かった。この訴訟の経緯をみれば、火災保険の加入者は誰しも他人事ではない問題だと分かるはずだ。

あいおいニッセイ同和損害保険株式会社 ©︎共同通信社

 発端は2016年4月16日深夜1時25分、最大震度7を記録した熊本地震。住宅だけで20万棟以上が被災し、277人が亡くなった大惨事だった。

 阿蘇くまもと空港近くの工業団地、熊本テクノリサーチパーク内にあるシステム開発企業A社(伊藤敏男社長=仮名)の社屋も被災した。

 A社は1983年創業。土木工事積算システムの開発を主業として、売り上げは5億5000万円、従業員は45名。本社社屋は1996年、1500坪の敷地に建てられた鉄骨2階建てで、延べ床面積は300坪に上る。伊藤社長は今年77歳を迎えたが、新たに防災関連システムの開発に注力している。

 伊藤社長が振り返る。

「私は熊本市内のマンション8階の自宅にいました。自宅に居続けると危険なため、車で会社へ向かって、自宅と行き来しながら1週間ほど寝泊まりしました。深夜に社屋を見た時は“無事だった”と思いましたが、室内に入ると天井の一部が落ちていた。翌日には、外壁がひび割れ、継ぎ目に凹凸ができて、タイルが剥がれ落ちていることが分かりました。屋上へ上がると、コンクリートの台座の上に室外機が6台置かれていましたが、重さ10トンの台座ごと1メートル近くズレていました。相当揺れて、社屋が被災したことは明白でした」

H型鋼の組み合わせにズレが生じて建物が歪み、現在も雨漏りが発生(写真は震災直後)

 伊藤社長はすぐに、大手ゼネコンの熊本営業所に修繕費の見積もりを依頼した。このままでは従業員の不安が募って業務に支障が出るし、急がなければ修繕に長期間要すると考えたからだ。

 大手ゼネコンが出した見積もり額は2億1000万円。加えて建物の内装、空調設備なども修繕した場合は2億9000万円に上ることが示された。

 A社は、あいおいニッセイ同和の地震危険補償特約付き火災保険に加入していた。地震の場合は建物損壊数が多く、損害保険会社の鑑定人の査定が進まない。A社にも鑑定人が来なかったため、契約代理店を通じ、大手ゼネコンの2通りの見積書をあいおいニッセイ同和に提出した。

重さ10トンのコンクリート台座が1メートル近くズレた(写真は震災直後)

 ここから長い闘いが始まった――。

 あいおいニッセイ同和が初めて保険金の額を提示してきたのは、地震から1年11カ月過ぎた18年3月のこと。地震特約による保険金は被災額の50%を支払う契約であり、2億1000万円の見積もりを基にすれば保険金は1億500万円となるが、提示された金額はわずか2102万円だった。

「私が提出した見積書の項目を削りに削っていました。保険鑑定人の署名はありましたが、鑑定人は社屋を訪ねてこなかった。あまりに杜撰ではないですか」(伊藤社長)

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source : 週刊文春 電子版オリジナル