コメンテーターとして活躍する経済ジャーナリストの荻原博子さん。今の日本経済を分析し、「投資の前にやるべきこと」を提案する。

 投資を始める前にローンを返すこと。これが最優先です。30代や40代の方ですと、住宅ローンや教育ローンを結構な割合で組んでいるかと思います。投資は増えるか減るかわかりませんが、ローンの返済は総返済額が確実に減ります。

 例えば、今お家を買ったばかりの方が100万円を返すと、将来の総返済額は120万円ぐらい減ります。これが投資では、確実に100万円が120万円になるなんてことはないです。

 そして、ローンの返済が終わった方が次にやるべきなのは、年収分の現金を貯金すること。今の社会は定年まで確実に勤められるかわかりません。倒産やリストラのリスクに備えて、年収1年分ぐらい貯めておけば、失業保険を加えると同じ生活水準で2年ほど食い繋ぐことができます。2年あれば仕事探しには十分ですし、景気が回復している可能性もありますよね。「リスクに備えて投資をしておけばいいのでは」と思うかもしれませんが、会社が倒産したり皆さんをリストラしたりするのは、むちゃくちゃ不景気な時です。そういう時は投資商品の価値も下落しているわけです。だから現金で貯めることが重要なんです。

 

 ローンの返済と年収1年分の貯蓄をクリアして、余ったお金があるなら投資をすればいいんです。ただ、今は注意すべきポイントがいくつもあります。

 一つ目は日銀の利上げ。12月19日に利上げが行われました。株価はこの利上げを待って足踏み状態が続いていました。それが終わったばかりなので株価が乱高下するリスクがあります。

 二つ目はGDPの速報値発表。来年の2月16日に、10~12月の四半期別速報が出ます。その前の7~9月の値を年率換算するとマイナス2.3%でした。高市政権誕生と株高の影響で金融経済は好調ですが、実体経済は決して良くないんです。その実体経済の目安になるのが、来年の春闘です。2月頃から労働組合と各企業の交渉が始まりますが、この景気で大きく賃上げできるとは考えにくい。そうなると不況感が一層強まります。また、2024年度の全国企業倒産件数は11年ぶりに1万件を超えました。実質賃金も今年の10月時点で10カ月連続のマイナスです。見方によっては今は不況の入り口とも言えるかもしれません。

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source : 週刊文春 2026年1月1日・8日号